夜会
「大司教エドモン・レヴィ様、聖女マユ様、ご入場ー」
王宮の舞踏会場に案内の声が響く。
大司教の正装姿のエドモンが輝く白いローブ姿の聖女マユをエスコートして入場した。
宗教関係者が夜会に参加するのは異例だ。
聖女が貴族の前に姿を現したのは召喚の儀以来であるので皆興味深々であった。
そのまま主催者の国王陛下の前に立つ。
「国王様、今晩はお招きいただきましてありがとうございます。」
「うむ。ようやく皆にお披露目出来るな。」
国王はエドモンから聖女を引き取ると会場の方に向かせ、参加者に話だす。
エドモンはエスコートして入場したらそこでお役御免となる。
聖女との邂逅で若かりし頃の宗教熱を取り戻した大司教様に社交など不要なのだった。
「皆、聞いてくれ。こちらが聖女マユ殿である。
聖女殿は神の子であり、我らの召喚に創造神様が応え遣わされたのだ。
現在、聖女として民への治癒の奉仕をされておられる。
我が国でつつがなく過ごされるように協力してくれ。」
「皆さま、ジラール国王より紹介頂きました聖女マユです。
よろしくお願いします。
治癒の奉仕は民へのものですが、貴族の皆さまの中でご用の方がいらっしゃいましたら、私の側に仕えてくれておりますアナベル・マルローにご相談ください。
王宮内に窓口を設けております。
では、素敵な夜をお過ごしくださいませ。」
挨拶が終わり喧騒が戻る。
「堂々としたものだな。聖女殿は16才だったか。」
「記憶だけですわ。実際にはまだ1歳にもなっておりません。」
「聖女殿と話していると何故か騙された気分になる…」
「まあ、ホホホホ」
よそいきの変なモードのやり取りも楽しい。
「早速、オベール辺境伯領へ行くことを画策しているらしいな。
後で話を聞かせてくれ。」
「承知しました。では後ほど。」
急ぎ話したそうな貴族数名が近くで様子を伺っていたのでそちらの相手をすることにした。
アナベルに合図して呼び寄せる。
アナベルも一応は貴族なので夜会に参加していたのだ。
サッと診断魔法をかけてみたが緊急性はないので少し話してアナベルに投げた。
その後、声をかけてくれた貴族たちに社交の挨拶をしていたらマクシム王太子が来た。
「聖女殿、疲れてないか?」
「まあマクシム様、ありがとうございます。
ちょうど一息つきたいと思っていたところです。」
「では、気分転換にバルコニーに行こう。」
「はい。」
今日のマクシムは紳士だった。ムキムキのバッキバキだけど。
マユは全然疲れてなかったけどザ・社交界の夜会っぽい感じが楽しかった。
「社交は苦手でな。」
「王太子殿下がそれでは大変では?」
「まあな。慣れるように最近は出来るだけ参加するようにしているのだ。」
「マクシム様は鍛錬がお好きでしょうからすぐに克服されるのでしょうね。」
コロコロと笑う聖女に見惚れてしまう王太子。
マユは筋肉アルアルを言って勝手に面白がっているだけだが。
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「オベール辺境伯領に行って何をしたいのかな?」
マユは王様に問われ素直に答える。
「魔獣が見たくて。」
「見て何をする気だ?」
「ちょっと狩ってみようかと。」
「狩る?狩ると言ったか?」
「ええ、魔法の試し打ちというのかしら。
人に害を与えるものなら殲滅してもいいのですよね?」
「殲滅…」
遠い目をする王様。
「ああ、もちろん名目としては犠牲者の追悼ということで行きますわ。
オベール辺境伯家と王家からの要請ということにして頂けると行きやすいのですけどね。」
「辺境伯家と王家の要請で聖女が犠牲者の追悼へか…この狸め。
分かったよ。こちらにも利があるから反対する理由はない。
ないが、なんか納得出来ないものがあるな。
追悼ついでに魔獣の殲滅とか…神の子の考えることは分からん。」




