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はぐれものバディ ~村の子供に育てられたはぐれモンスターは、子供たちを助けるために、人間離れした兵士とバディを組みました~  作者: 廿楽 亜久
第4章 霧に紛れる鏡影

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08

 長谷川の悲鳴に、すぐさま近江と炎歌が、廊下に出た。

 そこには、座り込んでいる長谷川と、トイレから出てきた、もうひとりのニヒルに笑う長谷川。


「ちょちょちょちょっまっ……!」


 座り込んだ長谷川が、情けなく腕を振る。

 その頭上を掠める足は、容赦なく、ニヒルに笑う長谷川を蹴った。


 駆け付けた炎歌に蹴られた長谷川は、慌てたように踵を返すと、近江たちが駆け付ける方向とは逆方向へ、逃げ出した。


「何があった!?」

「か、鏡から()が出てきた……!」

「……インサイドミラーか!」

「最悪ね!」


 ”インサイドミラー”の名前が出た途端、炎歌はめんどくさそうに眉を潜めると、逃げた偽の長谷川を追いかける。


「明日葉! って、通信切れてる!?」


 ダンジョンを攻略する時のように、常に通信を繋げている義務はないが、先程の一件以来、通信は繋げたままだったはずだ。

 だが、いつからか、切られていたらしい。

 再度、明日葉との通信を繋げようとするが、反応がない。


「ふたり共、大丈夫?」

「偽モンスターは、インサイドミラーだ。一応、殺傷能力は低い」


 少し遅れて、カーフと尾幌がやってくれば、長谷川が縋るように、カーフへ抱き着く。


「ただ、厄介だ。アイツらは、姿が映り込むものがあれば、そこに潜んで、写り込んだ動物の姿で、実体化して移動する」


 場所を移動するために、姿を借りるだけで、故意に、人へ危害を加えるタイプのモンスターではない。

 ただし、一部、問題視されていることがある。


「実体化した時に、違和感を持たれないように、見たものを真似るんだ。どのタイミングから、ワンダラースケアロウと一緒にいるかわからねェが、少なくとも、この村で見たものを真似るとしたら、随分と攻撃的なタイプになってるだろうよ」


