王都出立
かなり長くなってしまいました。
まずは、薬師ギルドに行った。ここはポーションや薬草類などや調合器具の購入でお世話になってきた。建物に入ると薬草の青臭い匂いや薬品の独特な香りが漂っていて、私は顔馴染みの受付係に挨拶しにカウンターへ向かった。「こんにちは、エルアリアさん、今日もお綺麗ですね。」「こんにちは、レイさん、本日はどの様なご用件で?」エルアリアさんはそう言って薬品の匂いがするエプロンを制服の上に着けたまま返事をした。
エルアリアさんはエルフの綺麗なお嬢さんで、薬師ギルドの看板受付嬢として冒険者の中でも有名な人だ。「実はですね…」と私が用件を伝えようとした時、ギルドの裏手にある工房の方からドン!という爆発音のような音が聞こえた。私とエルアリアさんは顔を合わせて「何かあったみたいですね。」「えぇ、なんでしょうね。」と会話した時、ギルドの他の職員が大慌てでギルドのホールにやって来てこう言った。「大変だ!回復ポーションの調合タンクでトラブルが起きてポーションの調合が失敗した!それも半分近くが!」この報告を聞いた瞬間ギルド全体が大騒ぎになった。「なんだって!」「今すぐギルドマスターを呼んで来い!」「薬師ギルドの沽券に関わる一大事だ!」など上へ下への大騒ぎである。エルアリアさんが駆け足で工房に向かったので、私も急いでその後を追った。
工房はギルドのホールよりも大騒ぎになっていて、薬師達が走り回り、あちこちで魔法や魔道具が発動していた。私は近くにいた薬師に事の経緯を教えてもらった、薬師によると調合タンクの温度設定を一括して行う魔道具に誤って運んでいた荷物がぶつかり、温度設定が滅茶苦茶になった事が原因らしい。薬師達は、「再調合はどうだ?」「無理だ!少しならともかくこんな何個も大型タンクが駄目になったら俺たちもマスターでもこの量をもとに戻すのは難しい!」などと会話していた。確かに一般的なフラスコの量ならともかくこんな量をまた使えるようにするのは不可能に近い、だがその問題を解決する手段が無いわけではない。
私は自分の荷物から巻物用の羊皮紙を取り出すと、錬金術で作った貴金属とヒュドラの鱗のインクで×を並べて書いた○の魔法陣を羊皮紙に転写し、それをタンクに1枚ずつ貼っていった。そして薬師ギルドの人が気付かないように自分とリンクさせ、〜無限の錬金術師〜を発動させた。
すると魔法陣が淡く光り、私の頭の中にタンクの中身の状態の情報が流れて来た。私はその情報を元に、近くにあった薬草を分解して薬効成分を取り出すとタンクの中身に混ぜ合わせて、成分を調合失敗前まで戻すだけでは終わらせずに、回復ポーション全てを完成させた。すると薬師達は次々にポーションが完成したのをみて驚愕していた。
そしたら、エルアリアさんがなんだか怖いぐらい真剣な表情をして私に「もしかして、貴方がコレをやったんですか?」と聞いてきた。すると周りで騒いでいた薬師ギルドの人達も全員静かになって、「あれをあの人が⁉︎」「ウソだろ!そんな事できるはずがない!」とか言い始めた。私はエルアリアさんの質問に「えぇ、でも大した事じゃないですけどね。」と答えた。すると、エルアリアさんは私に頭を下げて「ありがとうございました、これでギルドは信用と地位を失わずに済みます。本当にありがとうございます。」と深い感謝を述べてくれた。
周りの薬師達も、口々に「ありがとうございます。これでギルドも安心できます。」「本当にありがとうございました。このご恩はいつか必ず。」などの感謝の言葉をかけてくれた。私は「いえいえ、いつもお世話になってたほんのお礼です。」と言ったのだが、「そんな、なんて謙虚なお人だ。」と言われて少し困っていたら、エルアリアさんが「お願いします。是非王都薬師ギルドに所属してください。住居も給金も最高のものを用意いたます。」とお願いされた。
