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01

「ぐるっぐるっ、カーフさん、カーフさんよ。世界のうちで、お前ほどっおうでの長いものはない。どぉしてそんなに長いのか」


 妙な替え歌を歌いながら、カーフの腕を伸ばしては、カーフの体に巻き付けている明日葉に、長谷川は、何も見なかったことにして、隊長用の席に座った。


「ぐぅーるぐぅーる……」

「…………」

「かんせーっカーフ巻き巻き、巻き…………」


 白色に、緑と茶色の混じった腕がとぐろ状に巻き付いている様は、どこか見覚えのある形をしていた。


「…………」

「草食動物のフn――」

「わぁぁぁぁああ!!!! 近江、それ以上言ったら、殴るよ」

「元々、そっちがやったんだろうが。俺が悪いみたいに言うんじゃねぇ」

「だって、近江が吸収のなんかで、なんやらだって!」

「吸入能力が、手以外からでも可能か、体を変化させた後でも可能かについての検証な」


 アマルガムゴーレムは希少で、能力や生態についてわからないことが多い。

 そのため、モンスター研究の権威である濱家からも、研究の協力の依頼が呆れる程、届いている。


 近江以外の第八部隊のメンバーは、気にしてないようだが、そもそも詳細不明なモンスターが近くにいるというのに、何も調べないという方がおかしな話だ。

 鹿の形を模倣したり、木やモンスターを吸収していたり、確認したいことは山ほどある。


「蝶々結びしてあげる」

「その状態で、この石、吸収できるか?」

「…………」


 明日葉も近江も、好きにカーフの事を弄り出す様子に、カーフは文句を言いたげな表情で、結ばれた腕ごと近江に当てられた石を吸収するのだった。


「おぉ……吸ってる吸ってる」

「ねぇ、これ、何回すればいいの?」

「この世に存在する素材分。各サイズごとに」


 できる限り近江や濱家の研究を手伝いたいとは思っているが、限度はある。

 今度から、このふたりの手伝いは、安易に頷かないようにしようと心に決めたカーフは、蝶結びをした腕が吸収された部分に、腕を突っ込んでいる明日葉の腕を体内へ招き入れるように、体内を動かした。


「うははっ引っ張られる」

「ヘンなことしてるからだよ」


 明日葉が、本気で抵抗すれば、カーフの胴体から這い出られるからか、笑いながら、体をカーフの体へ埋める明日葉に、カーフも楽し気に、明日葉を体内へ引き込む。


「明日葉さん!?」


 当人たちこそ気にしていないが、その様子を途中から見てしまった炎歌は、それはもう、酷く慌てたのだった。


「心臓に悪いです」

「はい……ごめんなさい……」

「ごめんなさい……」


 少しだけ恥ずかしそうに、炎歌は咳ばらいをすると、明日葉にひとつの小包を渡す。

 送り主の欄には、『桜井 ゆかり』の文字。


「あ、簪。できたんだ」


 小包に入っていたのは、カーフに渡してから、新しく注文していたアシタバの簪だ。

 一緒に、ゆかりからの手紙も入っている。


「あと、ついでに、新しい任務の依頼が来てました」

「あ、ゆかりちゃんが、カーフの写真、見たいって。カーフ、一緒に撮ろー」

「それでは、写真は私が……それと、任務の件ですが」

「どっちかにして!?」


 写真を撮りながら、任務についての説明を続けようとする炎歌に、カーフは、ついに叫んでしまった。

 そんなカーフを、明日葉も炎歌も、不思議な表情で見つめるのだった。


「では改めて、今回の任務ですが、”ワンダラースケアロウ”の討伐です」


 炎歌が説明を始める中、カーフへ寄り掛かり、既に飽き始めているらしい明日葉の姿勢を起こす。


「調査では、木竜村(もくりゅうむら)の地主、(ろう)家が最初の被害者とされています。ただ、現在、被害が村中に拡大しているため、確実なところは、実際に調査してみないことにはわかりません」

「うげ……現地調査か……」


 近江と長谷川が、嫌そうな表情をしていた。

 この部隊の戦闘員は、明日葉だけのため、危険な現地で調査が乗り気ではないのだろう。


「前みたいに、電話だけはダメなの?」

「ワンダラースケアロウがな、精神に作用する魔法を使ってくるモンスターでな。俺や長谷川さんみたいな、魔法の抵抗力がない人間は、洗脳される可能性が高いんだよ」


 支援のために待機している隊員たちが洗脳され、仲間割れや物資の破壊をすれば、前線で戦っている隊員にも影響が出る。

 そのため、こういった洗脳してくるモンスターがいる場合は、洗脳された人間を回復もしくは、制圧できる人が多く必要とされる。


「ですので、本来、魔法が使える隊員で構成された、魔法部隊が対応するはずなんですが……」


 魔法が使えるというだけで、軍以外にも就職は困らないと言われるほどに、魔法が使えるということはステータスになる。

 逆に言えば、それだけ希少な存在であり、軍にも、魔法部隊はそう多くない上に、引っ張りだこな部隊だ。


「魔法使える人なんて少ないからねぇ……この部隊だって、高倉くらいだし」

「私ができるのは、回復魔法とちょっと火を吐くくらいですが……今回、第八部隊が、ワンダラースケアロウの討伐に指名された理由のひとつでしょうね」


 魔法への抵抗力を持ち、洗脳された人を制圧、回復できる人。

 寵愛子の明日葉はともかく、少なくとも、非戦闘員である近江と長谷川を制圧することはできる。


「もし、私に何かあった際には、明日葉さんが部隊全員を拘束後、即時撤退となっています」

「思いっきり殴ったら、正気に戻ったりしない?」

「お前が思いっきり殴ったら、正気どころか死ぬわ。カーフだけにしとけ」

「ちょっと、ボクを巻き込まないでよ……痛いからヤダよ。というか、アスハは大丈夫なの?」


 どんどんだらけている明日葉の両脇の下から腕を入れて、体を起こしながら、聞けば、何とも微妙な返事が返ってくる。


「この部隊では、一番強いってだけかな?」

「精神系の魔法は、見えない概念を繕うような魔法ですので、対抗する魔法をかけたとしても、概念の隙間を縫って、作用する場合もあります。

 明日葉さんのように、加護や強大な魔力を垂れ流している場合は、岩などに針を通すようなもので、単純に力が必要になります。それでも、魔力の薄い隙間を縫ってくる可能性があるため、油断はできませんが、難しいでしょうね」

「ということです」

「なんで、アスハが胸張ってるの」


 炎歌の説明を、まるで自分がしたかのように、胸を張る明日葉に、カーフは飽きれるが、炎歌の嬉しそうな表情に、それ以上何か言うのはやめた。

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