第4回 感想戦
お嬢さまのお遊びに付き合わされるのかとウンザリしつつも冷やかし半分で訓練場に来ていた魔法学の教授陣は声もなかった。
「聖女様にはアレを秘匿する気がないということですね。
完全な上位者だ。見かけで侮ってはなりませんぞ。
「立場を脅かされる者」と言われた。これは警告ですな。」
学院長は他人事のように言ってその場を後にした。
「平民が魔法を…そんな世の中が来るということか!」
「我らの魔法が間違っていると。
今のところは表沙汰にはしないでおいてやると…」
「相手が神では抗いようもないな。触らぬ神に祟りなし、か。」
「ああ、敬して遠ざける。聖女様も一生徒ではあるのだ。
そのように扱えというのは最初から変わらぬ。
我らが勝手に思い上がっていただけのこと。」
「それも見透かされたか。始まる前に釘をさされた。」
「特大のな。」「違いない。」
教授陣は苦笑とともに帰っていった。
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一部始終は同行していたクロエとオリヴィエ&カミーユが記録してアナベルとエドモンに渡されて報告書に纏められ国王と教会本部に回された。
すでに体制は仕上がっていた。
マユも了承していて頼めば添削までしてくれる。
王の執務室にて国王と宰相が対面している。
「聖女殿はなぜこうも老獪なのか。
高慢な魔法学者どもをファイアーボール一発で黙らせたのは見事だったが、問題の芽すらまだ出ていなかったのだ。
我々が予想して対策を考える間もなく叩き潰してしまった。」
「聖女様は政治を分かっておいでです。
力を持つ者に惹かれるのと同じくらい恐れられる。
常に線引きを考えておられる。
やりたい放題に見えてやり過ぎない。
力を恐れる者の敵対しないギリギリの線。
そして線引きの出来る立場に立たれていることを誰よりも理解している。
枠外からしか引けない線があるのです。
同様の力を持った只人が同じことをやればあっという間に潰されます。」
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ジラール王国から遠く離れた聖都にある大聖堂の一室に創造神教会の中枢たる枢機卿7人全員が集まっていた。
教皇がトップではあるが名誉職みたいなもので現世的な権力はこの7人が握っているのである。
「エドモン・レヴィ大司教からの最新の報告書を読んだか。」
「ファイアーボールの件だな。」
「ファイアーボール?光魔法だけではないのか?
聖女はいくつ属性を持っているのだ?」
「ことによると属性などないのかも知れん。魔法といえるのかも分からん。
聖女については分からんことだらけだ。」
「奴はまだ召喚に応じないのか。昇格をチラつかせても無視。
あんなに欲しがっていた地位だというのに…破門にでもしてくれようか。」
「破門は不味い。既に奴の報告書は大司教、司教連中にも拡まってしまっている。
かの国では聖女信仰なるものが根付いていると聞く。
大司教が先頭に立って音頭をとっているのだから当然だが民衆の支持は無視できない。」
「では聖女を異端審問にかけるのは?」
「やめておけ。相手も知らずに喧嘩を売るバカがどこにいる?
まず聖女をこの聖都に招請しなければ何も始まらぬ。
本物か偽物か。いや使えるのか使えないのか見極めが必要だ。」
「今のところはジラール国王の客人というだけだ。招請はまだ早い。
年末に各国にお披露目するらしい。招請するならその場がいいだろう。
世界中が見守るなかで教会が神の子を招請するのだ。応じる以外の選択肢はない。」
「うむ、それがいいな。」「では、そのように。」