第二章 第六話
「ちょっくら出かけてくるぜ 服が破れたから買ってくるわ」
のぶながが外出するようだ。
「はいよ、気を付けてな サラには言っとく。富士山の件も聞いてみるぜ」
今日の当番はのぶながじゃないので問題ない。
「サラ、のぶながは出かけたよ 仕事、何か手伝おうか?」
今日は報告書をまとめる日だった。
「ありがとう もう少しで終わるから大丈夫。あ、やっぱコーヒー飲みたいわ」
「かしこまりました。お嬢様。」
お辞儀をして部屋から出ると、「お嬢様って呼ばれる歳じゃないわよ 」という声が飛んできた。
サラは仕事をひと段落を終えると休憩することにしたようだ。
「午後になったらまた行くわよ」いつものご奉仕業務ですな。
「サラ」
「ど、どうしたのそんなこわばった顔をして」
「お願い事が二つある」
デルタは意を決した。
「わかった。聞きましょう」
「一つ、俺とのぶながは富士山に登ってみたいんだ。なるべく早いうちに」
「え、富士山?」
「日本で一番高い山 富士山 俺ものぶながもあそこから日本を眺めてみたいんだ。」
「富士山か…電車では行けないから車で行くしかないわね。観光地だから多分さすがにハンターもいないと思うし、
襲われることはまず無いと思う。問題は車ね」
あれ、案外さらっと通ってしまった。
「財団から借りれないか相談してみるわ あとは私とユキの学校の休みが被れば問題ないわね」
「富士山って、汚染は大丈夫なのか?」
「汚染?何年前の話よ! 地球規模で見ればともかく、日本で汚染地域はごくわずかだわ 完全になくなってはいないけど」
おかしいな、施設で聞いていた話とはだいぶ違うが、まあ施設の職員が知らなかっただけなのだろう。
「そ、そうなのか それじゃ行けるんだな? よっしゃ のぶながが飛ぶように喜ぶぞきっと!」
「もしかしたらちょっとあなた達にもお金出してもらうかもしれないけど」
「サラに面倒見てもらってばかりでほとんどお金は使っていない 本当に助かっている 全額出してもいい」
「そこまで気を遣う必要はないわよ あなた達の肉もちゃんと分けてもらってるし売って生活の足しにしてるし」
「日取り決まったら教えてくれ!」 OKOKと答えるサラ
「で、もう一つってなにかしら?」
「俺達を外しょくに入れてほしい。」
デルタはとうとう言ってしまった。
「のぶながには聞くまでもない事かもしれないけど、
デルタ、施設にはよほどのことが無い限り戻れなくなるわよ?」
「実は少し悩んでいた時期があった。」
そう、俺にとっては施設で過ごすことが嫌な生活だとは思えなかったんだ。
「でも彼に外に連れ出してもらって本当に良かったと思っている。
そうじゃなければ自分の運命と出会えなかったかもしれない。」
「それは、、、私が聞いてもいい話なのかしら?」
「サラ 君に聞いてもらいたい。」
「初めて心に違和感を感じたのは、ユキを最初に助けた時だ。」
(え、何?も、もしかして、、、)こんな真剣な顔をしたデルタを見るのは初めてだった。
「もしかしたら俺は変になったのかもしれない。そんな感覚だった。」
「その胸の中を捏ねられるような この感覚はなんだろうって必死に考えていた。」
(これってやっぱそうよね、、、どうしよう 急に緊張してきた。)
「そしてある日わかったんだ。初めて湧き上がったこの感情の正体に!」
(サラ、覚悟するのよ。)
「俺は、しょくにんとして、人に食べてもらうことにこの上ない幸せを感じているんだ。」
彼は今日初めて胸の内を明かした。とても勇気のいる告白だった。
「ん…え?幸せ?」
「え?おかしいだろやっぱ?」
(コイツ…私の心の準備を返しなさい。)
「今まで3桁近いしょくにんと接してきたけど、そう考えるしょくにんもいたから別に変な事ではないわ」
「えっそうなの?俺だけがおかしいのかと思った」
「まあでも、人間にはあまり持ち合わせない感情かもしれないわね。」
食べられることが幸せ。それもそうだろう。おそらくしょくにん達にしかわからない感覚だ。
「でもね、私も作った料理をおいしく食べてもらうのはとても嬉しいわ。それに近い感覚なのかもしれないわね」
「なるほど、一理ある」
「で、それが理由?」
「そうだ!外しょくでこれからも人のために肉を提供したい。たくさんの人を助けたいんだ。」
「ふーんそう…」
「え、サラさん なんか怒ってませんか?」
「怒ってないわよ別に!」
(このおたんこなすめ 女心これっぽっちもわかってないんだから)
「でもまあ、あなたの気持ちは受け取ったわ。そう感じているなら本部に推薦状出すわ」
「ほ、ほんとか!?」
「当然いくつか条件はあるけど、しょくにんの入団を断る理由は特にないはずだわ」
「サラ!君と出会えて本当に良かった! ありがとう!」
(ホント何なのよコイツ!)
「のぶながの分と、二人分推薦状作って出しておくわ」
「待って!それは待ってくれ」
なにやら事情があるのかしら。
「あいつにはまだ相談していない。富士山の時に誘ってみるから、そのあとに推薦状を出してくれ」
「なんだ、二人で相談したのかと思った」
「のぶながもきっと仕事を手伝ってくれると思う。でも一番に君に相談したかったんだ。
俺たちが料理を平らげる、その様子をみてうれしそうな君の顔を見て気が付いたんだ。」
(な、なによホント 調子狂うわね)
「わ、わかったわ 今は車の手配ができるか相談してみるから、また後で日取りを知らせるわ」
「ありがとう 待ってる」
そして俺はのぶながの帰りを待った。
「ただいまー」地下デパの袋を手に持って帰ってきたのぶなが
「のぶなが!聞いてくれ!今度富士山いけるぞ!」
「まーじーか!聞いてくれたのかサラに! やったー!!!」
「俺達だけじゃなくて4人だけどな」
「それは構わねぇ!」
後日日取りが決まった。
車を借りるのは有料にはなってしまうが、格安で借りられたらしい。
ウキウキで迎えた出発の当日。
朝一から登るために、まだ太陽が昇っていない時間に出発をすることにした。
今日、のぶながの夢が一つ叶う。
そして俺はのぶながを外しょくに誘って、新たなしょくにん人生を歩むことになるのだ。




