今後について(1)
翌日の午後になって迎賓館に王宮からお迎えがきた。
王様が今後について打ち合わせましょうとのことだ。
とりあえず騎士さまに従って馬車に乗る。
王宮は迎賓館のお隣に聳え立っているのだが馬車に乗る。
「馬車なのにもう車社会かよ!」なんて思っちゃったのは秘密だ。
騎士さまにエスコートされているというのは雰囲気的に分かるのだが、なにせ知識がない。
これは歯痒い。性格的に知識不足で足手まといがいちばん堪える。
騎士さまが道道教えてくれたところによると、昨日の召喚の間は王宮、千年宮というらしいが、の地下2階、なんと地下牢の下にあって千年の間封印されていたらしい。
どうりでおどろおどろしいわけだ。
昨日は精神的に疲れていて導かれるままに迎賓館に向かったのでちゃんと見てなかった。
地下牢、メッチャ気になるけど聖女に用はなさそうだ。
間違って入れられても聖女なら簡単に出られる。
迎賓館も(短い距離しか通ってないが)大通りも千年宮も特に緊張感もなく、軽く会釈して通り過ぎる人々の表情も明るい雰囲気なので平和で安定した国なのだろうと思った。
応接室的なところに案内されて入ると王様と大司教、あとたぶん宰相的な人が待っていた。
「聖女殿、ご足労いただき済まない。
改めて自己紹介をしよう。ジラール王国国王のディオン・ジラールだ。
よろしくたのむ。」
「聖女様、私めは創造神教会の大司教を務めておりますエドモン・レヴィですじゃ。こうしてまたお会いできるとは夢ではなかったのですな。ありがたいことだ。」
「聖女様、私はジラール王国宰相のクロード・バイエです。以後、お見知りおきを。」
「改めまして、創造神より聖女として遣わされました神の子、マユです。
よろしくお願いします。」
自己紹介ともに、それぞれの公式な立場の表明でもある。
大司教は当然のごとく受けとめたが、国王と宰相は少し気遅れしてしまった。
「さあ、座ってくれ。お茶でも飲みながら貴女の今後についてを相談したい。」
メイドさんがお茶を淹れてくれたので口を付けてから話しだす。
「今後の話の前に昨日のおさらいをしましょう。
国王様方が古くからの言い伝えに従って召喚の間で儀式をされた。
それにお父さまが応えて私を造り遣わした。
私には異界の記憶があったのでそのように振る舞い、怖くなって逃げだした。
そこまではよろしいかしら?」
「怖くなって逃げだした?逃げたのか?」
「ええ。あの状況を15才の娘が寝衣のまま突然、大勢の見知らぬ男たちの前に投げだされたと考えていただきたいのですが。」
「ああ成る程。それは悪かった。思い至らずすまない。気の毒なことをした。」
「いいのです。どちかといえばお父さまのせいですから。
私は逃げだす時にはじめて魔法を使いました。見えなくなる魔法です。
このように。」
「!!!」
光学迷彩魔法を発動すると3人は驚きに息を呑む。
すぐに解いて、
「異界の知識をもって魔法を使ったのですが、異界には魔法がありません。
そのかわりに科学という世界に関する知識を極めた学問がありました。
世界を知ること。
どうやらそれが今の人の子に必要なことのようです。
私はそれを知らしめるために造られ遣わされたのでしょう。
その学問を直接教えることは難しいし私の使命ではありません。
私のことを「人の子らが世界を知ることを欲する動機となるもの」と思っていただきましょう。」
と、最も重要な事柄について一気に話した。
話を聞いた3人は一様に呆然としていたが、内心は様々だった。
大司教は恍惚として神の思惑を細大漏らさず聞いていた。
宰相は異界の知識による魔法の計り知れない威力について思いを馳せていた。
王様は神の究極的なパワーが王国の統治や国際社会に与えるインパクトを考えて目眩を覚えていた。
3人に共通した感想は「まさに変化を齎す存在!」。