03
ほんの少しの油断だった。
カーフは、五人に気を配りながら、ゆっくりとスロープを上り、先頭の涼介が洞窟部分へ辿り着き、意識から外した時だ。
涼介も、すぐ後ろにいた玲のことを手助けしようとして、足を滑らせた。
「涼介くん!! 涼介くん……!!」
玲が名前を呼んでも、涼介は呻くばかりで、返事は返ってこない。
何かしなければと、カーフも傷の様子を見るが、足は青黒く変色していて、手当の仕方もわからない。
「――――」
どうしよう……どうしよう……!?
ボクがなんとかしないと……!!
頭の中に答えのない疑問ばかりが駆け巡っては、この不安を口にしてはいけないと、表情に出るのを抑える。
「やっぱり、ムリなんだよ……」
絞り出したような泣き声に、カーフは慌てて振り返るが、そこには座り込んで泣いてしまっている子供たち。
「――――」
大丈夫。
いつものようにそう言いかけて、言葉が詰まった。
大丈夫なんかじゃない。
この先の手立てなんて、何も思いつかない。
自分のことを最後まで守ろうとしてくれた彼らを、助ける手段が、ない。
「カーフ……カーフだけでも、外に出て」
「ぇ……」
みんなの泣き声が響く中、カーフへ声をかけたのは、玲だった。
「ダメだ。ダメだよ! ダンジョンは危険なんだ! キミたちだけにするなんてできない!!」
食料も水も心許ない。
その上、涼介の怪我のことだってある。
自分が、自分だけが、この場から離れていいわけがない。
「でも……カーフだけなら外に出られるでしょ!!」
玲の言葉は事実だ。
だけど、そんなこと、絶対にできない。
「私たちの村と、別のとこ、で、助けてもらって……」
玲の言う通り、別の村の人間なら、助けてくれるかもしれない。
でも、間に合うかはわからない。
けど、けれども、ここにいても、助かる見込みはない。
「ッ絶対に、助けに来るから! 絶対!! 絶対だ! だから、少しだけ辛抱してて!!」
現実から目を背けている自覚はあった。
だけど、絶望的な現実を見ることはできなかった。
「モンスター!?」
「警備部隊に連絡を! 急げ!!」
現実は、ひどく冷たくて、がむしゃらに走った先にいた人たちは、ボクの言葉を聞くこともなく、叫んで、逃げた。
「助けて……!! お願い……!! 話を、聞いて……!」
「言葉……!?」
「聞くな!」
誰でもいい。
あの子たちを助けてくれるなら。
助けてと、たくさんの手を伸ばして、彼らを縋りつくように追いかけていれば、突然視界が欠けた。
次に、全身に痛みが走った。
「痛い、いたい、イタイイタイタイタイ……ッ!!」
どうして、こんな辛い思いをしないといけないんだ。
「効いてる!」
どうして、こんなひどいことをするんだ。
「このまま、討伐部隊到着まで、時間を稼ぐんだ!」
どうして、あの子たちが辛い目に合うんだ。
「コイツ、周りの物体を吸収して……!?」
どうして、どうして……
――――ボクのせいだ。
ボクが、モンスターだからだ。
「あの子たちは、人間だよ……キミたちと、同じ、人間なんだ……」
ボクのことは、どうなってもいいから。
あの子たちを、助けて。
「――ん。いいよ」