学生生活
最高位なのに気取りのないマユはすぐに人気者になった。
魔法学の先生とは距離があるが他の先生にはよくしてもらっている。
密かにかける聖女の癒し魔法の効果かもしれない。
過労気味の学院教師がマユの教室での授業を終えるとすっかり元気になっている。
なにより長年の悩みだった水虫が治っていたのだ、聖女を敬うようになるのは時間の問題だった。
妹分を自認するミレイユ王女もマユに倣っているために親しまれた。
生徒、教師ともに貴族なので王族には距離をとる。
王族はマクシム王太子のように学院でも上位者として振る舞うのが当然なのだ。
しかし王族の方から近づくなら話は別だ。
さすがに男子生徒には淑女としての距離を保つが、それでも親しく話しかけてくれる可憐な王女に思惑抜きで恋する男の子は多かった。
授業を受けてマユはやはりといった感想だった。
自然科学系の科目、理科がない。
地理、歴史、政治、経済の社会科、算術も経済の側面のみでこちらに含まれる。
ほぼ四則演算だけで申し訳程度に平均があるくらい…
他に魔法学、ダンス、礼儀作法と貴族特有の科目があり、男子は剣術、女子は刺繍がある。
(ダンスと刺繍か…)
算術の勉強は不要で社会科はカテキョに教わりつつ王宮の図書館を使って自習していたので十分な感じだった。
実は魔法学はどのように歪んでいるのかを知るために熱心に学んでいる。
カテキョがことのほか熱心に指導した礼儀作法は完全に復習になるが近々に社交界に出されるということでありがたく思った。
ダンスと刺繍は初体験となる。
聖女に刺繍は不要なのと一応は聖職者扱いになるため公の場でダンスは踊らないのだ。
(楽しい!)
刺繍はハッキリ言って残念なものだ。
お手本をガイド線を重ね見てドットで捉えて正確に再現する。
アプローチがおかしいが、そんなやり方は誰も知らないので指摘する者もいない。
完璧だ。完璧なお手本のコピー。個性とか芸術性とか…
明るく楽しげで誰よりも生き生きしている聖女様からこんな無味乾燥な作品が生み出されるとはと、みんなガッカリしたのだが聖女様の前では気を遣って笑顔を作った。
ダンスも動きが固く、決して褒められたものではなかったが楽しそうに踊る聖女様にみんなはホッとした。
芸術系と体育系はシラタマちゃんクオリティのままだった。
救いはダイエットの一環でヨガで体幹が鍛えられていたのとボクササイズで身体の動かし方を覚え始めていたことだろう。
マユはシラタマちゃんではないけれど、その身体は当時のものを忠実に再現されていた。
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楽しい学院の1年生の教室に一人暗鬱な様子の男子がいた。
ナルシス・オベール、辺境伯家の嫡男である。
王女の悲劇は、東にある広大な森に棲む魔物から王国を守る騎士たちの慰問に向かう途上での出来事であった。
その現場がオベール辺境伯領だったのだ。