03
島藤は、呆れた様子で、頭を乱暴に掻いては、大きくため息をついた。
「また備前さんに迷惑かけて……少しは迷惑を考えて行動しろ! 兵役に就いてから何年経ってるんだ。備前さんの胃に、穴開いても知らないぞ……」
「この前、焼き肉一緒に行ったし、胃腸は元気だと思うよ」
「そういう、ヘリクツだけ覚えやがって」
心底呆れた様子で、島藤は、一度ボクへ目をやると、もう一度ため息をついて、明日葉へ目をやった。
「昨日の件だがな、勝手な行動をしてるんじゃねェ」
「戦ってるって体にしましたよ?」
「知ってるよ。交戦中って理由で、俺の連絡も切りやがっただろ」
どうやら、この島藤という人は、あの明日葉に電話を切られていた人だったらしい。
「あの……あの時は、ごめんなさい」
あの後、随分携帯が鳴っていたし、明日葉が電話を掛け直している様子もなかった。
明日葉の行動については、ボクもどうかとは思うが、それはそれとして、原因が自分であるなら、謝る必要はあるだろう。
少しだけ、島藤に近づいて、頭を下げれば、驚いたように、ボクの事を見下ろしていた。
「…………モンスターの方がまともじゃねェか」
「すごいでしょう? カーフって言うんですよ」
「反省しろって言ってんだよ」
自慢気な明日葉に、島藤の文句は聞こえていないらしい。
「本当に、こいつの使い魔になるのか? こんな奴だぞ」
「う゛ーーん……」
都合の悪い言葉に、聞く耳を持たない明日葉を指さしながら確認してくる島藤に、少し返答に困ってしまった。
子供たちを助けてくれた。
それは、確かにそう。
だけど、ボクの体を問答無用で切ったし、大事なことを事前に説明してくれない。他人の話を聞かない。
そこはかとなく香る、頭の悪さ。
「どうしよう……アスハの良いところが、全然思いつかない……」
「は……!?」
「リョースケたちを助けてくれたこと以外だと……ちょっと待って……」
「強いですよ。すごぉ~~く」
「う゛、ん。それは、ボク、実際に切られてるし……わかってるんだけど……それ、以外……」
「不貞腐れるよ!?」
「そういうとこだよ」
すでに不貞腐れたように怒鳴る明日葉に、言葉を返せば、頬を膨らませている。
大人のようなのに、涼介たちと話している気分になる。
島藤も、少し同情するような表情で、明日葉とボクへ目をやっていた。
「……このモンスターの種族が気になるなら、訓練所で調べてみればいい。大図書館でも、召喚士もいるだろうしな」
「あ、そっか。その手があった」
「じゃあ、こっちの文句に戻っていいか?」
「ダメでーす」
さっき、もう聞いたもん。と、また話を聞く気がない明日葉を捕まえて、島藤の前に持ってくれば、ふたりから驚いたように見られた。
「そんなことしてるから、”強い”以外に、良いところ出してもらえないんだよ」
「だ、だって、この話、どうせ、3ループぐらいするだけだよ!?」
「ボクも一緒に聞くからさ。ふたりで割ったら、1.5ループぐらいだよ」
「その割り算にはならない、けど…………ン゛ン゛ン゛……」
まだ不貞腐れてはいるけど、島藤から離れるようとするのはやめた明日葉に、島藤は意外そうにその様子を見ていたが、少しだけ吊り上がっていた目尻を下げた。
「せめて、無言で切るな。出たなら、状況の報告はしろ。わかったか?」
「はぃ……」
「わかったら、もういい。さっさと、そいつのこと、調べに行ってこい」
意外そうに島藤に目をやっている明日葉は、少しだけ警戒するように距離を取り、ボクの手を取る。
「本当に? もういい? 本当……? 行っちゃうよ?」
「普段から、お前が真面目に話を聞いてれば、5分もかからねェ話なんだよ。こっちだって、暇じゃねェんだ」
普段、どれだけ話を聞いていないのか、心配になるが、島藤はそれだけ言い残すと、部屋を出て行った。
「本当に、帰った……」
「アスハ……もう少し真面目に話を聞きなよ……」
たぶんだけど、あの島藤って人は、悪い人ではなさそうだった。
むしろ、悪いのは明日葉の方だ。
「まぁ、明日葉さんも、これで説教はとにかく話を聞いて、頭下げたら、さっさと終わるってわかったでしょ」
「それもなんか違う気がする……」
「生きてりゃ、理不尽なんてごまんとあるんだ。諦めと妥協だよ。説教、クレームなんて、最たるもんだって」
少し、納得はできないけど、なんともコメントをしがたかった。