01
”秘密”だと言って、連れていかれた森で見せられたそれ。
「――?」
幼い自分たちの腕の中に収まってしまうような、小さくて丸いフォルムで首を傾げるモンスターに、子供たちはモンスターが危険であることも忘れて、興奮した。
「かわいい……!! 育ててるの?」
「うん。でも、モンスターだから、家には連れていけなくて……」
「秘密にしてるの? モンスターだよ? 危ないよ」
「大丈夫だって。こんなに小さいし、ほら、兵隊さんもモンスターと一緒にいることあるし。ねー?」
問いかけに、不思議そうに首を傾げていたが、その小さなモンスターは、問いかける子供の表情を真似るように、笑顔を作った。
数人の子供たちは、少しだけ不安そうだったが、それもそのモンスターと触れ合う機会が増えるほどに、すっかり忘れていった。
「ヤバいヤバいヤバい……!!」
慌てたように、山道を駆けあがってきた少年 涼介は、森の開けた場所で足を止めると、周囲を必死に見渡し、何もない様子に顔を青くする。
「どうしたんだい? リョースケ」
ぬるりと木の上から首を伸ばし、問いかけるモンスターに、涼介は驚いたように振り返り、伸びた首に抱きついた。
「カーフ!! よかったァ!! 無事だったァ……」
「んん? あぁ、もしかして、さっき来た大人のことかな?」
物心もついていない小さな時から、彼らは大人が来るたびに、カーフと名付けたモンスターを連れて、木々に隠れ、大人たちをやり過ごしていた。
いくら本人たちが隠そうとも、所詮は子供。
家から必要なものを持ってくれば、親は不審に思うし、危ないものでないかと確認するために、子供たちの後をつけることだってする。
それでも、カーフはこの三年見つかることはなかった。
「フフフ~~ボクは、かくれんぼが得意だからね」
運が良かったこともあるだろう。
だが、一番の理由は、カーフのゴーレムとしての能力だ。
触れるものを吸収することのできる能力は、たった数年の内に、子供を丸呑みできる程の体の大きさへ成長させた。
その上、その体は、いともたやすく変形し、小さくなることも、細くなることも、草木に擬態することもできた。
「はぁ……はぁ……カーフ、見つからなかった……?」
「よかったぁ……」
「みんな……ありがとう。ボクは大丈夫だよ」
遅れてきた他の子どもたちが、息を切らしながら、安心して微笑む様子に、カーフは同じように彼らに微笑んだ。
だが、そんな日々は、突然崩れ去った。
「アイツら、モンスターを隠れて育ててるんだ!!」
名前も知ってる、かつて一緒に遊んだこともある友達の一人だった。
誤魔化す暇などなく、カーフを匿っていた子供たちは捕まり、カーフもすぐに見つかった。
「こんな大きなモンスターを隠していたなんて……」
「え、なに? どういうこと? ヒカル? ねぇ、説明してよ!」
今まで必死に隠してきたはずの大人を連れてきた光に、カーフは狼狽えながら問いかけるが、光は両親の背中に隠れ、ばつが悪そうに目を逸らすばかり。
困惑するように周囲を見渡しても、説明してくれる友達はおらず、敵意と恐怖に滲む視線が突き刺さるだけで、状況を説明してくれる人はいない。
「他の子は? 大人の人に見つかったらダメって、そう言ってなかった……?」
誰でもいい。
初めて感じる敵意ばかりの視線を教えてほしいと、自分を取り囲む大人へ視線をやれば、一番歳を取った男が一歩前に出てきた。
「人語を解すか……やはり、他の子らは唆されたのだ」
「そそ、のかす……? なんの話?」
「お前が利用した子供たちは、ダンジョン深部の牢に入れた。もう、お前の手駒はいないぞ」
”ダンジョン”
子供たちから、危ないから近づいてはいけない場所だと、教わった場所だ。
そんな場所に入れられた……?
「なんで……どうして……あぁ、ヒカルがやったのか……!? ただの冗談じゃ、済まないんだぞ……!!」
「ッ」
いつもの他愛のない喧嘩では済まない。
カーフが、光へ詰め寄ろうとすれば、目の前に突くように構えられた槍。
両目に涙を貯めて、目を逸らした光へ、カーフは目を細めるが、何も言わない彼に、カーフは顔を逸らすと、この村の近くにあるダンジョンへ急いで向かったのだった。