09
先程の白いモンスターは倒したのかと、目を凝らすが、姿は見えない。
「手ごたえはあったけど、ゴーレムだしなぁ……」
めんどくさそうな表情をする明日葉が、何かに気が付いたように、視線を天井に向けた。
そこには、無数に生えてくる白い糸のようなもの。
先程、あのモンスターが現れた時と同じ現象だ。
「まぁ……そうだよなぁ……」
やっぱり、とばかりに、ため息をつく明日葉は、ボクを足を見下ろすと、刀の背で、体を軽く叩かれる。
「足。治さないの?」
「え、あ、そうだった……」
すっかり忘れていた足の修復をしようとすれば、うまく形が作れない。
「あれ……? おかしいな……」
いつもなら、簡単に作り直せるのに。
どれだけ力を入れても、ちぎれた部分が少し動くだけで、いつものように作り直せない。
「持ってて」
明日葉は、ボクの体に、持っていたちぎれた白い腕を落とすと、腰に差していたもうひと振りの刀を抜いた。
「待っ――」
顔を上げれば、天井だけではなく、壁からも生えてきているそれが、こちらに向かって来ていた。
「ゴーレムは、核を破壊しないと死なないんだよ。いつもなら、テキトーに切るんだけどさ」
『俺はもう知らないからな』
「だから、しないって」
眉を潜めながら、明日葉は振り返りと、迫る白い触手を切った。
「力任せに切れないから、とにかく切りまくるから、子供たちと後ろのいい感じの距離にいて」
いい感じの距離って?
というか、言ってること何も変わらなくない?
ツッコんだら負けなのだろうか。
「んで」
次から次へと迫る触手を切り落としながら、少しだけこちらに目をやる明日葉と目が合った。
「死ぬ気で子供たちを守って」
わかりきった答えを確認する明日葉に、頷き返せば、少しだけ目が優しく細まった。
「じゃあ、少し飛ばすね」
「うん……! うん……?」
飛ば、す……?
理解できないボクを置いてけぼりにしながら、明日葉は、一度大きく刀を振り、触手を切ると、すぐに片手で刀を二本を握り、ボクの体の下に差し込む。
「そぉぉぉい」
そして、気の抜けた掛け声とともに、ボクの体を投げ飛ばした。
「――――キミって人間はさァ!!」
やることを事前に言うとか、そういうことをしないのか!!
怒りたいことはあるが、視界に写った驚いた表情で、宙に浮いているボクを見上げる涼介に手を伸ばし、抱え込む。
そのまま、うまく背中から落ちたボクの周りに、心配そうな顔で近づいてくる玲たち。
「カーフ!? 大丈夫!?」
「大丈夫……大丈夫だよ」
ほんの少し、今は笑顔が作れてない気がした。
もちろん、足がないから、玲たちの場所まで飛ばしたのは、理解できる。
手はまだ無事だから、みんなが近くにいるなら、あの触手も手で防げる。
理解はできる。
できるけど……あとで、文句は言う。絶対に。
「あ、カーフ、これ……!!」
涼介の言葉に、体を見れば、涼介とボクの体の間に挟まっていた、白い腕が、落ちた衝撃でボクの体に埋まってしまったらしい。
「ごめん……! 痛くない? すぐ抜くから!」
掘り出せば抜けそうだが、ふと、先程襲われていた時の、引きちぎられる感覚が思い出される。
子供たちを狙うのではなく、ボクを狙い、体を奪うように引きちぎっていく様子。
そして、明日葉が持っていた、あのモンスターの白い片腕。
「待って。これ、使えるかも」
あのモンスターが、ボクの体を取り込めるなら、ボクだって取り込めるはずだ。
物体を取り込んだことは、今までもやったことはある。
やり方は同じ。
体の奥に白い腕を飲み込んで、体の中で細かく、引き裂くように、小さく、小さく分解して、飲み下していく。
「あぁ……」
小さな熱が宿る感覚。
壁から天井から、こちらへ迫ってくる触手に、腕を伸ばして、五人をまとめて腕の中に収める。
「ボクが守るからね。大丈夫」
彼らを守るように、覆い被されるような形へ変わる。
そして、背中から、こちらへ向かってくる触手に向かって、手を伸ばし、今度はこちらが引きちぎって、取り込んでいく。
「でも、少しだけ、目をつぶっててね」
きっと、今、ボクはさっきのモンスターと同じ顔をしている。
みんなには、見てほしくなかった。