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02

 カーフを最後まで庇った子供たちは、一日分の水と食料だけを残して、ダンジョンの最深部へ置き去りにされていた。


「……なんで、嘘つかなかったんだよ」


 発端は、涼介と(ひかる)との小さな喧嘩だ。

 本当に他愛のない喧嘩だったはずだが、光は、涼介への嫌がらせのために、大人たちへ隠していたカーフの存在を教えてしまった。

 大ごとになるとも思わずに。


「だって、カーフは友達だもん……」


 大型のモンスターである以上に、そのモンスターが言葉を介することが、一番の問題だった。

 言葉を理解できるということは、人を騙し、利用ができるということ。


 故に大人たちは、モンスターに味方しようとする子供たちは、既にモンスターに騙され、利用されていると判断する他なかった。

 だからこそ、自分たちの子供を守ろうとした大人たちや、カーフとそれほど仲良くなかった子供たちは、カーフを見捨てるという選択をした。


 日に日に、大きくなるカーフの存在が、怖くて溜まらなかったと。

 仲良くしなければ、殺されるのではないかと、怖くて溜まらなかったのだと。


 だが、最後まで忠告を聞かず、カーフを庇った五人は、こうして危険なダンジョンの奥へと捨てられることになったのだった。


「どうにか、外に出られないかな……」

「ムリだよ。大人ならまだしも……」


 危険なモンスターの姿はまだ見えないが、サバイバルの経験のない子供たちにとって、突然放り込まれたダンジョンから出るなんてことは、まず不可能だ。

 膝を抱えて、泣きながらうずくまる少女たちに、涼介は視線を彷徨わせ、一度強く目をつぶると、大きく息を吸った。


「大丈夫! オレ、一番上の兄ちゃんが、兵士だから、聞いたことあるけど、ダンジョンで生活できるらしいからさ! ちょっとずつ上に戻ればいいって!」


 ダンジョンにも危険度があって、安全と確認されれば、そこに人が住むこともあるし、観光地になっている場所もあるらしい。

 周囲を見渡した限り、ここにはモンスターの姿は見えないし、今すぐに命の危険があるようには見えない。


「まずは、壁とか屋根のあるところを探そう! 泣くのはそれからでいいだろ! な!」


 少しでも元気が出るように、声を出しても、全員が上を見上げてはくれなかった。

 だけど、少しだけ顔を上げた何人かが、隣に声をかけて、ようやく全員が立ち上がった。


「モンスターが出てきたら、どうするの……?」

「オレが何とかする……!」


 涼介は、落ちていた木の棒を構えながら、周囲を見渡していた。

 正直、モンスターと戦ったことなんてない。

 だが、自分が何とかしなければと、汗ばむ手で木の棒を強く握りしめたその時だ。


「みんな、大丈夫? 怪我してない?」


 突然、目の前に現れた大きな影は、全員を覗き込むように、自分たちを案じるような問いかけをしてきた。

 その声も、仕草も、覚えがある。


「カーフ!!」


 その影がカーフだと気が付けば、その場にいた全員が、安心したように表情を歪め、その大きな体に抱き着くのだった。


「大丈夫? 落ち着いた?」


 とても家とは呼べないが、三方を壁に囲われた場所へ移動すると、涼介を含めた子供たちは、ようやく落ち着いた様子で、カーフの問いかけに頷く。


「うん……カーフこそ、怪我してない? 大丈夫?」

「平気さ! みんなこそ、ボクのことなんて、気にしなければよかったのに……」

「そんなのダメだよ!」

「友達だもん!」


 先ほどまで、泣いてしまうほど恐怖していたにも関わらず、カーフを見捨てるつもりはないと、力強く頷く彼らに、カーフは少し困ったように目を細め、微笑んだ。


「それじゃあ、出口を探すぞ!」


 涼介が声を上げれば、全員後に続くように腕を上げるのだった。


 子供の力では、絶望的だったダンジョンの探索も、カーフがいれば、大きな瓦礫を退かすこともできたし、扉を壊すことだってできた。

 今のところ、モンスターには出会っていないが、それもカーフなら何とかしてくれるだろう。


「ここも塞がってるね……」


 出口に繋がりそうな場所は、いくつかあり、カーフだけなら通れるが、子供たちが通ることは、難しそうな場所ばかりだった。

 瓦礫を退かすにも、不安定に積み上がっていて、ヘタに動かせば、崩れる危険がある。


「残りは……」


 カーフが何ともいえない表情で見上げたのは、自分や子供たちが入ってきた入口。


 急こう配のスロープ状になっており、降りてくる分にはスロープに沿えば問題ないが、それでも壁などはなく、足でも滑らせればかなりの高さ落下することになる。

 そして、そのスロープを上り終えた後は、洞窟状の滑り台だが、滑りやすい素材に加えて、無理に上ろうとすれば、途中の返しが突き刺さる仕組みだ。


「…………」


 カーフひとりならば、何の問題もない。だが、疲労した子供たちを連れて上れるかどうかだ。


「そこしかないなら行こう」


 選択肢などない。

 カーフが、外から食料や水を持ってきたとしても、外に出られないなら、いずれ限界が来る。


「わかった。でも、気を付けてね」


 カーフが注意すれば、子供たちは少し不安そうに、だが、頷いた。


 でも、それが間違いだった。


「ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」


 地面に倒れた涼介が、脂汗を額に浮かべて、足を抑えながら呻く姿に、誰も、何もできず、狼狽えることしかできなかった。

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