寂滅ノ灯
お元気ですか。
あれからどれほどの歳月が経ったのでしょうか。思い返してみると、多くの思い出を心に刻めたと思います。
と、口にしてみても不思議なものです。あなたとは友達というには親しくもなかったし、戦友というには余りにも多く命を預けてきました。言葉で語るよりも、もっと適した会話ができないことを申し訳なく思います。
この手紙が届いた頃には、私は暗い闇の中に消えていることでしょう。あの万人を呑み込み、誰も這い上がることのできない暗闇です。私たちはあれに抗ってきたけれど、最期はあそこが終点であることを知っていた。けれど、だからこそ、私は一片も燃え尽きるまで果てのない闇を照らし続けようと思った。
かつて、多くの仲間たちがそうしたのと同じように。
この火は後世まで継がれるでしょうか。いいえ、関係ありません。私たちは未来のために火を灯したけれど、選択は後世の人々の心に委ねるべきだから。
どうか、後輩たちの新たな種が芽吹くことを願います。
──────────────無記名の手紙
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無機質で、赤と暗闇に包まれた静かな病室。機械音が耳に届くたびに、まだ一秒でも生きているのだと悟る。
時間も分からないほどに、変化のない病室が一つの警報で一気に慌ただしくなる。従業員の足音が廊下から響き、見えない場所でも人々の不安と恐怖がわかる。
私はベッドから起き上がって、患者用の服を脱いだ。本当はシャワーを浴びたり、髪を丁寧に整えたかった。でも、急いでいるから。鏡があればもう一度自分の姿を確認したかったような、でも暫く寝たきりだったし……寝癖とか付いてないよね?
高校の学生服、かわいいから選んだけど、結局学校で着る機会はなかったっけ。リボンとかも似合うと思って買ったのに。
死に装束かもしれない衣装が制服だなんて、まるで普通の女の子に戻ったみたいでおかしな気がする。でも、これが一番私らしいよ。
外に出れば、荒れ果てた大地が暗闇に染まっていた。その闇の中にギラギラとした瞳が浮かび上がる。
「あなたたち、進みたいなら灰になる覚悟はある?」
眦を釣り上げて、力を込めた手のひらの上に燃え上がる炎を見せびらかす。越えさせる? 冗談、そんなことさせるわけないじゃない。
大地は燃え上がり、空は赤く染め上がる。ベルトに括り付けた銃を取り出して数匹の獣を撃ち抜く。その隙に迂回しようとする敵の目の前には炎の壁が回り込む。波状攻撃のように勢いよく切迫してくる敵には腿にあるナイフで引き裂く。大丈夫、まだ燃え尽きるときじゃない。
夜明けは遠く、戦いは何も無い暗闇で抗う。希望は見えず、じりじりと燃える火がいつ灰に変わるのかと心に浮かぶ。
決して、幸福なだけな人生ではなかった。戦いが人生の大半だった。
けれど、戦う理由は戦うためじゃない。
あの思い出の中で、他愛のない会話も交わした約束も全部忘れられないもの。
それら記憶が、私に訴える。
私が戦わなければならない理由も、世界のあらゆる運命も関係ない。私はこの光に身を投じた。それが儚く、もう訪れないとしても、あの黎明を今でも思い出す。
負けない、負けられない。この戦いで命が潰えようとも。彷徨った人生の中で、見つけた大事なものを手放したりはしないから。
この願いが泡沫の夢に消えようとも、その余燼は夜を確かに灯したのだ。