04
数分後、明日葉とボクは空を飛んでいた。
昨日と同じ、大きなブーメランのような乗り物で、”エルロン”という乗り物らしい。
ただし、明日葉専用に改良された、特殊な仕様で、スピードが他に比べて速いという。
『空気抵抗を限りなく減らした結果、従来の速度の1.3倍を出せるようになったナイスな代物だ! 代わりに、指先引っ掛ける部分しかないゼ』
近江曰く、速さの代償は、安全性らしい。
「落ちそうだったら、言ってね」
「ヘーキだよ」
指先しか引っ掛けられないのは、人間のサイズの話であって、ボクの大きさであれば、問題なく羽の部分を掴むことができる。
近江としては、空気抵抗を考えて、突っ伏して、しがみつくような形が理想だという。
もしくは、ぶら下がる。
正直、どちらも人にさせることではない。
「アスハこそ、落ちないでね」
「はーい」
落ちないように、ボクに背中を預ける形で座っているが、近江の説明通り、引っかかりがほとんどなく、バランスを崩したら、一直線に地上に落ちてしまう。
「ところで、これから行く場所って”訓練所”だったっけ?」
「そうだよ。ここのは、教育機関付きの大きい訓練所だから、図書館もめちゃくちゃ大きいよ」
「アスハもいたことあるの?」
「3年前までね。基礎教育生だったから、詳しいよ。道案内とか任せて」
「うん。じゃあ、よろしく」
しばらくすると、見えてきた訓練所。
先程までの軍部の基地よりも、建物の数は多いし、広い。
前のように、訓練所の近くの木の高さまで、エルロンの高度を下げ、降りると、エルロンはまたひとりでに空に上がっていく。
「どうしたの?」
「前も思ったけど、人が乗ってなくても飛ぶんだね」
「魔力がある内はね」
空中を旋回しながら、高度を上げていくエルロンを見上げながら、明日葉は少しだけぼやくように呟いた。
「あれさぁ……地上に止めると、違法改造し過ぎてて捕まるから、極力止めるな。って言われてるんだよねぇ……」
「それは聞きたくなかったなぁ……」
苦労しているのかと思ったけど、近江も結構、問題を起こす側かもしれない。
「それで、最初はどこに行くの?」
「…………詳しい人ってどこにいるんだろ……」
「いきなり不安だね」
先程までは、詳しいと言っていたはずなのに、どうやら目的地が分からないらしい。
「召喚に適正が無かったから、教師の名前すら覚えてない……」
しかし、こういう時は職員室だと、明日葉はひとつの建物へ目をやりながら、答えるのだった。
訓練所の中には、明日葉と同じくらいの大人や、涼介たちのような小さな子供もいる。
大人たちは、遠巻きにこちらを警戒するように見ていたが、子供たちは不思議そうにボクの事を見ていたから、手を振ってみれば、振り返してくれた。
「ねぇねぇ、このモンスターなんてモンスター?」
すると、こちらに駆け寄ってきて、ボクの体を不思議そうに触りながら、明日葉に質問し始めた。
「わかんないから、先生に聞きに行くの」
「一緒に行っていい?」
「いいけど、授業は?」
遠巻きに、子供たちとボクたちの様子を伺っている大人がいる。
授業中だったのだろう。
「こっちの方が、たのしいもーん」
「ダメだよ。ちゃんと授業は受けなきゃ」
このまま、ついてきそうな子供たちを、どうにか授業に返して、職員室に向かう。
「お゛、まえ……寵愛子の……」
「こんにちはー」
入り口近くにいた教師へ声をかければ、ひどく動揺した様子で明日葉のことを見つめていた。
「なんで、ここに……!? モンスター!?」
その上、ボクにも気が付くと、体を震わせ、小さく悲鳴を上げられる。
「モンスターを職員室に入れるんじゃない!! 今度は何するつもりだ!?」
「別に何した記憶もないんですけど……召喚か、モンスターに詳しい先生います?」
少しだけ不機嫌そうに質問する明日葉に、その教師は、少しだけ後退る。
これでは、話をしてくれなさそうだ。
「アスハ、ボクは外にいるよ。怖がらせちゃってるみたいだし」
「別にカーフのせいじゃないよ」
「大丈夫。ドアの傍で待ってるから」
先程、訓練所を歩いている時だって、大人はみんな、遠巻きに見ていた。
森にいた時だって、涼介たちだけが優しかっただけで、大人たちはみんな同じ反応をしていた。
人は、モンスターが怖いんだ。
「お、おい……! あのモンスター、印字もついてないじゃないか」
「も゛ーーッ!!」
後ろで聞こえた明日葉の怒った声に、振り返れば、頭に刺さる何か。
「これで、私のってわかるでしょ!」
どうやら、刺さったのは明日葉がつけていた簪のひとつだったらしい。
目印代わりに渡してきたらしい。
それはそれとして……
「だから、痛いものは痛いんだって言ってるでしょ!!」
「それはごめん!」
全く反省してないじゃないか。