02
カーフたちが、ダンジョンの中に入れば、そこには木造の建築が立ち並んでいた。
白い湯気が立ち上る中、活気あふれる街並み。
「ここ、ダンジョンだよね? どういうこと?」
カーフが興奮したように、周囲を見渡せば見渡すほど、今まで見てきた、薄暗い不気味なダンジョンとは程遠い。
ここは明るくて、活気にあふれている。
「死にダンだと、モンスターも少ないから、許可取れば住めるんだよ」
特殊な素材やモンスターの素材の採取場、実験場などとして、不活化したダンジョンは利用されることがある。
モンスターへの対応が取りにくいこともあり、居住区としての利用はあまりされないが、完全にないというわけではない。
「そうなんだ……危なくないの?」
「…………」
カーフの疑問に、明日葉はしばらく悩んだ後、備前の方へ目をやり、呆れられていた。
「地上に比べれば、危ないよ。だから、色々決まり事があってね。毎日、再活性化していないかのチェックをしたり、16歳以下の入場を禁止するとかね。ここも寝泊まりしてるのは、軍関係者がほとんどだしね」
確かに、見渡す限り、子供の姿は見えない。軍人の人も多いようだ。
「あれ? 備前さん、帰ってきてたのか」
店の前を通ると、突然かけられる声に、備前も足を止める。
「今回はゆっくりできるのか?」
「2、3日は予定してるよ」
「一週間くらいはいれないのかね。明日葉だって、のんびりしたいよなぁ?」
男が明日葉に目をやると、自然と目に入る、カーフをゆっくりと見上げると、明日葉に視線を戻す。
「友達?」
「うん」
「カーフです」
「おぉ……俺は、猪渕だ。ここで肉屋をやってるから、落ち着いたら、寄ってくれよ。おまけするからよ」
「うん。ありがとう。イノブチ」
笑顔の猪渕は、ゆっくりと明日葉の方に近づくと、
「どこで拾った。こんな礼儀正しい奴」
そう小声で問いかけるのだった。
店先で、色々な人に声をかけられることを数回、ようやくひとつの建物に辿り着いた。
木で組まれた大きな建物だった。
「うわぁあぁぁああ!! 備前さん、早かったですね!?」
「そんな人をバケモノみたいに……悪いことでもしてた?」
「してない! してないです!! あ、明日葉ちゃんのその箱、こっちで預かるから、その辺りに置いといてくれる?」
建物に入るなり、制服を着た女性に叫ばれたが、女性はどこかに電話をかけると、すぐに小走りにやってきた黒髪に桜の簪を挿した女性。
「春茂も、明日葉も。早かったわね」
「ただいま。車で来れてね」
「ゆかりちゃん。ただいまぁ」
「はい。おかえりなさい。明日葉」
元気そうな明日葉の様子に、ゆかりは安心したように頬を緩ませる。
そして、視線は、自然と明日葉の後ろにいるカーフへ向くが、唐突に、明日葉は両手を上げ、カーフの頭部を掴んだ。
「で! カーフ!」
「明日葉。嬉しいのはわかるけど、いきなり頭を掴むのはやめなさい」
カーフの気にしていない様子からして、おそらく慣れているのだろうが、注意はしなければいけない。
「カーフです。初めまして」
「初めまして。桜井ゆかりです。かしこまらなくていいわよ。気楽に、”ゆかり”って呼んでちょうだい。みんなも、そう呼んでるから」
「えっと、じゃあ、よろしく。ユカリ」
「いい子です!」
「ふふふ……みたいね。私は、まだ仕事が終わってないから、先に部屋へ行っててくれる? カーフの事、ちゃんと案内するのよ」
「はーい。よし、カーフ、部屋行こう」
備前は、挨拶があるからと、ゆかりと共に残り、カーフは明日葉に案内されながら、明日葉が暮らしていた部屋に向かう。
「優しそうな人だね」
「すごい優しいよ。私を拾ってくれた人だもん」
そんな話は聞いたことが無かった。
だけど、『お母さんみたいな人』というのは、血の繋がりがないからなのだろう。
「アスハも、拾われたの?」
「あれ? 言ったことなかったっけ?」
「ないよ! もぅ……」
悪気があって隠していたわけではなく、単純に忘れていたらしい。
カーフが呆れていれば、明日葉も苦笑しながら、視線を泳がせていた。
「だってほら、苗字だって違うし! なんか、わかりそうじゃん!」
「あ、そういえば、そうだね。みんな、違うね」
小樟明日葉に、備前春茂、桜井ゆかり。
全員の苗字が異なり、名前だけでは赤の他人だ。
さすがに、本人たちが髪に挿している簪を見て、関係がないと思う人はいないだろうが。
「私は、小さいクヌギの木の下で拾われたから”小樟”。ふたりは……みんな、なんで一緒にならないんだろうって言ってる」
「そうなんだ……」
「だいたい、カーフだって、拾われた時の事、覚えてる? わざわざ言う? 聞いたことないんだけど」
「う゛……それを言われると、確かに言ってないし、覚えてないけどさ……」
おぼろげな記憶がないわけではない。
だが、はっきりと覚えている時には、既に涼介たちとの関係は、すっかり築かれていたはずだ。
カーフが言いよどむと、珍しく口で勝ったと、両腕を振り上げる明日葉に、カーフはじっと、もの言いたげに見下ろすのだった。




