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第二章 第九話


サラの部屋に帰るころにはおそらく夜中になっているだろう。

まだ太陽は真上にあるが、五合目につく頃には、富士山は真っ赤に染まる時間帯だろう。

「さ、帰りましょうか」サラはそう言って広げていた荷物をまとめ始めた。

「すまん、ちょっとだけ休憩、腹ごしらえしたい」そうして俺たちはおにぎりを注文した。


休憩している間、二人は一言も会話をしなかった。

サラが二人の違和感に気が付いたのは再出発して5分ほどの事だ。

これは深刻ね…何かあったわねあの二人「ちょっとあんたたち。ケンカでもしたの?」

「まさか?」/「いや?」 デルタとのぶながは即答した。

「え、だってさっきから一言も喋ってないじゃない。とくにのぶなが、あんた様子がヘン」


「俺はデルタ大好きだし、かけがえのない家族だ。」

「俺ものぶなが大好きだし、家族というか兄弟というかなんだろう…お前俺にとってなんなんだっけ?」

「おい、そりゃないぜデルタ。俺達、相思相愛じゃないか」

その言葉にお互い嘘偽りはない。ただ、違う道を歩むことを認められていないだけだった。


「デルタ、お前はまだ知らないだけなんだよ。自由の素晴らしさってやつを」

「のぶなが、お前はまだ味わったことがないだけなんだよ。喜びがどれほど心を満たしてくれるのかってことを」

お互いがお互い、なぜわかってくれないのか、理由がわからなかった。


「のぶなが、俺はでも感謝しているんだ。外に出れてよかった。外の世界を知れて良かったんだ」

「デルタ、お前がいなければ脱走は不可能だった。ついてきてくれて本当に助かった。感謝してるんだ」

「でも」/「でも」

「のぶなが、お前の提案は現実的じゃない」/「デルタ、お前の提案がわからない」

二人は顔を合せずに喋った。


「ちょ、ちょっとちょっと こんな場所でケンカしないで!」

サラは二人の間に入りお互いの肩を叩いてなだめた。

「え?ケンカしてないよ」デルタとのぶながはサラに言った。

「お互いが違う道を歩むことに納得していないだけだ」

そうしてのぶながはサラに告げた。


「サラ、今まで本当に世話になった。俺は活旗党の運動に参加して、ロージーと一緒に旅立つことにした」

4人は足取りを止めることなく下山を続けている。

「頭のかてぇあいつは参加してくれないようで、外しょくに入るらしい」

そうか、のぶながはそっちの道に行くのか。サラにはなんとなくわかっていた気がした。

ロージーと性格が似ているところがあった。


「サラ、俺たちが頂上で話したことを話そう」

そうしてデルタは富士山のイタダキで交わした会話をサラに伝えた。


「私はロージーには言えなかった、だけどあなたの事は全力で止めたいんだけど、

一緒に過ごしてきてあなたの事が少しわかった。あなたは絶対に行くのよね?」

「ああ、絶対だ。決めたことだ」

それを聞いて一番寂しく思うのはおそらくユキだろう。


「のぶのぶ…出て行っちゃうの?」

「ああ、ユキ 俺は俺の夢を追いかけて旅に出るんだ。お前も連れていきたいが、もう少し大きくなったらだな」

「そう…行ってほしくないなぁ本当は…」

それもそのはずだ、ユキとのぶながは本当に仲が良かった。

精神年齢が近いのか、馬が合うのか分からないが、とにかく距離感が近かった。

誰が見ても実の兄妹のように見えるだろう。もちろん顔は似ていない。


「デルくんも…そのうちどっかいっちゃったりするのかな…」

「俺は…たぶんいかない…と思う…というのと、サラがいてもOKと」

断言はできなかった。のぶながの気持ちが理解できなくもない事はわかっていたからだ。

だが、現実的な判断じゃない。俺たちの幸せはそこにはないはずだ。





「まあ、とりあえずあいつは残るっていうからよ、あの堅物の面倒見てやってくれ」

「私のぶのぶ大好き!デルくんも大好き!」

俺は、その言葉を聞いて胸が締め付けられるような感覚が走った。

それは初めての感覚だった。

でも決心は鈍らない。むしろ強固になっていくのが分かった。

ごめんな。ユキ。

「またみんなで暮らせる日が来るといいな」

「あぁ、そうだな」そう言ってのぶながはユキの頭を撫でた。

「え、私は?」

「サラは、お母さん!のぶのぶとデル君はお兄ちゃん!」

そんなユキの笑顔を見て3人にも笑顔が戻った。


「はぁホント、一気に三人も子供を抱えて大変よ」

「おいサラ!のぶながはそうかもしれないが、なぜ俺まで子供扱いなんだ!」

「おい、この堅物はそうかもしれないが、俺が子供ってのはないだろサラ!」

「どっちもどっちじゃない」やれやれとサラはため息をついた。

なんてことない、いつもの4人の会話だ。


帰り道、くたびれているはずの俺達だが、これをきっかけに急に足取りが軽くなったように感じた。

そして夕方、真っ赤に染まる富士山に向けてお辞儀をし、車に乗って下山した。

疲れ切った俺たちは当日中の帰宅は間に合わず、途中のホテルで一泊してから帰ることになった。


その晩、ユキは寝言を言いながら涙を流していた。

きっと彼女の両親はもう帰ってこない。ユキ自身も受け入れつつあるはずだ。

そんななかまた一人家族がいなくなってしまうことにとてもショックを受けているだろう。

そんな姿を見てしまい俺は深く眠ることができなかった。


窓には昨日登った富士山が見えている。昨日、俺たちの運命が決まってしまったんだな。

昨日の事もあり疲れているはずだが深く眠れなかったデルタが見た時刻は5:30 とうとう起床した。

「うわ!の、のぶながなぜ起きてる」

なんと彼も起きていたのだ。ありえない。

「昼頃まで起きてこないと思ったぜ…って、な、何をやってるんだのぶなが!」

またもやデルタは目の前でありえない光景を目にしているのだ。

「おっす、お前も早起きだなデルタよ。いやな、これ、昨日富士山で見た時のよ、」

そう彼は。

「またのぶながが何か書いている!?」

「わりーかよ、俺が何か書いて、昨日の気持ちや感想を忘れないように書いてるだけだっつうの」

「今日の天気は雪か?大雪か?」

「おめーよ 少しは人の話を聞けって」

「でものぶなが、お前変わっていないように見えて、変わったな」

「そういうお前も前より頑固になったな」

不思議なものだ。お互いの信念は違えど、こうして笑いあえるのだから。


あと何日、いや何回4人の笑顔が揃うかわからない。

あいつは、俺は、いったいあと何回会話ができるんだろうか。

あいつがいなくて俺は上手くやっていけるのだろうか。

新たな生活へのカウントダウンは着実に時を刻んでいる。


そして明日、デルタは外しょくになるために、外しょくの東京本部へ出向く。





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