表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はぐれものバディ ~村の子供に育てられたはぐれモンスターは、子供たちを助けるために、人間離れした兵士とバディを組みました~  作者: 廿楽 亜久
第5章 焼けた記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/52

13

 直後、呼吸を止めた明日葉のわき腹に、柔らかい何かが触れると、強い力で引き寄せられ、次の瞬間には、暗く狭い空間に押し込められていた。


「……へ?」


 状況が何もわからないが、揺れる狭い空間に、携帯の画面を明るくすると、目の前に、今朝作った人形と白い核。


「カーフだ……」

「ちょっと、大人しくしてて!」


 指先を、人形に触れさせた途端、全身から響く声に、明日葉は驚きながらも頷いた。


 どうやら、ここはカーフの胴体の中らしい。

 すごく揺れているが、少しひんやりとして、冷たくて、少し草木の匂いがする。


「ぁ……」


 気が付けば、明日葉は普通に呼吸をしていた。

 まだ少し目は痛むが、先程までのような、息を吸うたびに喉や肺が焼かれるような痛みはない。


 大きく、深く息を吸って、呼吸を整える。


「よし、もう大丈夫」

「バカなの!? 大丈夫なわけないだろ!!」


 カーフたちは、2階層まで戻ってきていたが、来た時よりもずっと溶岩が赤く輝いている。

 また姿は無くなっているが、ヴォルグレームスも、追いかけてきているはず。


「でも、ここから上には行けないよ」

「なんで!? 上に逃げたら、ビゼンだっているよ!?」

「でも、みんなが住んでた家とかもあるよ。だから、ここで決着をつけるの」


 1階層に戻れば、備前や他の隊員も準備してるだろうし、装備だって補充できるかもしれない。

 でも、それはヴォルグレームスを1階層へ連れて行ってしまうことで、少なくとも、先程までの町並みは壊れるだろう。


「毒ガスがないなら、余裕だし」

「そんなの、ボクはわからないもん」


 ボクは、人間じゃないから。


「息止めて、片目を閉じればいける」

「さっき、いけてなかったじゃん」


 変に自信満々で、根拠もない言葉。


「”三度目の正直”って言葉があってね」

「”二度あることは三度ある”しか知らない」

「じゃあ、私の勝ちぃ」


 カーフ人形をつつきながら笑う明日葉は、そっと指を放すと、カーフの内側を軽く叩く。


「というわけで、出してー」

「ヤダ」

「カーフ……」


 拗ねるような声のカーフに、明日葉は、窘めるように、先程よりも少し早めに内側を叩く。


「ヤダよ! どうして、キミは、いつもひとりで行こうとするんだ!」


 手を伸ばせば、平然と取るくせに、自分から伸ばしてはくれない。

 本当に明日葉が辛い時に、君は、手を伸ばしてはくれない。


「相棒なんだろ!?」


 声を荒げるカーフに、明日葉は、内側を叩いていた手を止めると、視線を下げ、そっと手を下した。


「ボクも一緒に戦う」


 静かなカーフの言葉に、明日葉は、そっと両手を顔に当てる。

 その口元は、微かに震え、引きつっているようだった。


「わ、私、また突っ走ってた……?」


 そして、ゆっくりと恥ずかしそうに漏らされた言葉に、カーフもつい、逃げる足を止めてしまった。


 突っ走っていないつもりだったの……?

 ひとりでヴォルグレームスを倒しに行こうとしたり、外に出ようとしたりしたくせに?


「だって、カーフ、いつも一緒に来てくれてたから、気にしてなかったというか、その、えっと、そっか……そっかぁ……」


 顔を見なくても、恥ずかしそうに震わせている声に、表情は想像がついた。


「……キミ、相当な口下手?」

「春茂よりマシ!!」

「ビゼンは口達者でしょ。比べるレベルじゃないよ」

「嘘だよォ!? 嘘だ! 絶対、嘘!!」

「はいはい……わかったから、アスハ、作戦を考えよう」


 1階層へ逃げないというなら、逃げられる時間にも限りがある。

 なにより、3階層のように、2階層まで毒ガスが充満する前に、ヴォルグレームスを見つけて、倒さなければいけない。

 冗談を言っている時間はないのだ。


*****


 カーフが周囲を見渡しながら、溶岩の中にヴォルグレームスがいないかを確認していると、突然足が崩れる。

 視線を足元にやれば、足元に局所的に広がっている溶岩。

 この熱で、体が溶けたらしい。


「別に、溶けたくらいで……!」


 すぐに足の形を整えて、バランスを取れば、広がっていた溶岩から、湧き出るように現れたヴォルグレームスが、カーフを見下ろしながら嗤う。

 ようやく捕まえたとばかりに、その熱く輝く手を、カーフに近づけ、焼き潰そうと触れるその瞬間だ。


 ヴォルグレームスの全身が黒く、膠着した。


「!?」


 突然のことに、ヴォルグレームスも驚いた様子だが、その視線はすぐに下に向いた。

 自分の腹部辺り、そこに刀が刺さっている。


『この刀ね、近江がヴォルグレームス対策に、冷却装置をつけてくれてるから、ものすごく冷えてるの。刺すと、冷えて固まる』


 カーフの内側から突き刺された刀が、ヴォルグレームスの体を、黒く冷やしていた。


『でも、核は冷えないし、固まらない。だから、これで変化がない場所が、核の場所』


 目の前のヴォルグレームスの表面は、全身が黒い。

 カーフは、両腕をヴォルグレームスのひび割れた表面に突き刺し、割く。


 中はまだ赤いが、刺されたままの刀のせいか、点々と黒く変色している部分もある。

 その中、一切黒く変色せず、赤く輝いている場所。


「見つけた!」


 核はあそこだと、カーフが新しく伸ばした手。

 それを拒む赤い手が、カーフへ迫った時、新しくカーフの内側から生えてきた刀は、カーフごと赤い手を切った。


 切られたカーフの中から出てきた明日葉は、黒く大きく割かれたヴォルグレームスの赤く輝く一点。

 それを見つめると、振り抜いた刀を返すと、その核に向かって振り下ろした。


「――」


 確かに感じた手応え。

 その手応えに、明日葉は小さく息を吐き出し、吸おうとして、口を抑えられた。


「だから、ダメだって!」

「…………」


 毒ガスがあるかもしれないと、慌てるカーフに、明日葉は、視線を上に向けた後、口を抑えていたカーフの腕を持ち上げる。


「ヘンな匂いはするけど、息はできそう」

「ほ、本当……?」


 首を伸ばして覗き込むカーフに、明日葉もその頭を撫でる。

 そして、少しずつ黒くなっていくヴォルグレームスへ視線を落とすと、


「帰ろっか」


 ようやく、気が抜けたような表情をした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