第5回 感想戦
ミレイユ王女のもとに騎士カミーユがフェンリルの体毛を届けにきた。
(これがあの魔獣の…!)
なんとも言えない感情がとめどなく渦巻いて目から涙が溢れ出てきた。
カミーユは辺境伯領での一部始終を語ってくれた。
(創造神様が願いを叶えてくれた…願い…私の願い!)
懐いてくれていた若いメイド、心優しく頼りになる侍女、親切な騎士たち。
犠牲者全員の顔がハッキリと浮かぶ。
彼らを切り裂いた魔獣。
それが憎くて憎くて、真っ黒い感情を真っ黒に染め上げた王女宮に閉じ込めていたことに今気がついた。
それがこの手の中の一本の毛を握りしめることで綺麗さっぱり消失した気がした。
(願いが叶ったんだ!)
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凄い1日だった。マクシムはあの日のことを生涯忘れなかった。
騎士団丸ごと傷を癒す聖女は美しかった。
魔獣の群れを瞬殺した聖女は凄まじかった。
追悼式の聖女は神がかっていた。
遠い。途轍もなく遠い人。それを思い知った。
マクシムは初恋の散った日のことを生涯忘れなかった。
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エドモン大司教はバカバカしくなっていた。
(もう破門でもなんでもしてくれ…)
追悼式の聖女を己の目で見られなかったことが悔しかった。
他の側使えたちの証言だけでもその神々しさに圧倒される思いだった。
教会本部のバカどもがネチネチと牽制してくるせいで、
聖女様の歴史的な偉業に教会関係者が立ち会えないとか本末転倒も甚だしい。
奴らが聖女様降臨祝賀会に仕掛けてくることは予想済みだが何かは分からない。
聖女様のことだから問題なく立ち回られることは確信している。
しかし御心を悲しませるようなことだけは避けたかった。
エドモン大司教は教会から離れることも視野に入れていた。
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オベール辺境伯は役目のこともあり、あまり王都へは行かず社交も最低限しかしかなったが、その年の社交シーズンは活発に茶会や夜会に出向いた。
そこでは必ずオベール辺境伯領での聖女の奇跡を語った。
頻繁に口にしたのが「民は国に汗を捧げ、辺境の騎士は国に血を捧げる。」という最初に聖女に言われた言葉だった。
よほど気に入ったらしく座右の銘としているらしい。
「国に血を捧げよ」はオベール辺境伯家の家訓ともされたとか。
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マユはナルシスくんから密かに件の笛をもらっていた。
夜になるとたまに位置情報を把握した森にコッソリ移動して魔獣狩りを楽しんでいる。