表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/31

10

 周囲の物体を取り込むことのできるゴーレムへの対抗手段は、大きく分けてふたつ存在する。


 ひとつ、苦手な属性魔法による攻撃。

 これは、核ではない場所へ攻撃しても、それなりにダメージが入る。

 ただし、魔法を使える人間が少ないことともあり、実際に行われることは少ない。


 ふたつ、広範囲を攻撃する方法。

 これが一般的であり、纏っている外皮を剥がし、核の位置を特定、破壊する。


 ダンジョンの外や、ダンジョン内でも雑魚となれば、今のような、部屋一面の壁や天井から、敵の一部が生えてくるようなことはない。

 だが、ここはダンジョンの最深部の、俗にいう”ボス部屋”と呼ばれる場所で、戦っている相手は、再活性化してから一番に生まれた”ボスモンスター”となれば、今の状態もおかしな話ではない。


「単純にめんどくさい!」


 力も、魔力も、明日葉に及ばないし、いつもならまとまった辺りで、力任せに粉砕して終わりだ。

 しかし、今は、力任せに粉砕して、ダンジョンそのものが壊れても問題だ。


 後先考えずに、腕を引きちぎったり、当たったらいいなで、思いっきり切り飛ばしたのが悪かった。


 体を構成する素材が足りないのか、ボスモンスターは核をひたすらに隠し、魔力と体の素材を求めるように、カーフや子供たちを狙い、明日葉に向かってくるのは、完全に時間稼ぎだ。


「ん?」


 触手を切りながら、本体を探していれば、突然、触手の動きが変わった。


 怒っているような、怯えたような震え。


 カーフが何かしたのかと、視線をやれば、会った時と同じような複数の腕を背中から生やし、自分たちに迫る触手を引きちぎっては、取り込んでいる。


「おぉ……? ゴーレム同士って、取り込み合戦するんだ……」

『なにそれ……気になるから、映像開くな』

「酔うんじゃないの?」

『酔わないように、しばらく止まってくんない?』

「え゛ぇ゛……」


 戦闘中の相手に言う言葉ではないが、明日葉は、眉を潜めると、携帯を吊っていた金具を取ると、携帯を放り投げた。


 宣言通り、映像を見ているらしい相手からの感嘆の声が響くが、明日葉はそれには目もくれず、部屋の隅、瓦礫の影に見えた、小さな白い塊に向かって、跳躍する。


「みぃ~っけ」


 手のひらに乗りそうな程、小さくなった繭の形をした核は、刀を向ける明日葉に、微かに蠢いたが、逃げるよりも早く、刀が突き刺さった。


*****


「では、こちらでも、村の方に確認してみます。一先ず、今晩は、病院の方で預かる形にします」

「はい。でも、返さない方向で」

「わかりました」


 ダンジョンの入り口で、遅れてやってきた治療班へ、子供たちを引き渡した後、明日葉は大きく腕を伸ばした。


「よぉ~し、終わった終わった」

「ぁ、アスハ」

「ん?」


 子供たちを運び疲れたのか、子供たちを治療班に引き渡している間、座っていたカーフは、ようやくゆっくりと立ち上がり、明日葉に呼びかける。


「その、ありがとう。あの子たちを助けてくれて」

「どういたしまして」

「…………本当に、ありがとう」


 深々と頭を下げているカーフの頭を見下ろす明日葉は、何かを思い出したように、ポケットに手をやると、銀色の球体を取り出した。


「そうだ。カーフ、これ食べる?」

「なに、これ……?」

「さっきのゴーレムの核」


 不思議そうに顔を上げたカーフは、その言葉に、びっくりしたように顔を上げた。


「魔力、切れてるんでしょ? ゴーレム同士で取り込みやすいなら、食べる?」

「え、う゛、う゛ーん……お腹壊さないかな……?」

「ゴーレムの生態はわからないけど、さっきまで食べてなかった……?」

「た、確かに……」


 あの時、白いモンスターの腕を取り込んでから、新しく腕も足も作り出すことができた。

 これが核だというなら、これを取り込めば、重く怠い体が、少し軽くなるかもしれない。


「でも……」


 手に乗った銀色の球体を見つめたままのカーフに、突然向けられる銃口。


「小樟隊員!? そいつは、先程のモンスターでは!?」

「そうだよ?」

「!!」

「あ゛、そういえば、戦ってる体だったっけ……」


 険しい表情でカーフへ銃口を向ける隊員と、忘れてたとばかりの表情をする明日葉。

 そして、悲し気に、しかし、諦めたような表情をするカーフ。


 カーフは、手に乗った核を明日葉へ返そうと、握った時だ。

 明日葉の伸ばした手が、首へ回り、強く引き寄せられる。


「なんやかんやで、相棒になりました」

「「……は?」」


 カーフと隊員の困惑した声が、きれいに揃った。


「なんやかんやのところは、報告書であげるんで、あとで確認しといてください」


 いいのか、それで。と、明日葉へ目をやれば、バッチリと目が合い、微笑まれた。


 その笑みに、カーフは小さく息を吐き出すと、同じように微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