 少なくとも、この屋敷で起きた惨状やワンダラースケアロウによって、錯乱させられた人々を見て、学んだはずだ。

 人は、人へ危害を加えることが、当たり前であると。


「今、姐さんが追いかけてる。俺らは、インサイドミラーが逃げ込める、鏡やガラス、金属を破壊する。不可能なものは、隠す。わかったか?」

「わ、わかった!」

「尾幌さん、悪いが、手伝ってくれ」

「は、はい」


 各部屋に置いてある物など、今から調べては、時間が掛かる。なにより、見落としが出る。

 ここは、屋敷について詳しい、尾幌の協力を仰いだ方が早い。


「あの、壊すというのは、どの程度のものを……」

「インサイドミラーが実体化するには、写し取った物体のサイズでしか出てこられない。だから、少なくとも、人間が這い出てこれないサイズ以下にする」

「わかりました」


 人が這って出てこられる以上の大きなものになれば、ある程度、数は限られてくる。

 鏡や窓、大きな水面を持つ風呂など、とにかく、尾幌の案内で、部屋に置いてある、体が写る大きなものを破壊していく。


「アスハは……? 外にいたはずだよね?」


 近江たちが、破壊できない金属製の鉄板などを、吸収していたカーフが、心配そうに周囲を見渡す。


 明日葉は、ワンダラースケアロウを探して、ひとりで屋敷内を探していたはずだ。

 これだけ、騒いでいれば、すぐに駆け付けそうなものだが、未だに姿を現さない。


 カーフの問いかけに、近江も携帯へ目をやり、少し眉を潜めた。


「この屋敷の裏山にいる。詳しくはわからねェ」

「それって、ワンダラースケアロウのところに、ひとりで行ったってこと!?」

「連絡がつかねェから、詳細はわからねェ。ただ、明日葉なら問題ない。とにかく、今はこっちをさっさと片付ける! いいな?」


 今にも、明日葉の方へ行くと言い出しかねないカーフを先に止めれば、カーフは少し迷っていた様子だったが、すぐに頷いた。


 その頃、インサイドミラーを追いかけていた炎歌は、悪態をついていた。


「あぁ……もう……! 長谷川さんが、ニヤつきながら、走り回ってるのって、それだけで腹立たしいわね……!」

「それ、俺の事バカにしてる……?」

「よく理解できましたね。貴方なんて、13連勤の三徹後でも、対処できる程度のノミ虫でしょ」

「俺じゃなくて、本人への罵倒ってことにしようかな……?」


 実際、炎歌も普段ならば、インサイドミラーに遅れは取らないが、今日は、ワンダラースケアロウによって、錯乱した村人を治療していた。

 そのせいで、魔力や気力、体力が大きく削られていた。


 しかし、それでも、インサイドミラーが、もし、鏡などに逃げ込めば、すぐにその潜り込んだ物体を破壊することくらいはできる。


「貴方こそ、さっさとお家に逃げたら?」

「おっかない人を撒いたらなぁ」


 インサイドミラーは笑いながら、視界に写った、割れた窓ガラスに足を止める。


「マジか……」


 乱雑に割られた窓ガラスに、振り返れば、窓ガラスは、全て割られているらしい。

 それだけではない。鏡もだ。


「…………」


 この姿は、鏡などに潜り込んでいる時とは違い、実体を持っている。

 殴られれば死ぬ。

 うまく鏡にさえ逃げ込めれば、割られたところで、小さな欠片からでも出ることができる、小さい生き物に姿を借りればいい。


「ようやく、追いつきましたわね」

「ま、待て待て。お前ら、こいつと知り合いなんだろ? 仲間なんだろ? まさか、殴るわけないよな?」


 慌てたように否定するインサイドミラーに、炎歌は嬉しそうに微笑む。


「その顔を殴れれば、きっと、すごくスッキリするでしょうから、その点だけは感謝しています」


 追っていた時の迫力のある表情ではなく、余裕のある笑みに、インサイドミラーは、小さく悲鳴を上げた。


 ここは危険だと、割れた窓から、屋敷の外へ逃げようとするインサイドミラーを阻むように、伸びてくる腕。

 インサイドミラーも、その大きな手に、反射的に身を捩じらせれば、その腕から生えてくる棒状のなにか。


「は!?」


 迫ってくる棒状のなにかに、インサイドミラーが、踵を返せば、そこにも同じように棒状のなにかを伸ばす腕。


「ナイス! カーフ!」


 即席で作った牢屋へインサイドミラーを閉じ込めたカーフに、近江も声を上げれば、炎歌も疲れたように息を吐き出した。


「叩き潰してもよかったのに……」

「見た目、長谷川さんなのに……」

「そうだぞ! そういう優しさ! この部隊に足りてない!」


 容赦なく、追撃していた炎歌に、本物の長谷川がついツッコミを入れてしまうが、炎歌はどこ吹く風だ。


「これで、インサイドミラーは確保できた。あとは、ワンダラースケアロウの方だな」


 そちらは、おそらく明日葉が追っているはずだと、携帯を取り出すが、明日葉の位置は大きく動いていない。

 電話に出るとは思えないが、ひとまず電話を掛けた時だ。


「あ! モンスターが!」


 尾幌の慌てる声に目をやれば、インサイドミラーが、カーフが作った金属の牢のひとつに、入り込もうとしていた。

 細い棒ではあるが、姿さえ写れば中に入れるらしく、インサイドミラーは、数秒もしない内に、ニヒルな笑みだけを残し、牢の鏡面の中に消えていく。


「何か布を――」


 被せろと叫ぼうとする近江は、目の前で起きている違和感を認識しながら、理解するまでに、言いかけた言葉が漏れ出していく。


「被せて……」


 尻すぼみになる近江の目の前で、近江の目の前で、どんどん短くなっていく金属の棒。


 インサイドミラーが逃げ込んだ時のようなスムーズさで、カーフの腕の中に、再び吸収されていく金属の棒は、数秒でカーフの体に消えていった。


「…………」

「よしっ」

「お、おぉ……」

「それで、アスハはどこ?」


 あまりにあっさりとした幕引きに、カーフ以外が唖然としている中、カーフだけは、ここにいない明日葉のことを気にしていた。


 そして、カーフの疑問に答えるように、屋敷の裏山の中腹から、大きな音と振動が響いた。


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