私は少し罪悪感を抱きながらエルアリアさんに、「いえ、残念ですがそれはできません。私は王都から出て行くので、今日はお別れの挨拶に伺ったんです。本当申し訳ないが登録ぐらいしか私には出来ない。」と答えたら、「それは…何故、何故なのですか?」エルアリアさんがなんだか可哀想な声で質問してきた。私は「実はパーティーメンバーに「お前は役立たずの無能だから出てけ」みたいな事を言われましてね。王都にこのまま住む訳にもいかないので引っ越しして違う街にでも行こうかな〜と。」それを聞いたギルドの人達が驚いた顔をしていたので、私はそのまま「それでは皆様、お元気で。」と言ってギルドを後にして次の目的地に向かった。後ろから薬師の人が追いかけてきたので走って撒いた。
そうして向かった次の目的地は、『キャネル最高級洋服店』洒落たガラスのショーウィンドウには、見た目が美しいドレスが飾ってあり、店内には貴族の御婦人や使用人の姿がちらほら見えていた。
この店は客層から分かる通り、貴族御用達の王都でも指折りの高級洋服店で、使う素材や従業員もその店に相応しい素晴らしいものになっている。私は、一般人なら尻込みするであろう空気の店内に入って行くと従業員の1人が私に「ご用件は?」となんだか値踏みするような視線を向けながら聞いてきた。私はそんな視線を気にも留めないで、「店長さんに用事があって来ました。」と答えたら、店の奥から店長のかなりガチムチな男性がやってきて「アラ〜レイちゃん、お•ひ•さ•し•ぶ•り♡」と、独特な喋り方で挨拶してきた。「お久しぶりです、エリックさん」私がこう挨拶を返すと、「もぅ、ちーがーう!エリーて呼んでって前も行ったじゃない」とエリックさんもといエリーさんが返す。
このやり取りが始まるのも、もはや恒例行事だ。「分かりましたよ、エリーさんコレでいいですね。」「はいはい、分かればよろしい!それはそれとして、アタシから早速お願いがあるのよ〜、聞いてくれるかしら?」私が頷くと「助かるわ〜、貴方に頼みたい事は…。」エリーさんが店の裏にある裁縫室に私を連れて行くとそこには、ドレスのデザイン画が置いてありエリーさんは、「このドレスなんだけどね「来月の夜会で奥様が着たいデザインです。」て、使用人のお爺さんが持って来たんだけど…かなり厄介な依頼でね。」私がデザイン画をよく見ると深い青の生地で光の当たり具合で虹が見えるようにして欲しいと書いてあった。私が「つまりは魔法が掛かった布で作れということですね。」「そうなのよねぇ〜、魔法の掛かった布は確かに素晴らしいものが出来るんだけど、今はこの依頼に必要な布が足り無いのよ、だから厄介な依頼ってワケ。」
確かに、この店でも魔法の掛かった布製のドレスの依頼は、年に数回も無い。在庫が元々少ないのに特注しなければならない深い青色の魔法の掛かった布は、残念ながらあと3ヶ月以上かかるそうだ。
「だ•か•ら、貴方の出番てワケ!同じ色の布自体はあるからそれを貴方がチャチャッとやってくれれば、仕事ができるのよ!」私は頷くと早速、作業に取り掛かった。
まず、自分の無限収納袋から魔法陣の描かれた木の板を取り出し、錬金溶液を張ったタライ状の模様が彫り込まれた金属容器を載せ、それに布を入れる。その後は、〜無限の錬金術師〜と〜全魔の智〜、〜完璧なる創造者〜の3つのスキルを使い魔法を付与する。五分ほど経ってから布を取り出して触れた布を完璧に乾かせる魔道具を取り出して使用し、魔法の掛かった布の完成である。
