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はぐれものバディ ~村の子供に育てられたはぐれモンスターは、子供たちを助けるために、人間離れした兵士とバディを組みました~  作者: 廿楽 亜久
第4章 霧に紛れる鏡影

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09

 ひどく耳鳴りがしていた。


 意味なんてない。悪意のこもった言葉が、暴力が、自分に向けられている。

 ただそれだけはわかる。


「ぅ゛ぅ゛……」


 誰かに捨てられて、誰かに殴られて。

 もうそんな人いないのに。


「うるさいな……本当に」


 みんなから十分離れたから、聞こえてくる声は、全て偽物。

 だから、大丈夫。


「カーフ、大丈夫かな……」


 通話を切った携帯を見ながら、少しだけ、連絡しようか迷うが、携帯はしまった。


「炎歌ちゃんなら大丈夫……大丈夫……」


 自分を安心させるように、明日葉が何度か呟けば、脳裏にフラッシュバックする。

 四肢を失い、這うように逃げた、カーフの姿が。


「なんで……なんでだよぉ……!! 助けてくれるって、言ったじゃないか……!!」


 嗚咽混じりに泣き叫びながら、カーフは、明日葉から逃げるように、体を引きずり、何かを抱えるように丸くなる。


 幻だ。

 カーフは、炎歌に治療してもらっている。


「リョースケ……レイ……アイ……ユーヤ……コータ……」


 丸くなった背中を震わせて、嗚咽混じりに、助けたはずの子供の名前を呼ぶ。


「……違う。違う。その子たちは、助けた。ちゃんと、助けたもん……」


 だから、カーフが悲しんでいる姿も、偽物だ。


「助けた? 嘘つき!! キミが助けられるわけないだろ!! 壊すことしかできないくせに!!」


 幻のカーフは、勢いよく振り返ると、生やした腕を広げ、その腕は刀で切られたように、きれいな断面を残した落ちた。


「ボクのことだって、キミが壊した!! そうだろ!?」


 迫るカーフに、明日葉は、眉を潜め、刀を振り下ろした。


「はぁ……はぁ……」


 ふたつに割れた偽カーフは、心底楽しげな表情で、ケラケラと木が擦れるような音を立て、笑いながら消えた。


 少しだけ静かになった中で、やけに霧が濃い場所と、そこから聞こえる先程の木の擦れるような音。


「…………」


 明日葉は、一度刀をしまうと、ゆっくりとその音のする方へ、歩き出す。


「湖……?」


 あまりに濃い霧のせいで、突然足元に現れた湖。

 明日葉は、周囲の様子を確認すると、湖のほとりに見つけたひとつの影。


 刀を抜いて、慎重に近づけば、影は徐々に形を成していく。

 ボロボロのローブを着た、木製の笛を持った案山子のようなモンスター。

 ワンダラースケアロウだ。


「お前、うるさいんだよ」


 明日葉の言葉に、ワンダラースケアロウは、不気味に嗤った。


「誰にも似てない、ヘタクソ」


 そう言って、ワンダラースケアロウへ刀を振り下ろせば、ひらりと身を翻し、湖の上へと逃げる。

 そして、持っていた笛をひと吹きすれば、霧がより濃くなった。


「あーもうっ!!」


 まだ影が見えてる内に。と、水上へ跳んだ明日葉だが、その影は手ごたえ無く通り過ぎていく。


 舌打ち混じりに、空中で体を翻すと、持っていた刀から手を離し、そこへ足をつくと、刀を踏み台に軽くと上へ跳ぶ。

 そして、周囲に目を凝らすが、影はない。


 ワンダラースケアロウを見つけられない間に、近づいてくる水面に、もう一本を刀を抜き、水面に向かって大きく振りかぶった時だ。


「お前を拾ったことを、ずっと後悔してるよ」


 叩きつけようとした水面に映る、備前のこちらを敵視する視線と言葉。


「私が、あの子を拾わなければ……!! 拾っちゃいけなかった……!! あの子は、助けちゃいけない子だった……!!」


 そして、泣き崩れるゆかりの姿。


「――――ッ」


 言わない。


 言わない!!


 そんなこと、あの人たちが、言うわけない!!


「いい加減に、しろッッ!!」


 加護の封印を破壊するほどの力で、水面を叩きつける。


 大きくへこんだ水面は、ひどく波立ち、へこんだ部分へ、再び水が注ぎこまれていく。

 その中には、波に囚われたワンダラースケアロウの姿もあった。


「見つけた」


 最後の一振りの刀を踏み台に、ワンダラースケアロウの元へと跳び、ようやくその姿を掴んだ。


 直後、注ぎ込まれる水が、明日葉の頬を撫でる。


「死んで。お願いだから。貴方だけで」


 耳元で囁かれる偽物の声と、冷たく頬を撫でる手、そして、ゆかりの悲しげに歪んだ微笑み。


――じゃあ、うまくいかなかったら、一緒に死にましょうか。


――明日葉を抱きしめて、ロープで縛って、一緒に水に身を投げるの。そうすれば、明日葉も死ねるでしょ?


――明日葉が独りぼっちだったなんて、勘違いしてほしくないもの。少なくとも、ひとりは、貴方を大事に思ってた人がいるって、理解していて。


 あの時の優しい囁きも、温かく頬を撫でる手も、ゆかりの安心させるような微笑みを、忘れるはずがない。


 偽りだと、歪ませることなんて許さない。

 許せない。


「お前だけ死ね」


 水に飲まれる中、明日葉は泡と共に呪い言を吐き出すと、ワンダラースケアロウの笛を握り潰した。

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