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聖女ってなんだろう  作者: ran.Dee
第5章
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辺境伯家令息の後悔

ナルシス・オベールがミレイユ王女に出会ったのは12才の時に王宮で催された年末年始祝賀会だった。

毎年恒例の祝賀会はジラール王国内の全貴族が招かれて年末から年始まで夜通しパーティーをする。

そこにだけはデビュタント前であっても12才からの出席が許される。

ナルシスは初めての王宮に興奮していたが、開会を告げる国王陛下の脇に控えた当時13才の王女に一目惚れしてしまった。

開会式後すぐに王女は下がってしまったため声もかけられなかったがいつまで経っても儚く可憐な様子が目に焼きついて離れなかった。


その後、年に一度だけ麗しの王女を目にするたびに焦燥感に胸を締め付けられた。

ディオン国王陛下は自身が愛する王妃と恋愛結婚で結ばれたためか、王太子、王女の政略結婚には消極的である。

国際情勢も安定しているので成人前に他の誰かと婚約することはないだろうが、その保証はどこにもない。

辺境伯家は伯爵と侯爵の中間くらいの家格で王女の降嫁がギリギリ望める位置にある。

王女との繋ぎさえとれれば勝機はあるのだ。

しかし王女の15才のデビュタントはナルシスよりも1年早い…


年に一回の王宮でのデビュタントは子どもが大人社会に入るという意味もあって高位貴族は事情がなければ出席するのが慣例だった。

王女が15才を迎えた年、デビュタントに出席する予定の父辺境伯にナルシスは王女殿下の初公務として辺境伯領の騎士への慰問を提案するのはどうだろうかと、思いつきのように言った。


「おお、ナルシス!さすがは我が息子。それは素晴らしいアイデアだ。

国王陛下にも願い出るが、王女殿下にも直接お願いしてみよう。」


ナルシスの思惑とおりに運んだ。

成人した王族が真っ先に辺境に目を向けるというのは政治パフォーマンスとして十分評価に値するものだ。

憧れの王女に自分の邸で会って話せると思うと喜びで爆発しそうだった。


---


王女殿下が乗り気になり国王陛下も許可したためオベール辺境伯領への慰問の予定が学院入学直前に急遽組まれた。

魔獣討伐を日常としている辺境伯領にマクシム王太子も行きたがったが予定が合わず泣く泣く断念したとか。

王女のお世話をするメイドと侍女の他、30人程の小隊規模の近衛騎士が同行して王都から片道3週間の長旅だった。


行くのも長いが待つのも長い。

ナルシスは色々と考えた。


(王女殿下がこちらに来たとしても目的は騎士たちへの慰問だ。

しかも、ご入学を控えて余裕のない日程で来られるのだ、年下の子息なんて社交辞令の挨拶程度で終わってしまうだろう。

何かもっと印象付ける方法はないものか…)


王女殿下一行到着を明日に控えた日の朝、ナルシスはひとりで遠乗りに行くと言って馬で邸を出た。

一行の気配がしてきたところで街道から外れて少し森に入ったところに身を隠すと、おもむろに隠しから笛を取り出した。

この笛は魔獣討伐の際に使うものだ。

森中の魔獣を殲滅することは不可能なので一定数を狩ることになる。

いちいち探し回っては非効率なのでこの笛で魔獣を誘き寄せるのだ。

強力な魔獣は森の奥深くにいるので雑魚しか呼び寄せない。

王女殿下一行が魔獣に襲われているところを遠乗りしていたナルシスがたまたま通りかかる。

雑魚の魔獣が近衛に既に討伐されていても構わないし、むしろそれでいい。

剣の腕はこの歳にしては悪くないつもりだが所詮その程度でしかない。

王女様を助けにきた辺境伯家令息という構図が重要なのだ。


ナルシスは笛を吹いたー


結果はあの王女の悲劇と呼ばれるものである。

笛に反応して出てきたのは1匹だけ。

しかしそれが馬鹿でかいフェンリルだったのだ。

それを見たナルシスは焦って邸に逃げ帰り騎士たちに救助に向かわせた後、ベッドで震えていただけだった。

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