終わったことをエリーさんに伝えると「ありがとう。助かったわ、やっぱり貴方に任せて正解だった。」そう言ってエリーさんは、何やら銀行宛に書類を書くと従業員の1人に持って行かせた。私はここに来た用件を思い出し、エリーさんに「エリーさん今日は伝えなきゃいけないことがあって来ました。」エリーさんが「な〜に〜、改まっちゃてぇ、貴方とワタシの仲なんだから遠慮しないで♡」と言ったので、「実はですね、パーティーメンバーに「お前は役立たずの無能だから出てけ」みたいな事を言われましてね。王都にこのまま住む訳にもいかないので引っ越しするんですよ。」と言ったら、「ウソだろオイ!」とエリーさんは、今まで聞いたことがないぐらい低い声で私の肩を掴んで言った。
それからパッと手を離すと軽く咳払いをして、「本当に本当なの、その話?」と言ってきた。「はい本当です。」私がこう答えると、エリーさんは「嘘でしょ…それじゃアタシとのデートが出来ないじゃない…。」「そんな約束は今まで一度もしていませんし、今後もしません、ですがこれだけ言っておきます。今までこんな男に時間を割いてくださりありがとうございました。どうかお元気で」
私はそう言うと全力疾走でその場を後にした。別れが寂しいのもあったが、あのままあの店にいたら危険な気がしたからだ。
私が次に向かったのは、王都最大規模の鍛冶屋である。
『ゴドウィッグ工房ドワーフ印王都支店』そう書かれた大きな看板を掲げている近づいただけで金属の臭いが鼻にくる店の裏手に回って、裏口を叩くと背が平均より低い赤毛の女性が作業着に耐火手袋という格好で出て来た。
最初は訝しげな表情だったが、私の顔を見てすぐに、ニカッという擬音が聴こえるような笑顔になって「おう、レイじゃねーか、面あまり見せねえから忘れちまったかと思ってたぜ。」と男勝りな口調で言ってきた。
「お久しぶりです、モニカさん。お父さんは元気ですか?」「オヤジなら、元気してるぜ!ただな〜。」私の顔を見ながら続けて、「オヤジお前が来たらやたらとアタイと話させようとしてくんだよなぁめんどくせ〜ぜ。」「それは置いといて、今日はお父さんにお話があって来たんですよ」「フ〜ンそっか、なら手短にな、オヤジ今忙しい時期だからよ。」と私はモニカさんと店の工房に向かった。 「はいはい分かってますよ、3年に一度の武術大会があってその出場者の人達が、この鍛冶屋に依頼をたくさん持ってくるんでしたよね。」と言ったら、腕組みしながら隣を歩いているモニカさんがやや疲れたような声で、「そーなんだよなぁ、確かにオヤジの腕前はアタイが知る限りこの王都でアンタを除けば一番の鍛治屋だ。だけどよ〜、こんなに依頼くるのも考え物だぜこっちまで忙しくて休む暇もねぇ。」私は、「誰が一番かは置いといて、確かにお父さんの腕前はこの王都どころか色々な国の鍛冶屋が尊敬している程ですからね。」と返した。
工房に着いたら、店の鍛冶屋が総動員というように全員が忙しそうに刃を研いだり、鎚を振ったりしていた。その中でも、見事な大剣を前に作業にかかろうとしているドワーフの姿があった。このドワーフこそ、この店の主人にして世界でも著名な鍛冶職人、アルバドーム•ゴドウィッグその人である。
私の姿を見るとゴドウィッグさんは、作業しようとした手を止めて、「おう、レイ久しぶりだなぁちゃんとメシ食ってんのか?」と挨拶されたので、「えぇちゃんとご飯は1日3回は食べていますよ。」と返事をした。「そうかそうか、なら心配は要らねえな、ところで何の用だ?急ぎじゃねぇなら、ちょっと手伝ってくれ。」私は、「別に構いませんが…具体的には何を?」「ちょっとこっちに来い」私が指示された場所に向かうと、そこにあったのは、魔法が付与された、赤い宝石の飾りが付いた炎のような剣だった。
