10
周囲の物体を取り込むことのできるゴーレムへの対抗手段は、大きく分けてふたつ存在する。
ひとつ、苦手な属性魔法による攻撃。
これは、核ではない場所へ攻撃しても、それなりにダメージが入る。
ただし、魔法を使える人間が少ないことともあり、実際に行われることは少ない。
ふたつ、広範囲を攻撃する方法。
これが一般的であり、纏っている外皮を剥がし、核の位置を特定、破壊する。
ダンジョンの外や、ダンジョン内でも雑魚となれば、今のような、部屋一面の壁や天井から、敵の一部が生えてくるようなことはない。
だが、ここはダンジョンの最深部の、俗にいう”ボス部屋”と呼ばれる場所で、戦っている相手は、再活性化してから一番に生まれた”ボスモンスター”となれば、今の状態もおかしな話ではない。
「単純にめんどくさい!」
力も、魔力も、明日葉に及ばないし、いつもならまとまった辺りで、力任せに粉砕して終わりだ。
しかし、今は、力任せに粉砕して、ダンジョンそのものが壊れても問題だ。
後先考えずに、腕を引きちぎったり、当たったらいいなで、思いっきり切り飛ばしたのが悪かった。
体を構成する素材が足りないのか、ボスモンスターは核をひたすらに隠し、魔力と体の素材を求めるように、カーフや子供たちを狙い、明日葉に向かってくるのは、完全に時間稼ぎだ。
「ん?」
触手を切りながら、本体を探していれば、突然、触手の動きが変わった。
怒っているような、怯えたような震え。
カーフが何かしたのかと、視線をやれば、会った時と同じような複数の腕を背中から生やし、自分たちに迫る触手を引きちぎっては、取り込んでいる。
「おぉ……? ゴーレム同士って、取り込み合戦するんだ……」
『なにそれ……気になるから、映像開くな』
「酔うんじゃないの?」
『酔わないように、しばらく止まってくんない?』
「え゛ぇ゛……」
戦闘中の相手に言う言葉ではないが、明日葉は、眉を潜めると、携帯を吊っていた金具を取ると、携帯を放り投げた。
宣言通り、映像を見ているらしい相手からの感嘆の声が響くが、明日葉はそれには目もくれず、部屋の隅、瓦礫の影に見えた、小さな白い塊に向かって、跳躍する。
「みぃ~っけ」
手のひらに乗りそうな程、小さくなった繭の形をした核は、刀を向ける明日葉に、微かに蠢いたが、逃げるよりも早く、刀が突き刺さった。
*****
「では、こちらでも、村の方に確認してみます。一先ず、今晩は、病院の方で預かる形にします」
「はい。でも、返さない方向で」
「わかりました」
ダンジョンの入り口で、遅れてやってきた治療班へ、子供たちを引き渡した後、明日葉は大きく腕を伸ばした。
「よぉ~し、終わった終わった」
「ぁ、アスハ」
「ん?」
子供たちを運び疲れたのか、子供たちを治療班に引き渡している間、座っていたカーフは、ようやくゆっくりと立ち上がり、明日葉に呼びかける。
「その、ありがとう。あの子たちを助けてくれて」
「どういたしまして」
「…………本当に、ありがとう」
深々と頭を下げているカーフの頭を見下ろす明日葉は、何かを思い出したように、ポケットに手をやると、銀色の球体を取り出した。
「そうだ。カーフ、これ食べる?」
「なに、これ……?」
「さっきのゴーレムの核」
不思議そうに顔を上げたカーフは、その言葉に、びっくりしたように顔を上げた。
「魔力、切れてるんでしょ? ゴーレム同士で取り込みやすいなら、食べる?」
「え、う゛、う゛ーん……お腹壊さないかな……?」
「ゴーレムの生態はわからないけど、さっきまで食べてなかった……?」
「た、確かに……」
あの時、白いモンスターの腕を取り込んでから、新しく腕も足も作り出すことができた。
これが核だというなら、これを取り込めば、重く怠い体が、少し軽くなるかもしれない。
「でも……」
手に乗った銀色の球体を見つめたままのカーフに、突然向けられる銃口。
「小樟隊員!? そいつは、先程のモンスターでは!?」
「そうだよ?」
「!!」
「あ゛、そういえば、戦ってる体だったっけ……」
険しい表情でカーフへ銃口を向ける隊員と、忘れてたとばかりの表情をする明日葉。
そして、悲し気に、しかし、諦めたような表情をするカーフ。
カーフは、手に乗った核を明日葉へ返そうと、握った時だ。
明日葉の伸ばした手が、首へ回り、強く引き寄せられる。
「なんやかんやで、相棒になりました」
「「……は?」」
カーフと隊員の困惑した声が、きれいに揃った。
「なんやかんやのところは、報告書であげるんで、あとで確認しといてください」
いいのか、それで。と、明日葉へ目をやれば、バッチリと目が合い、微笑まれた。
その笑みに、カーフは小さく息を吐き出すと、同じように微笑んだ。