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妹と兄、そして友人  作者: かなん
1/1

一話 家族の繋がりが大事だと思っていたのは自分だけ?

読んでいただけたら嬉しいです。



「行ってきます」


 両親の遺影に手を合わせ、呟く。

 二年前、両親が死んだ。


 家族旅行で行った先で、大きな地震に伴う建物の崩落に巻き込まれたのだ。

 俺と妹は大怪我こそしたものの、後遺症も無く助かったが、両親は即死だった。救急隊が来るまで、冷たい母親の手を握り続けた妹の顔は今でも覚えている。


 両親への挨拶を終えて、軽い鞄を持ち上げる。


「凪、朝ご飯は置いておいたから、お前も遅刻しないようにな」

「・・・」


 まだ2階にいる妹の凪に呼びかけるが、返事は無い。

 両親が死んでからの家族仲は良好とは言えなかった。

 昔は仲が良かったのだが、最近では同じ家に住んでいる筈なのに顔すら合わせていない。

 同じ学校にも通っているのに、向こうから俺の事を避けているらしく、学年が違う事もあってすれ違う事すら稀だ。


 たった二人の肉親なのだ。

 いつまでもこれではいけないと思いつつも、気まずさ故に俺から歩み寄ることも出来ず、こんな現状を招いてしまっている。


 どうすれば上手く話しかけられるか、思春期の男子のような・・・いや、実際に思春期の男子ではあるのだが・・・悩みを抱えながら歩いていると、すぐに学校へ着いてしまった。


 やたらと長い階段を上がり、3階の教室に入る。

 まだ始業時間には早い為、こんな時間から来ている生徒は殆どいない。

 現在教室にいる三人しかいない生徒達は早朝登校の常連で、名前も知らないが、顔だけは覚えた。

 まあ、話す事は無いが。


 イヤホンをつけて机に突っ伏す。

 早くに学校に来るのは、そうしないと凪が動けないからだ。それ以外に理由はない。

 こういった暇な時間、いつもはスマホで趣味の楽曲作成をするのだが、今日はそんな気分にもなれない。


 偶にあるのだ、こういった酷く無気力な日が。

 目の前の課題や問題に対するイライラが酷くなり、悲観的な想像ばかりしてしまう。

 昔はこんな事なかったのだが、段々とこんな日が増えてきて、最近では一週間に一回はこうなってしまう。


「うざいなぁ・・・みんな」


 声を出さずに口だけを動かす。

 一度、こうしてみるだけで頭の中を無茶苦茶にする行き場のない感情は吐き出せる。無気力感こそ消えないが、冷静にはなれる。


 三つ目の楽曲が流れ始めた辺りで、ようやく学校に生徒の姿が多くなってきた。窓から校門を見下ろせば、多くの生徒達が登校しているのが見える。

 丁度、凪の登校時間もこの辺りだったな、と思って妹の姿を探している自分に嫌気が差す。

 これではシスコンを拗らせたストーカーでは無いか、こんな事をするくらいなら、玄関の前で出待ちを決めた方がいくらかマシだろう。


 まだ探したがる本能を抑えつけてスマホに視線を落とす。

 ゲーム系のアプリは沢山入ってこそいるものの、どれも今はやる気にならない。

 そうして、意味もなくスマホのホームをスライドさせていると、


「あ・・・」


 一件のメールが届いた。

 メールをするような友人は俺には居ない。広告メールなどにも一切登録していないし、自慢では無いがネットリテラシーも高い為、迷惑メールなども来る事は無い。

 だから、その内容は予想が出来るし、今の俺にとってあまり面白くない内容であろう事も想像がつく。


「ハァ・・・」


 内容は・・・まあ、想像の通りだった。

 バイト、というわけでもないが、仕事の催促。今日の終わりが締切の音源作成依頼の。

 元から無かったやる気が底をぶち抜くような感覚を覚えた。


「帰るか」


 今日は授業を受ける気になれない。

 学校に来ておいてなんだが、家に帰って仕事を終わらせなければ何も手につかないような気がした。

 

 教室を出ると、担任の教師とすれ違う。

 鞄を持った俺を不審に思ったのか、声を掛けてくる。

 

「あれ?海風さん、どうしたんですか?」

「具合悪いんで帰ります」

「・・・確かに、顔色が悪いですね。今、家には誰かいるの?」


 顔色が悪いのは生まれつきなのだが、まあ今は好都合だ。


「居ませんが、まあ大丈夫です。風邪ひいた時とかも大丈夫だったんで」

「そう?でも、苦しくなったらすぐに電話してくださいね?連絡網の紙が家にあると思うので」

「・・・はい」


 逃げるように階段を降りて、下駄箱へ向かう。

 すると、どんな偶然か、丁度登校してきた妹の姿を見つけた。

 白にも見えるような、アッシュブロンドのショートヘアにバイオレットカラーの瞳。

 雑に着崩した制服だけが、俺との共通点だった。


「な・・・」


 声を掛けようとして、喉が凍りついたかのように動かなくなった。

 血を分けた妹は、誰とも知らぬ男と一緒に登校していた。



 それから、どうやって家に帰ったのかは覚えていない。

 ただ、どうしようもなく一人になったような感覚だけがあった。


 それもそうだ、会わないから奴の交友関係だって知らないし、最近、学校でどんな風に過ごしているのかも知らない。

 

 現実から逃げたくって一心不乱に曲を作った。

 メールに楽曲を添付して送った頃には、既に日は落ちていて頭には鈍い痛みと途轍もない疲労感があった。


「七時・・・ご飯は・・・いいか」


 普段、料理を作っていたのは、少しでも凪と家族で居たかったからだ。けど、よく考えれば一緒に食べもせず、朝に彼女の食べ終わった皿だけを洗うだけというのは、家族というよりも家政婦か何かだろう。


 いつも、彼女が帰ってくるのは八時近い、一応今日は外で食べてきてくれとメールだけ送って外に出る。

 

 生温い風だけれど、冷え切った身体には丁度よくて、痛む頭には心地良い。

 目的もなくフラフラと歩いて、目に入ったジャンクフード店に転がり込む。

 適当に目についた物を注文して、席に座るが、それを食べるわけでもなく、イヤホンから流れる音楽を聞き流しながら外を眺めていた。


「あ、お兄さんだー!」


 そんな声が聞こえた。

 よく通る、うるさい癖に不快では無い綺麗な声。良い声だ。

 

 そんな事を考えていると、目の前にいきなり鞄が降ろされる。


「ひっさしぶりー!」


 イヤホン越しでもよく通る声は、どうやら俺に掛けられているようだった。

 

 



 

 





 

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