私が「これは、確かAランク冒険者パーティー『紅い獅子』のリーダーの剣で確か銘は炎剣フレオールで合っていましたか?」と言ったら、「そうだ、コイツは切ったら纏わりつく炎で敵にダメージを与え、所有者に火属性耐性のバフがかかる魔法の剣。」コンコンと、剣身を叩きながらゴドウィッグさんが続けて言う。「だけどなコイツの調整をやると、他の武器や武具もオレぐらいじゃなきゃ調整が難しいのがまだまだたくさんあるのに、コイツに時間が取られて他の調整ができねぇんだよ。」なるほど、確かにゴドウィッグさんの言う通りだ。
魔法の掛かった武器や武具の調整は時間がかかる、それなのに武術大会が行われる年なので、いつも以上に数が多くて大変なのである。「となると私に頼みたい事は…、この剣の調整ですね。」「おう、話が早くて助かるぜ。コイツさえ片づけば後の作業は楽になるからよ。」「分かりました、じゃあ早速作業に掛かります。」私は収納袋から錬金術で作ったアダマンタイトのハンマーと、複雑な魔法陣の描かれたマイ金床を取り出し、剣の調整に取り掛かった。
といっても私にはスキル〜鍛冶神の手〜と、〜完璧な創造者〜があるので、そのスキルをフル活用して30分で作業を終わらせた。
私が、「終わりました〜。」とゴドウィッグさんに声をかけると、ゴドウィッグさんは「やっぱお前さん、只者じゃあねぇなこんなに早く終わらせるなんてよ。オレでも半日はかかるぜ。」そう言って調整が終わった剣を眺めていた。
ゴドウィッグさんが「そういえばお前、なんかオレに用があったんじゃなかったか?」と言ったので私は「そういえばそうでした、実はですね、パーティーメンバーに「お前は役立たずの無能だから出てけ」みたいな事を言われましてね。王都にこのまま住む訳にもいかないので違う街にいって、そこで仕事しようと思ってこうしてお別れの挨拶をしに来たんですよ。」と答えた。
その言葉を聞いたゴドウィッグさんは、「なんだと!本当なのか?」その質問に対し私は、「ええ、誠に心苦しいのですが今日でお別れです。」モニカさんも、「今の話マジなのか?」と親娘揃って同じような質問をしてきたので、「マジです。」と返した。
そして次の目的地の事を考えていたら、真面目な顔をしたゴドウィッグさんが、「ちょっと耳貸せ」と言って店の隅に私を引っ張っていって私に、「お前さん、ウチの娘のことどう思う?」「どうゆう事ですか?」ゴドウィッグさんは、少し困ったような顔をして、「オレも結構歳をとってな、そろそろこの工房の跡継ぎを育てなきゃいけねぇて思い始めたんだ。」「それで?」「最初は、モニカに継がせようと考えてたんだけどよ、天に行っちまった母さんが怒るよなぁと思ってよ後継者を別にオレが選ぶ事にしたって訳さ。」「なるほど、それはそれとして、モニカさんをどう思っているかは別なんじゃ?」「いや関係大アリだ、モニカの父親として、この鍛冶屋の主人として、お前さんに頼みたい。モニカと結婚してこの工房を継いでくれ!」ゴドウィッグさんは、私に対して頭を下げながらこう言い切った。
私はなんと声をかければよいのか、しばらくの間迷ったが、「何故、私なんですか?」と一番気になっている事を聞いた。「理由か?ンなもん簡単だよ、モニカもお前を気に入ってるし、オレもお前を気に入ってる。それに、モニカはオレが男手一つで育てたから自分で言うのもなんだが、男勝りな性格でかなり嫁の貰い手に苦労すると思うんだ。お前さんが貰ってくれたらオレも安心できるし、何よりこの工房の跡継ぎができるしな、一石二鳥て訳よ」とあっけからんに言われた。
