04
ボクを否定する言葉と拒絶する痛みが、体中に響いていた中で、その落ち着いた声は、突然、目の前に現れた。
「場所は?」
淡々と問いかける言葉に、首を横に振りながら、後退れば、その人は困ったように眉を下げた。
「わからないと来たか……よし」
困惑するボクの腕の一本を、その人は切り落とすと、刀を器用に使って、後ろに大きく飛ばした。
「うわっ……っとと……え゛、なに? 解析しろと?」
「うん。周りの物を吸収してるなら、調べられるって、この前、演劇で見た」
「…………アレはフィクション!! まぁ、やってはみるけど……」
ボクの腕を抱えて、森の中へ消えていった人と、ボクの目の前で、「よろしく~」なんて気楽に手を振っている女の人。
その人は、ボクの方へ振り返り、目が合うと、しばらく見つめあった後、不思議そうに首を傾げた。
「腕を飛ばしたこと、怒ってる? そういうの解析できるのがいるから、今、お願いしてるんだ」
ちょっと待っててね。なんて、その人は笑っていた。
「助けて、くれるの……?」
「うん」
「嘘じゃない?」
「本気だよ」
「モンスターの言葉を信じてくれるの?」
「嘘だったら、確定した時に、お前を切ればいいだけ」
淡々と答えるその言葉に、嘘はなかった。
「大丈夫」
この人は、本当にボクの言葉を信じてくれている。
「私は、お前より強いから。後出しでも勝てるよ」
刀を鞘にしまい、ボクの大きく開いた口の先へ手をやると、優しく撫でた。
すぐにでも噛みつけるような位置にいるのに、彼女の自信は揺るぐ様子はなく、不思議とボクも力が抜けていく。
「小樟隊員! 自分が何を言っているか、理解していますか!?」
だが、刺々しい言葉が、また響き、口先を撫でる手が離れていく。
「何って……えーっと……? あ、なるほど。建前!」
「は……?」
理解したとばかりに、指を鳴らす彼女は、後ろに手をやり、腰に携えた刀へ手をやると、それを抜き、ひと呼吸の内に、また体に痛みが走った。
直後、体が宙に浮いた。
「ぇ?」
理解は追いついてなかった。
木よりも高く体が浮いたと思えば、大きなブーメランのようなそれにしりもちをついて、着地する。
彼女も同じように、くの字に曲がった部分へ座っていた。
「空中戦をしている体で! 落ちないでね」
随分と小さくなった体から、改めて、腕を生やし、空を飛ぶブーメランを掴めば、満足そうにしている彼女。
「キミは、味方、なんだよね……?」
「そのつもりだよ?」
うん。なら、これは一言、言っておかないといけないだろう。
「………………キミ」
「うん」
「他人をいきなり切るのは、どうかと思うよ」
味方だと言ってくれるなら、なおさら。
ボクの言葉に、彼女は驚いたように目を丸くして、数瞬後、声を上げた。
「…………そうだね!! 確かに! ごめん! 腕……とか色々! 飛ばしちゃって!」
「あまり許したくないけど……まぁ、治るし、いいよ」
「よかったぁ! ビバ! 治るタイプのモンスター!」
両手を上げて喜ぶ彼女に、慌てて手を生やして、落ちないように掴む。
「危ないじゃないか……! 落ちたら、どうするんだ!」
「……え、あ、うん。ごめんね。ありがとう」
不思議そうに、ボクの腕を見つめていた彼女は、ボクの方へ近づいてくると、背中を向けて、寄り掛かってくる。
「?」
意味が分からない。
いや、こうしてくれていた方が、落ちる心配はなさそうだけど、それはそれとして、意味は分からない。
ボクはモンスターなのに。
こんなに気安く、背中を預けられるはずないのに。
「あ、電話。解析終わったかな……」
こちらの困惑などお構いなしに、マイペースに彼女は、携帯を取り出した。
『小樟!!!! お前、また勝手に――』
直後、聞こえてきた大声に、少しだけ肩を震わせると、大声は不自然に途切れた。
「…………間違い電話だったみたい」
「絶対違うよね」
それを証明するにように、また電話が響き続けている。