第二章 第十一話
扉まであと数歩のところで、小月が話しかけてきた。
「デルタ君、さて、君はもう外しょくの組織の一員となった。どんな気分かね?」
「新たな世界が待っている気がします。が、いま引き留められたのでなんだかその世界が遠ざかった気がします」
胸の高鳴りが少し治まったのは事実だ。
「君の冗談はなかなか皮肉めいているな」
わっはっはと笑う小月。
「困っているしょくにんを、そして困っている人々を誠心誠意救ってほしい。期待しているよ」
そういって小月さんはドアまできて送り出してくれた。
「あ、サラ君に業務依頼や監督等を一任してるから、安心して活動してくれ。それじゃまた!」
ずいぶんついでのような言い方で重要なことを言う人だ。
そうして、俺は新たな人生の一歩を踏み出した。
ドアを開けても誰もいなかった。
「デルタさん、サラさんよりお託がございます」
そういって受付の女の人は俺を呼んだ。
「第一都庁を見学するから、都庁地下の広場で待っていてくださいとのことでした」
ふ、全く皆はいつも通りだな。
「ありがとうございます。あ、外しょくのデルタと申します。以後よろしくお願い致します」
そんな挨拶必要か?浮かれた俺はオフィスを背にして、地下に向かうエレベータに乗った。
地下でみんなと再会したのは1時間後だった。
「デルく~ん どうだった?」一番最初に声をかけてくれたのは元気よく駆けてくるのはユキだ。
「ふっじゃじゃーん!」エレベータ内で胸に付けたバッジを見せつけた。
「あれ、またデザイン変わったのね。ロージーのとも違うわね」
早速先輩風を吹かしながらサラから「そうこそ、外しょくへ」と言われて手を差し出された。
「よろしくお願いします。上司」そう言って手を握った。
「上司の使い方間違っているわよ」と早速先輩から指摘された。
少し遅れて「おいおい、部下のしつけぐらいちゃんとしろって」
とへらへら歩いてくるのはのぶながだ。
「サラ上司、家出していると思われるしょくにんを発見、保護します」
「初仕事ね、よろしい デルタ部下」
そう言って俺はのぶながの手を取った。
「俺かよ!すでに保護されているじゃないか!」
「デルタ、あとで報告書の書き方教えてあげるわ」
「シンジュク施設の A-R-790 身元確認完了」
「お前よく覚えてるな俺の番号!もう忘れちまってたぜ」
個体番号忘れて、この男はどうやって身分を証明するんだ。
「え~のぶのぶって790って番号だったの?変なの!」
「おいおいユキまで、勘弁してくれよ!」
なんてことない、いつもの4人の会話だ。
「さ、帰りましょうか。」
そうして部屋の方角へ歩き始めた。
「そういえばよデルタ。俺今日すげーもん見たんだよ!気になるだろ?」
「まあそういわれて気にならないとは言えないよな」
「実はな、第一都庁の地下で、武器庫と弾薬庫を見たんだ。特別にサラが入れてくれた!」
そんなところを見学させていいのかいサラさん。
「なにかくすねてないだろうな?」
「そんなことするかい!泥棒は犯罪じゃねぇか!」
お前にもそんな良心があったんだなと感激した。
「でもサラ、そんなところ見せても大丈夫なのか?」
「いいのよ、しょくにん保護のために銃火器の携帯は許可されているし、申請すればだれでも入れるから。
まあ、当然出入りするときはボディチェックされて危険物を没収されるけどね」
暴れて暴発でもすれば付近は一気に戦場と化すだろう。
「あ、てことは外しょくになった俺も銃火器の所持が認められるってことか?」
これは少し興味がある。何かあったときは自分で自分の身を守らなければ。
「残念ながらまだ無理ね!実技と筆記試験にパスしないと携帯は許可されないわ」
それは残念だが、今後のモチベーションになるかもしれない。
「戦前、日本で銃火器を手に入れるなんてほぼ不可能なんて言われたけれど、
今ではお金さえあれば誰でも手に入れられる時代になっちゃったから、そこまで珍しくもないのだけどね」
日本も銃社会になったと言われてはいる物の、地下での発砲はご法度。
正当防衛が認められない場合、ほぼ極刑になるという。
地上での発砲は一部エリアを除きお咎めなしだが、当然無法というわけではない。
撃たれてもいい者だけが撃つことが許されるなんてよく言ったものだが、当然被害者が出ればそれなりの刑罰がある。
ただし、発砲禁止エリア外でのしょくにんへの発砲は適応されない。
これは法の抜け穴らしいが、詳しくは俺も知らない。今度調べてみよう。
「そういえば、明日ロージーが泊まりに来て、明後日その足でのぶながと一緒に旅立つって連絡あったわよ
ってあ、デルタ!渡すの忘れてた!」
サラがリュック出したのは。「はい、あなたの通信端末よ」
「びっくりした。護身用のハンドガンでも渡されるのかと思った。」
「そんなこと知れたら私はお尋ね者よ」
それは銃刀法ではなく、窃盗に等しいとか。財団の持ち物だからだ。
「全く、小月といいサラといい、いかにもついでみたいな形で重要なことを伝えるのは止めてくれ」
この端末はいつもサラが誰かに連絡を取るときや、部屋の鍵を開けたりするのに使っている物だ。
少し違う形をしているが、似ているので間違いないだろう。
「いいなぁデルタ、かっけえなぁ」
「党の運動に参加するのに持っていないと不便よ?のぶながも早めに手に入れたほうがいいわよ?」
「え?そ、それどこで手に入るんだよ?」
「デルタに渡したのは外しょく専用の支給品よ、あなたたちが言っている”地下デパ”にも売っているわよ?普通に」
「まじ?帰りに買いに行っていい?」
三人はOKサインを出した。
「よーしユキ。俺も仕事が決まったからな、ユキ、お前のも買ってやる!」
そういって胸を叩くのぶなが。
「え、私もっているわよ?子供用だけど」
といって可愛いうさぎのキャラが書かれた端末を出してきた。
「し、しらなかった」
「え、お前あれだけユキと一緒にいて知らなかったのか」
のぶながの肩をとんとんと叩くデルタ。
「ロージーおねえちゃんの連絡先も知ってるよ」
といってさらに見せつける。
「え、なんで俺だけ…」
それはなのぶなが、お前が他人を見ていない証拠だぞ。
いや、見ていないのは俺も一緒だ。彼の興味関心に気が付けなかったからこうなったんだ。
そうして帰りにのぶながも端末も買った。ただ、新規開通手続きがあるので使えるのは3日後らしい。
その日のうちに連絡先交換をしたが、のぶながの情報の登録が完了する時にはすでにのぶながはいない。
だが、この端末で繋がると考えたら少しホッとした。
明日はのぶながとロージーと俺の新たな門出を祝ってささやかながらも盛大にパーティーをする。
のぶながとの最後のひと時を噛みしめておこう。
そう思いながら、目を閉じて静かに眠りについた。