私がどう答えようか悩んでいたら、ゴドウィッグさんは、「まぁあれだ、別に強制じゃねぇからよ、独り言だと思ってくれていいぜ」私はそう言われて、自分の中で整理がついた。「分かりましたじゃあ私がしばらく王都から離れて生活してお金が貯まったら婿入りします。」と伝えた。「そうか、別に受けてくれるなんて考えて・・・ちょっと待て今なんて言った?」ゴドウィッグさんは聞き間違いを疑っているのか聞き返してきたので、「今すぐとはいきませんが、必ず娘さんを幸せにします。なので少しだけ時間を下さい。」私はゴドウィッグさんにそう伝えた。
ゴドウィッグさんは「本当に、娘を迎えに来るんだな。」と真剣な声色で言った後、「分かった。絶対に迎えに来い、来なかったらオレが探し出してブン殴るからな。」と言い「さぁ行け!早く行って、仕事して金貯めて早く迎えに来い。」と言われて、私はゴドウィッグさんに見送られながら、次の目的地に向かった。次の目的地にいる人には、もしかしたら会えないかもしれないなぁと思いつつも、目的地に着いた。
そこは王城で、私は門番の騎士に普通に止められた。「そこのお前、一体王城に何の用だ。」私は「実は、王宮騎士団長であるアマリア•メイブル•ウォーレスト様に、用事がありまして。通してもらう事ってできますか?」「団長に?団長にお前みたいな細くて弱そうな男の知り合いがいたのか?というか本当に知り合いか?」
私は門番に、嘘をついているのではないかと疑いをかけられていた。「お前みたいな地味な奴があの団長にお近づきになれる筈も無いし、やっぱり嘘をついて…んん⁉︎」突然何かを思い出したように門番が私の顔をまじまじと見つめ、少しカタカタと震えはじめた。そして、私を指差して「お前はいえ、貴方は確かあの事件の時の…失礼しました!団長にお伝えして来ます。」門番は大慌てで私の事を報告しに走って行った。
そしてしばらく経ったら、戻って来て私に、「団長がお呼びです、どうぞこちらへ」そう言って門番の騎士は「ご案内しろ」と一緒に来た騎士に命じて職務に戻った。私はその騎士と一緒に、団長のいる騎士団の詰め所にある執務室に向かった。そこにいた人物こそ、この国や他国でも有名な剣士であり、武術大会三連覇の猛者中の猛者、王宮騎士団長、アマリア•メイブル•ウォーレストである。
彼女は、公爵令嬢だったが、とある冒険物語に出てくる女剣士に憧れて剣士の道を選び、騎士見習いから3年で最高栄誉勲章を獲得した化け物みたいに強い人で、頬に騎士団の遠征訓練中にドラゴンとの一騎討ちでできた4本の傷がある。まあその傷があったとしても崩れない程の美貌で、今でも縁談の話が国内外からも絶えないとの噂だ。
私は「アマリアさん、お久しぶりですね。わざわざ私なんかのためにお時間を割いて下さり感謝致します。」と挨拶したら「別に大したことでは無いよ、どうぞ楽にしてかけてくれ。」と言われアマリアさんが指差した椅子に掛けた。「それで私に何の用かな」と向こうから会話を振って来たので、「実はですね、パーティーメンバーに「お前は役立たずの無能だから出てけ」みたいな事を言われまして、お別れの挨拶をしに来たんですよ」するとアマリアさんは、一瞬だけ驚いた表情を見せた後、落ち着き払った表情で「そうか君ほど者を追放とは…君の元パーティーメンバーは全員馬鹿だな。」「買い被り過ぎですよ」「いや、買い被っては無いさ、この国で私と互角以上に渡り合える人間は君ぐらいだよ。しかも、戦士ですら無い君がね。」と真面目な顔で言われた。
私は会話の内容を逸らす為に、「そういえば、姫様はお元気でお過ごしですか?」と質問した。「あぁ、姫ならあの事件があったすぐの頃より元気になられたよ。その節は世話になったな。」「いえいえあの時は、偶然遭遇しただけですから本当に運が良かったんですよ。」私は2年前の事を思い返していた。
