01・美の継承
「けいしょう……すい?」
美容品にしては、乾燥した肌を彷彿させる掠れたフォントデザインが印象的で、掠れすぎて文字もほとんど読めない。
「良いセンスしてるわね」
空っぽな新居に唯一からあった物、まるで次の入居者にサプライズプレゼントなのか、下駄箱の下の段の隅に隠すように置いてあったのだ。使いかけではなく、新品が。この部屋は二年も空き家だったにも関わらず、埃が付いていないのを見ると、きっと大家さんが用意してくれたのだろう。乾燥肌が酷く、ほとんどの化粧水を試しても解決できなかった私にとっては、見たことのない新商品は実にありがたいのだ。店にあるのは決まって同じ商品ばかりが故に、地獄にたらされた蜘蛛の糸のようにソレが光って見えた。
蓋を開けると甘い香りがふわりと優しく鼻の頭を撫でた。
「へ~いい香りじゃない、でも何か聞こえたような……気のせい?」
新たな化粧水に浮かれていた水恵は、そんなのも気にせず洗面台へ行くのだった。
無色透明な液体は、普通の化粧水のようだったが、ほのかに甘い香りが何処か高級感を感じさせる。コットンにしみこませて、顔にそっと押し当てると、ひんやりとした感触が肌に吸い込まれていくようで、口角が上がる。
「良いわねこれ」
こんなに艶のある肌を見たのは何年ぶりだろうか。鏡に映る自分の顔を満足して鼻歌が出るのだった。