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08

 東部第一地区のある町で、濱家は、その珍しい人物に、手にしたレポートの内容を思い出しては、渋い表情をしたが、もし、このレポートに関わることでは面倒だと、声をかけた。


「珍しいですね。貴方が来られるとは」


 東部統括責任者である備前春茂(びぜん はるしげ)、その人だ。


 統括本部そのものは、第一地区にあるが、この場所からは、それなりに距離があるし、何より多忙のはず。

 その責任者が、わざわざ足を運ぶような重要な案件があったようには、感じなかったし、調査を依頼されたレポートだって、大した案件ではない。


「ちょっと、こっちで用事があってね。ついでだよ」


 だからこそ、はぐらかす様子に、尚更、首を傾げてしまう。

 しかし、聞いたところで、備前が答えるとも思えない。


「濱家君は、件のダンジョンの調査かい?」

「はい。ドラゴンが巣を作っている可能性についての調査ですね」


 大きな都市に近いダンジョンに、ドラゴンが住み着いた可能性があるという情報が入った。


 モンスターの中でも、特に危険度が高いドラゴン。

 本当に、人里近くに住み着いてしまった場合、すぐに対処しなければいけない。

 濱家が頼まれていたのは、その真偽についての調査だった。


「結果は?」

「低いですね。ドラゴンがいるにしては、ダンジョン内に漂う魔力濃度が低いので。はっきりと姿を確認はできてませんが、ドラゴンウッドか、岩モグラの可能性が高いかと」

「そう。まぁ、そんなもんだよね」


 備前の言う通り、ドラゴンの報告のほとんどは、誤りのことが多い。


 大きな群れを作らない、孤高の存在の象徴でもあるドラゴンは、人の多い場所へ自ら近づくことはあまりない。

 だが、あまりに有名で、強大な存在故に、可能性があると判断されれば、調査をせざる得ない。


「実際、ドラゴンも寵愛子の近くには、巣を作らないという説もありますし、好戦的なタイプでもない限り、この辺りのその手の情報は、間違いの可能性が高いですね」

「そうね。やっぱり、程々に色々な場所で、暴れてマーキングしてもらった方がいいよねぇ……」

「小樟さんは、あまり飛び回るのは、好きじゃないんですか?」

「いんや。明日葉は、好きだよ。試作品の試運転と警備と称して、物理的に飛び回ってるし」


 寵愛子は、その力故に、重宝され、軍部の重要なポストについていることが多く、一ヶ所に留まることが多くなる。

 有事の際に、すぐに動くことができるという意味では、そちらの方が良いが、事前の防ぐという意味では、寵愛子の存在で、人間の縄張りをモンスターへ示した方が良い。


 こればかりは、寵愛子の数の問題もでてくる。


「備前さん、その明日葉さんの件で連絡が……」


 急ぎの要件なのか、申し訳なさそうに、会話を遮る、備前の補佐である珠洲(すず)に、備前も不思議そうな表情をする。


「頼まれてた子供の件なら、保護してくれる施設と話がついてるよ?」

「いえ、その件ではなく……」


 一瞬、珠洲が濱家の方へ目をやり、言葉を続けた。


「訓練所に、人型のモンスターを連れてきているらしく……」


 初耳の内容だが、備前は、昨夜送られてきた明日葉からのメールと、まだ詳細な報告は上がってきてないが、昨晩の騒動を思い出しては、携帯を取り出した。


「備前さん?」

「本人に聞くよ。予想はつくけど……」


 慣れた手つきで、明日葉の番号を呼び出すと、電話をかけ始める。


「あ、もしもし? 明日葉。君、訓練所に、昨日暴れたモンスター連れ込んでる?」


 聞こえた内容に、珠洲だけではなく、濱家も驚いているが、備前は相槌を打ちながら、少し眉を潜め、濱家の方へ目をやった。


「あぁー……そりゃ、僕の前にいるもん。探してる相手の所在くらい、調べてから出かけなさいよ」


 濱家が自分を指させば、頷かれた。


「待った待った。それ、結局で会えないやつだから、大人しくそこにいなさい。こっちも用件終わって、戻る所だから。訓練所でしょ。寄るから」


 備前は、通話を切ると、明日葉が訓練所にカーフの詳細を知るために、訓練所に来ていることを告げれば、濱家が納得したような表情になる。


「悪いね……知恵を貸してもらえるかな?」

「それは構いませんが……それなら、使い魔の申請じゃなくて、特定モンスター管理届の方が、早いのでは?」


 ”特定モンスター管理届”

 新種などの未知のモンスターや貴重なモンスターを管理する際に必要な届け出のこと。


 使い魔とは違い、詳細なモンスターの情報は必要としない。

 必要なのは、もしモンスターが暴れた際に、適切な処置や制圧ができることであり、本来なら資格が必要だが、寵愛子であれば、24時間監視可能な状況に置けるのであれば、その資格は必要としない。


「それは、明日葉に教えてないし、もしそれを提出してきても、受理しないから」

「あ、はい」


 冷たい視線で、ハッキリと告げる最終的な許可を出す立場の責任者が告げるなら、最初から選択肢にすら入らない。


「でも、使い魔はいいんですか?」

「……とりあえず、見てからかな。とはいえ、連れてるのが、ゴーレムみたいなんだよね……」


 かわいらしい動物型のモンスターではなく、何に惹かれたのか、理解できなさそうなモンスターな辺り、明日葉らしいというところはある。

 珠洲も、ゴーレムという単語に、驚いたような表情をしていた。それだけ、勢いで使い魔にするようなモンスターではない。


 だが、濱家は、特に驚いた様子もなく、口元に手をやっていた。


「ゴーレムの同定は、時間が掛かりますよ。まずは、体組織の成分分析と、何かを取り込んでいる時の取り込み方法を確認する必要があるので」

「ありゃ……そうなると、すぐには難しいかもね」


 ひとまず、明日葉と同じ部隊の隊員に、何か情報を持っていないかを確認しておこうと、連絡するのだった。

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