2年前私は、魔道具の材料を買う為に、王都の裏通りにある店で魔物の素材を買っていざ帰ろうとした時に、フード付きマントを羽織っている女の子が、三人組の荒くれ者といった印象の男達に追われ、走り去っていったので、慌てて後を追った。その女の子は私が追いついた時には、三人組に袋小路に追い込まれて、口を塞がれ、縛り上げられていた。
私は「その子を解放して頂きたいのですが…可能ですか?」と声を掛けたらその三人組は、「どうするよ、攫うとこ見られたぜ。」「殺しちまえばいいな」「殺るか」と会話し、私に襲いかかってきた。女の子は私が殺されると思い目をつぶってしまった。私は冷静に男達の様子を観察しつつ、自分のストレージ(スキル)からアダマンタイト製の棒を取り出し、一番最初に、私に近づいてきた男の短くて分厚い刃を持つファルシオンと呼ばれる剣を棒で素早く絡め取ると、その男の顔面に棒を叩き込んだ。
二人目は、なんと魔法を使い私に目掛け【火矢】を放ってきた、その【火矢】に対して私は、腕に嵌めておいた腕輪から【氷弾】を発射して相殺した。そして驚いている男の腹に全力で棒を槍のようにぶん投げると狙いが甘かったのか、股間に命中して泡を吹いて気絶してしまった。最後に残った男は、接近するのは危険と判断したのか、両手に持ったナイフをこっちに向かって投擲してきた。が私は相手のナイフが飛んで来る軌道が見えていたので、あっさり避けると、男は、「お前一体なに者だ?こんなあっさり二人ものししちまって、分かった降参する。」とやけにあっさり私に跪いた。
私はその男を無視して、女の子の様子を確認しに行くとカタカタ震えて縮こまってしまっていたので声を掛けようとした瞬間、背後から殺気を感じたので振り返りざま襲いかかってきた男の腕を掴むと、引き寄せて男に対して大外落としを繰り出した。男は頭を打って大人しくなったので、三人まとめて縛り上げておいた。私は女の子に対し、「もう怖い人たちはいませんよ。安心して下さい。私の名前はレイです。」と声をかけた。女の子は、恐る恐る目を開けると小さな声で私に「ありがとう」と感謝の意を伝えてくれた。
私は「よかったら家に送りますが、どこかで待ち合わせなどは?」女の子は、何故か王城の方を指差して「あそこ」と短く答えた。私はそこの近くに家があると思って、女の子に、「ではとっておきのアイテムで移動しましょう。どうぞお手を。」と優しく差し出した私の手を掴んだのを確認し、私は、貴金属をふんだんに使用した懐中時計を取り出し、その時計に付与した魔法【転移】を発動させて、王城の門近くに転移した。
いきなり景色が変わって女の子はかなり驚いていた。そして私が保護者を探していると、大声で、「姫様から離れろ!この下郎が!」と言われたと思った瞬間、剣を抜いた女性騎士が素早く接近してきて、私に向かって上段から全力で振り下ろしを繰り出してきた。私はそれをアダマンタイトの棒で軽く受け流した。するとその女騎士は、私と距離を取り攻撃の機会を窺い始めた。
そしたら女の子が、「アマリア今すぐに剣を下ろして、この人は私の恩人ですよ。」といった。するとその女騎士、アマリアさんは、「しかし、この男が下心なしで助けたとは簡単に信じられません。」「いえこの人は、私が王城を指しても、私が王家の人間と考えられない様子だったので下心はないです。」ちょっと傷つく言葉をお姫様が言ってくれたおかげで、どうやら誤解が解けたらしく、剣を納めると、私に軽く頭を下げて「疑ってすまなかった、姫様をどうやら救ってくれたんだな。このアマリア•メイブル•ウォーレスト悪意のない貴殿に、剣を向けたこと謝罪致します。」「いえ、仕える主の事を思えば当然の事、気にしてはいないのでこれで失礼」こんな会話をして帰ろうとしたら、お姫様が「いえ、お礼がしたいのでまだ帰らないでください」と言ったので、アマリアさんは、「姫様その役割は私が行います。姫様はお戻りください。流石にこれ以上危険がある、王城の外にいるのは駄目です。」「分かりました、でもちゃんとお礼をするんですよ。」とお姫様は言いアマリアさんの部下らしい騎士に護衛されながら王城に帰って行った。
