辺境騎士団と魔獣討伐
その日の晩餐では打ち解けた辺境伯が魔獣討伐の血腥い話を饒舌に語り、夫人とナルシスくんは迷惑そうにしていたが、客人である隠れ狩人の2人はガッツリ食いついていたので、そのまま酒宴に移行して夜遅くまで愉しんだ。
酔うこともなく酒の飲み方も知らない聖女は水のように飲むので酒豪であった辺境伯もたまらず降参したとか。
マユは就寝後に森へ潜って魔獣狩りを堪能する予定だったのだが「もう明日でいいや」ってことでご相伴にあずかった。
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翌日、騎士団の訓練場に約600人、大隊規模の精強な辺境騎士団が一糸乱れず整列している様は壮観であった。
「こちらは神より我が国に遣わされた聖女様である!
今から貴様らを癒して下さる。くれぐれも失礼のないように!」
「ハッ!」
辺境伯の檄にザッと一斉に敬礼する騎士たち。
聖女マユは整列した騎士たちの前を歩いていく。
通り過ぎると欠損含め身体の不調が治っている。
皆、泣いていた。
すべての騎士まで癒し終わり、一団の前に立つと大泣きの騎士たちが跪いていた。
「聖女様、心より感謝します。ありがとう。」
感動に打ち震える辺境伯にニッコリ微笑んで頷いたのみだったが、その神々しさにその場にいた全員が心打たれた。
マユはテンションが違いすぎて返答に困ったので誤魔化すように微笑んだのだが正解だったようだ。
感極まった騎士たちも落ち着きを取り戻し解散しようかというその時、見張りに残った騎士が飛び込んできた。
「魔獣が!魔獣の大群がこちらに向かって来ています!!!」
「なんと!やはりスタンピードか。
街道にフェンリルが出現するなどここ100年ないことだからな。」
慌ただしく戦闘準備に駆けていく騎士団。
マクシム王太子も自然に混じっていた。
マユはそのまま見張り台に移動すると突然の出現に驚く騎士をよそに魔獣の群れに目を輝かせた。
(獲物がこんなに!)
迎撃体制を整えた騎士団の中心にいる辺境伯のもとに移動し言った。
「辺境伯様、私の魔法を最初に魔獣に見舞ってもいいですか?」
「おお聖女様が魔法を!それは縁起がいい。
是非、勝利の女神の鉄槌を下してください。」
聖女の開幕の一撃に騎士の士気が高まるだろうと快諾してくれた。
「では。」
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曇り空のもと、砦様の辺境伯邸の眼下一面に広がる魔獣の群。
飛んでる奴も数十匹はいるようだ。
聖女がおもむろに魔法をかける。
聖女から見て右のエリアの魔獣がすべてその場でもがき苦しみだしそのまま息絶えた。
左のエリアの魔獣がすべてその場で燃え上がった。
マユは右のエリアの空間を区切って酸素を抜き去ったのだ。
脱酸素魔法。例によってネーミングセンスはアレだ。
左のエリアの空間に右で抜いた酸素を移動してそこの可燃物を発火させたのだ。
高温になれば動物でもそれ自体が燃える。
熱は分子の運動により発生するのだ。
その知識がこの魔法を完成させた。
着火魔法。ネーミングセンス(ry
火の球を作り出して投げて当てるとか非効率すぎるとかねてから思っていたのだ。
「燃やすつもりならそのものを燃やせばいいじゃない!」なんてアントワネットな思いつきである。
辺境伯はじめ騎士団一同呆然である。
マクシム王太子ひとりがさもありなんと頷いていた。
息絶えても燃え続ける左ブロックの魔獣たちに水をかけて消火する。
これもウォーターなんちゃらのように無いところから出したものではなく、空気中の水分を抽出したものだ。
結露魔法。ネーミングセ(ry
と、壊滅した魔獣の群れの奥から馬鹿でかい狼が一匹現れた。
真打登場、件のフェンリルであった。
カミーユが殺気立つのを制して魔法をかける。
全身の筋を内部から切断してやった。
生きてはいるが身動き出来ない。
「さて皆さま、仇敵を今日という日に捕らえられたことは僥倖です。
これから現場に赴いてアレを供物に捧げ、追悼式を執り行うとしましょう。」