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05

 携帯が鳴り止んでから、数分。

 ようやく待ち人からの連絡が来た。


「あ、アレかな」


 足元に広がる見覚えのある風景の中に見える、洞穴。

 ダンジョンの入り口だ。


「じゃあ、降りよ……ぅ、か」

「?」


 彼女は、少しだけ腰を浮かせて、こちらに振り返ると、また腰を下ろした。


 そして、大きなブーメランの高度を、森の木々ほどまで下げてから、地面に降りた。


「改めまして、到着! 子供たちは、奥だよね」

「うん。ついてきて」


 一度、入ったことのあるボクが先に入ると、彼女も続けて中に入る。


「モンスターは、まだ見たことがないけど、罠とか、瓦礫とかもあるから気を付けて」

『モンスターを見たことがない? ”死にダン”か?』

「しにダン……?」


 彼女の携帯から聞こえた言葉に、首を傾げる。


『ダンジョンには”活動性”と”不活性”があって、不活性の、ダンジョンとしての機能していないダンジョンを”死んでるダンジョン”。略して”死にダン”って呼んでるわけ』


 正確な定義は、いくつか存在するが、素人目にわかりやすいのは、モンスターの有無だという。

 不活性ダンジョンには、モンスターはほとんど存在せず、いたとしても、ダンジョン外から迷い込んだモンスターがほとんどだ。


『まぁ、死にダンじゃないと、その村の近さは無理だよな……だとすると、天然の牢扱いでもしてたか?』


 携帯の向こう側の声の人の言っていることは、少し難しくてわからなかった。

 彼女はわかっているのだろうかと、目をやれば、足元をじっと見つめていた。


「死にダン、かな……?」

『何かいそう?』

「うーん……いる気がするんだけどなぁ……」


 はっきりとしない表情で、しかし、モンスターはいる気がすると、口にする彼女に、つい掴みかかってしまう。


「どこ!? 場所は!?」


 まさか、下層にいる涼介たちの場所!?


 掴んだ腕で彼女を揺らすが、彼女は困った表情で唸るだけ。

 

「んー……わかんないよ。死にダンみたいな、空っぽな感じはしないってだけ」


 それじゃ、困る!


 そう言いかけて、言葉を飲み込む。

 この人たちは、誰も助けてくれない状況で、唯一、ボクのことを信じて、助けてくれると言ってくれた人だ。

 ムリを言ってはいけない。


「…………ごめん、ムリなこと、言って……」

『まぁ、もし、死にダンじゃないとしても、まだ再活性化した直後で、モンスターもいない可能性もあるし!』


 携帯の向こうから、気遣うような言葉が返ってくる。


 確かに、このダンジョン内で、モンスターを見ていないのは事実だし、あくまで彼女の感覚でモンスターがいる感じがするというだけ。

 実際にいるのを見たならまだしも、感覚だけなら勘違いかもしれない。


 そう思って、できるだけ早く涼介たちのいる場所へ向こうと、歩き出す。


『自然な活性化っていうなら、昔の記録があれば、何系かはわかるだろうし、こっちでも調べてみるよ』

「それより、ダンジョンの構造はわからないの?」

『100年以上前に、不活化してるダンジョンの情報が残ってるわけないでしょ……登録情報もどこまで正確なんだか……』


 少しずつ遠くなる声に、不思議に思い振り返ってみれば、先程の位置から一歩も進んでいない彼女。


「どうしたの?」

「あ、そこにいて。危ないから」

「?」


 何かあったのかと、戻ろうとしたボクを止めて、彼女は腰につけた刀に手をやっている。

 モンスターでもいるのかと、周りへ目をやっても、相変わらず瓦礫ばかりで、生き物ひとついない。


『……ちょっと待った。明日葉(あすは)さん、何しようとしてますぅ?』

「……」

『また短絡的なバカみたいな行動してない!? 報連相!』

「おいしいよね」

『違う!!』


 刀を抜いた彼女は、刀を両手で握ると、地面をじっと見つめ、小さく息を吸うと、地面へ刀を振り下ろした。


「――――」


 優しく振ったように見えた。

 だが、見た目とは裏腹に、ダンジョンは大きく揺れ、地面は大きな音を立てて、穴が開いた。


「……よし。一枚だけ抜けた」


 ボクも通ることのできる大穴を確認した彼女は、自慢気にボクの方へ目をやってきた。


『バッッッカッッ!!!! 古いダンジョンだっつってんだろ!! お前のバカ力で崩壊したらどうすんだ!!』

「とっても繊細に一枚だけ抜きました!!」

『結果論で語るんじゃねェ!!』

「だぁぁぁ!! これが一番速いもん!」

『速くて崩壊したら意味ないんだよ! ダンジョンが崩壊して生き残れんのはお前くらい! 死体掘り返して帰ってきたよ。じゃねェんだよ!!』

「そんなこと言ってない!!」

『行動は言ってんだよ!』


 携帯の向こうから怒られている彼女は、不満気に眉を潜めて、頬を膨らませていた。


「……兵隊さんって、みんな、こんなに強いの?」

『そいつは、例外的なバカ力』

「そっか……」


 穴を覗き込めば、確かにひとつ下の階層が見下ろせた。

 このまま下りれば、予定していたルートよりも、ずっと早く下りられる。


「とりあえず、この穴は使おうよ。何回もやったら、危ないかもしれないけど、今は平気だし、ね?」


 不貞腐れたように、顔を背けている彼女に、そう呼びかければ、少しだけ機嫌を直したように頷いた。

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