私はアマリアさんに連れられて、何故か騎士団の訓練所に来ていた。「すまんな、貴殿に剣を打ち下ろした時に感じたあの気配が、若い頃に感じた師匠の気配と同じでな」と言いながら私に刃を潰した模擬戦用の剣を渡して続けた。「一回でいい私と勝負してくれ」私は正直面倒くさいと思いながらも、「分かりました一回ですね、早く始めましょう。」と剣を持って突っ立って言った。
そうしてお互いに準備を整えていると騎士団の人たちが集まって来て、「団長が戦うぞ」「どっちが勝つと思う?」「あの男なら俺でも勝てるな」「あんな細い奴が」などと言っていた。
最初に仕掛けてきたのはアマリアさんで、私の首めがけて袈裟斬りを放ってきたが、それを私は弾いた。「私を殺す気ですか?」「いや、貴殿なら余裕だと思ってね。軽いお遊びだよ、さて次からもっと手数もスピードも上げていくから、すぐには、やられないようにね。」「勘弁して下さい。」私はそう返しながら、次の動きに備えた。そして、約30分後私はまだ打ち合っていた。こんな芸当が可能だったのは、スキル〜体力無限回復〜で減った分の体力を即座に回復し、〜武芸絶対指南役〜でアマリアさんの動き(筋肉や姿勢、バランス、剣の癖、足運び、視線、剣の流派など)を見て体が自分でも驚くぐらいに、反応してくれるおかげで打ち合っていられるのである。それはそれとして、こんなズルいスキルを持っている私とまだ打ち合っているアマリアさんの方が、化け物じみていると失礼な事を考えていた。
一方のアマリアさんは、体力的に余裕があったが、内心とても焦っていた。というのも打ち合っていて自分は動き回っているのにも関わらず、私が一歩も動かないで受け流しや、回避をしてさらに、全く疲れた素振りを見せない為である。するとアマリアさんは、焦ってしまったのか、僅かに隙を見せた。私はその瞬間一気に踏み込み、アマリアさんの剣を絡め取ることに成功した。
そうして、私が勝ったのを見て、騎士団の人達が全員驚いた。「信じられない!」「嘘だろ!」「団長から一本取るなんて」「さぞ名のある剣士に違いない」などと言われた。私がアマリアさんに話しかけようとしたら、自分の手を見つめていたアマリアさんが、「貴殿騎士団に興味があるか?」と言ってきた。
私は「いえ、これで勝負は終わりですので、さようなら〜」と帰ろうとしたら、「いや、まだ礼をしていない」と言われたので、「じゃあツケといて下さい。」そう言って別れた。そして話は現在へ戻る。
「あの時貴殿と打ち合って分かったが、貴殿は間違いなく私より強いかった。」私は、「その辺関しては、自分でも対人戦闘は強いと思ってますけど、本業は冒険者なのでモンスター相手だとちょっとキツイんですよ。」「貴殿は謙遜が下手だな、その強さがあればどの国からでも、仕えて欲しいと声がかかるだろうに」「そういう堅苦しいのは嫌いです。」私は、そろそろ最後の目的地に向かいたかったので、アマリアさんに、「それではお元気で、姫様にもよろしくお伝えください」と言い出て行こうとしたら「貴殿そういえば礼がまだだったな、なにを望む?」「私を追放したパーティーが問題を起こしたらキツく絞ってください。」そう伝えて、私は最後の目的地に向かった。
