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09


「アマルガムゴーレム!!!!」


 結果というものは、突然出るものだ。


 出るものなのだが、ボクよりも小さいとはいえ、人間にしては相当大柄な男が、目を輝かせて、こちらに駆け寄ってきたら、びっくりする。


「…………」


 反射的に、その男の間に割って入ってくれた、明日葉の背中に隠れてしまった。


「あぁ、ごめんごめん。驚かせちゃったね。アマルガムゴーレムなんて、超超超スーパーハイパーウルトラレアモンスターで、僕も実物を見たのは初めてでさ。しかも会話可能!! ちょっと触らせてもらいたいんだけどいいかな? できることなら、一部採取させてくれるとすごくうれしい! もちろん変なことには利用しないし、使用する実験内容も全て確認してもらった後で構わないから、是非継続的な協力関係を結べたらと思うんだけどどうかな? 謝礼の話は、経費を引っ張れるかで変わってくるから、少し時間をもらえると嬉しいんだけど、最低料金としてまずは――」

「そういうのは、炎歌ちゃんがいる時で!!!!」


 慣れたように、情けない言葉を叫ぶ明日葉に、その男は、少し恥ずかしそうに、口元に手をやった。

 彼が、探していたモンスターに詳しい濱家だという。


「ごめん……ちょっと、いや、大分興奮してたね。それで、エンカちゃんっていうのは? すぐに連絡取れる人?」

「取れるよ。24時間対応 ”スーパーエロティックセクレタリー”炎歌ちゃんって自分で――むぎゃ」

「アスハ。それ、多分言わない方がいいやつ」


 慌てて、口を塞げば、不思議な顔をする明日葉に、ものすごく渋い顔をする、濱家の後ろに立つ、もう一人の男。

 先程、明日葉と電話していた、備前という人らしい。


「事務的補助を頼んでる子だよ。それより、明日葉。ちょっと」


 備前に手招きされ、首を傾げながら、明日葉は少しだけ濱家の方に目をやると、何もしないと軽く両手を上げるのを確認すると、ようやく備前の方に近づいて行った。

 その間も、備前は、こちらに目をやっていたが、明日葉が近づけば、すぐに視線を明日葉へ落とす。


「その、カーフってゴーレムを気に入ってるのは、見ればわかるけど、使い魔にするってのは、本気?」

「うん」

「使い魔にするって意味、わかってる?」

「相棒として、一緒にいるってこと?」

「それは、人でもできるでしょ。人じゃダメなの?」


 備前の言葉に、少しだけ、心がチクリとする。

 明日葉は、ボクの手を取ってくれるけど、それがモンスターじゃなくて、人でいいのは事実。

 大人が、それをたしなめるのは当たり前で、それを拒んだ子供の末路は、知っている。


「カーフがいい」


 でも、明日葉は、ハッキリと断った。


「…………”使い魔”ってのは、所詮モンスター。責任は取れないし、君以外からすれば、ただの危険物だ。もし、その危険物が暴れた時、明日葉、君、そのゴーレムを殺せる?」


 淡々と質問する備前に、明日葉は少しだけ眉を潜める。


 カーフがそんなことをするわけがないと否定したかったが、思い返せば、既に一度暴れていたことがあった。

 もし、使い魔と契約した後に、そのような事態になれば、カーフの処罰をするのは、最も近くにいる明日葉だし、状況次第では、自らの手で切る必要が出てくる。


「物事には、優先順位がある。僕の優先順位は、変わってない。だから、そのモンスターが危険だって判断すれば、僕はその子を殺すし、見捨てる。たとえ、明日葉が本気で、僕を殺しにかかってきてもね」


 備前は、眉を潜めていた明日葉の答えを待つが、案外、すぐに答えは返ってきた。


「大丈夫。殺すよ。春茂たちと同じ」


 その答えに、眉を潜め、諦めたようにため息をついたのは、備前だった。


「ヘンなところばっか覚えて……わかったわかった……まぁ、悪い子じゃなさそうだしね」

「そう! いい子! 肩車してくれるし!」

「そんないい子に、あんな投げつけたような簪の差し方するんじゃないよ……」

「………………」


 あの現場を備前は見ていなかったはずだが、見事、いい当てられたことに、明日葉は顔を逸らす。


「あぁ……なんか、妙な刺さり方だと思ったら、そういうことか」

「…………やっぱり、これ、おかしいですよね?」


 薄々、おかしいとは思っていた。

 だが、簪のつけ方なんて知らないし、明日葉に聞いても、またテキトウに刺される予感しかなくて、聞けなかった。


「うーん……斬新、だと思うよ」

「素直におかしいって言ってよ!!」


 濱家の気遣いが、逆に辛かった。


「ごめんよ。明日葉の美的センスは、なんというか……物理的って感じだから」


 頭に浮かんできたのは、あの力技で成形された腕だった。


 備前は、ボクの頭に刺さった簪を抜くと、この辺りかと、頭頂部近くに差し込んだ。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。まぁ、僕もどの向きが正しいのかは、わからないけどね」


 それでも、先程までの乱雑に刺さっていた時に比べれば、ずっとマシになっていることだろう。


 ふと目に入った、備前の髪につけられた簪。

 明日葉のつけているものに、よく似ている。


 備前という名前も、ここに来るまでに、何度も聞いたし、きっと明日葉とも関りが深いのだろう。


「あの、備前さん」

「ん? なんだい?」

「本当に、ボク、アスハと一緒にいていいんですか……?」


 だから、この人に聞かないといけない。

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