04・潤う
水恵は化粧水のボトルを捨てようと、近所の川に投げ込んだ。ボトルは水面に沈み、波紋が広がった。ゆったりと不気味に広がるその円が、こんなんじゃ終わらないと言っているようで、水恵は息を呑んですぐさま背を向けて走り去った。
「こっ、ここまで遠い所まで来て捨てたのだから大丈夫……大丈夫よきっと――」
だがその夜、彼女の夢にあの女が現れた。女は全身から水を滴らせ、こう囁いた。「私の水を奪った…お前も水になれ…」水恵は目を覚まし、全身が濡れていることに気づいた。汗だと思ったが、微かに香る甘い香りにさっきのは果たして夢だったのか混乱し、恐怖で動けず一睡もしないまま夜を明かした。
窓から差し込む光にやっと落ち着いた恵水は、ベタつく身体を洗おうと風呂場に入る――っと鏡に目が止まる。彼女の肌は異様に白く、半透明になっていたのだ。鏡に触れると、指先が水のように溶け、鏡の中に吸い込まれた。「助けて!」と叫んだが、声はゴボゴボいうだけ、なんとか振り解こうと手に力を入れるが、まるで他人の体のように力は入らず、ゆっくりと、しかし確実に腕は鏡の中へ、やがて顔が――
「――ッツ」
握られた手のその先には、口端を吊り上げて笑っている女が居た。水恵の全身は、水泡になり舞い散り、鏡の前には、着ていた服だけが置き去りにされるのだった。