最後の目的地は冒険者ギルドで、私にとって一番思い出深い場所である。私も初めてここに来た時は、夢だった冒険ができると期待に胸を膨らませていた。
もちろん今でも少しだけワクワクする気持ちはあるが、だいぶ通っているので、慣れの気持ちが強い。私がギルドに入ると私の姿を見た冒険者達が挨拶してくれた。そして、依頼板を見ていたある冒険パーティーが私に声をかけてきた。
「レイさんお久しぶりです。」「おやおや、マーシュ君ではないですか。お久しぶりです。他の皆さんもお変わりないようですね、安心しました。」彼らは私がDランクの時に、Eランクのパーティーとしてダンジョンに潜ってモンスタートラップに引っかかってピンチになったところを助けて以来、私に懐いてくれている今はBランクの冒険達だ。
「やはりあなた方は仲も良くちゃんと連携が取れている、お手本のようなパーティーですね。」「あまり褒めないでくださいよ〜、昔俺たちが無理してダンジョンに潜って危なかった時に、助けてくれたじゃないですか。そんな人に褒められるとなんだか照れくさくなっちゃいます。」「リーダー、別にいいじゃない、素直に受け取んなさいよ。」と魔法使いのリルが言った。「でもよ〜、やっぱり照れるモンは照れるんだよ、あんま言わないでくれよな、俺も分かってんだから。」私はしばらく世間話をした後、ギルドの受付に向かった。
ギルド職員が私に、「本日はどのようなご要件でしょう。」と聞いてきたので、「まずは、私のいるパーティーの共用口座から私を外してください、その後パーティーから脱退するのでその手続きと、引退の手続きをお願いします。」「えっ!パーティーを抜けるんですか!貴方が!」その瞬間ギルド内は水を打ったように静かになった。「失礼しました。パーティーの共用口座の貴方の入金を貴方の個人用口座に変更するのと、パーティーの脱退手続きでよろしいですね。」「ええ、よろしくお願いします。」
私は手続きが終わるまで少し待っていると、周りにいた冒険者のほとんどが、私に質問してきた。「どうしてやめるんだ?」「理由はなんだ?」「もう冒険者は引退か?」などの質問に「実は、パーティーメンバーに「お前は役立たずの無能だから出てけ」みたいな事を言われまして、転職して新しい街に行こうと思ったんですよ。」
それを聞いた瞬間冒険者達は、「「マジか!」」と大声を出していた。「別に不思議な事じゃないですよ、才能のない冒険者がいなくなるのは当たり前です。」「「いやいや、アンタはそんな奴じゃないだろ。」」とその場の冒険者達が総ツッコミした。「そうだぞ、アンタが俺たちにお節介と言って魔物のデータを分かりやすく説明した"図鑑"だっけか?それを無償でくれたしな。」「それ以外にも、お前がいた冒険者パーティーがお前残して旅行に行った時にダンジョンが大氾濫して大勢怪我した時も、ポーションに何やかんやしてくれたおかげで全員辞めることなく冒険できたし。」「俺の魔法武器の調整も格安でやってくれたり」「私に魔法を教えてくれたのは、今でも感謝してますから!」「俺の壊れた鎧を着心地そのままで新しくしてくれたおかげで、戦闘もやりやすかった。」など感謝してくれた。
そしたら受付をしてくれたギルド職員が来て、「盛り上がっている所申し訳ありませんが、引退の手続きが完了いたしました。レイさん今までありがとうございました。冒険者ギルドは貴方の真面目で献身的な姿勢に感謝いたします。どうかお元気で」と言ってお辞儀してくれたので、私もお辞儀をして「こちらこそお世話になりました。お元気で」と言って、私は冒険者ギルドの人達や冒険者の人達に、見送られて王都の門へ向かった。
そして王都を出て行く前に、孤児院に行って寄付金を払い、その後に教会へ寄進して旅の安全を神に祈り、王都の門を出た。