02
「受理できません」
断られた。
窓口で書類を渡して、すぐの事だった。
「なんで!?」
明日葉にも、意外だったようで、驚いたように声を上げれば、窓口の人は、渡した書類をこちらへ見せながら、理由を説明してくれる。
「種族欄に、”ゴーレム”と記載されていますが、召喚ではない場合、より詳細な種族が必要になります」
「より詳細な種族……?」
「ゴーレムなら、ストーンゴーレム、アイスゴーレムなどです」
「あぁ、なるほど……」
そう言われながら、明日葉はボクの方へ振り返り、受付の人へ振り返り、もう一度ボクへ振り返った。
「カーフって、何ゴーレム……?」
「わかんない……」
「………………新種では?」
その言い分けは、通らないのではないだろうか……?
「それでは、受理できません」
ボクの頭に浮かんだ疑問と同じ答えが、見事に返ってきたのだった。
「――だって!!!!」
第八部隊の部屋に戻ってくると、明日葉はさっそく、先程の窓口でのことを、近江と炎歌のふたりに伝えていた。
「あらま……確かに、それを言われたら……何ゴーレムだ……?」
「サンド、クレイ……しっくりこないわね……何かしら……今の形が、一番楽な形なんですよね?」
「うん……」
ふたりは、ボクのことを、頭の上から足先まで観察しながら、首を傾げている。
ゴーレムであることに違いはないらしいが、種類となると、ふたりも思いつかないらしい。
「自分じゃ、なんか思いつかないのー?」
「自分が何者か、ってこと……?」
ゴーレムというのは、確かに涼介たちに言われた覚えがあるけど、それ以上は何も言ってなかった。
そもそも、自分で、自分が何の種族かと聞かれて、答えられる人が何人いるのだろうか。
「なんだか、哲学的になってきましたね」
「必要なのは、人間が定義したモンスターの分類だけどな。哲学はいらねぇ」
「新種じゃダメなのー?」
「新種は新種で、今まで存在していないって証明をしないといけないからな」
「えぇ……めんどくさ……」
「お前みたいな、何でもかんでも新種っていう奴がいるからだよ。そもそも、新種の証明の方が、圧倒的にめんどくさい」
今までに、確認されていないモンスターであることを証明するために、関連する論文を根こそぎ調べて、カーフが該当しないことを証明する必要がある。
該当する種族がいれば、その時点で種族が確定するため、新種ではないということになる。
どちらにしろ、カーフを使い魔にするためには、種族を確定させなければいけないのだから、やることは同じだ。
「…………ところで、オーミ」
ボクの種族については、気になることもあるが、今はもうひとつ、気になることがあった。
「アレって、手伝った方がいいかな?」
明日葉は、今、部屋に戻ってきた時に、破壊したドアの蝶番を直していた。
あまりにも、ふたりは気にしていないし、明日葉も壊した瞬間に、奇声を上げ、ドアの脇に座って、修理を始めた様子から、よくあることということは想像がついた。
ついているのだが、気になるものは、気になる。
「いつものことだし」
やはり、いつもの事らしい。
そこでようやく、入口の外で、ドアを修理している明日葉へ、近江も少しだけ目をやって、ため息をついた。
「直らなかったら、最終的に、俺に来るから」
「なんか、ごめん……」
ダンジョンにいる時から、近江がいろいろ苦労していることが、なんとなく窺えてしまって、申し訳ない気持ちになる。
「またドア壊したのか……」
ドアを止め直している明日葉のことを、呆れながら覗き込んできた、見た覚えのない男の人。
「今日は、蝶番だけ。しかも、もう直りそう」
ねじ止めを終え、何度か、ドアの開閉を確認している明日葉と、その様子を眺めながら待っている男の人。
印鑑を勝手に使われた隊長だろうか。
そして、ドアが直ったのを確認すると、明日葉は、その人と一緒に中に入ってきた。
「昨日の事なん、だ、が……」
部屋に入ってきたその人は、ボクを見上げると、驚いたように言葉を止める。
「あ、そうだ。島藤さん、このゴーレム、何ゴーレムだと思います?」
「は、ハァ……!? おま……! また変なの拾ってきたのか!?」
「また……? まぁ、使い魔にしようとしてます。それで、何ゴーレムか、必要なんです。わかりません?」
島藤が驚く中、隣で近江が炎歌へ目をやり、首を横に振られている辺り、どうやら、ボクのことを、島藤には伝えていなかったらしい。
というか、明日葉も明日葉で、気にしなさ過ぎではないだろうか。
たぶんだけど、この人の反応が、一般的だと思う。
「伝えてませんよ。絶対、揉めるじゃないですか」
予想通りです。と、島藤を指す炎歌に、近江とボクの表情は、完全に同じものだった。
「オーミ、オーミ、ボク、ここにいて大丈夫……?」
「むしろ、ここにいないと危ねぇだろ……」
つい、怖くなって、近江の肩を掴んでしまうと、近江は、今日一番の引きつった表情で答え、炎歌は、変わらない笑みで、ボクたちのことを見ていた。