魔法の扱い
マユは学院に通うにあたって国王にひとつだけお願いをされていた。
ー魔法はなるべく使わないでほしいー
まあそうだろうな、とは思う。一応は了承した。
「なるべく」という言葉を汲んだのだ。
この国の王様のこういうところを好ましく思っていた。
聖女マユに使命らしいものはなくても人の子の魔法については創造神より一言あったのだ。
学院の方にも同様の注意がされていた。
ということで聖女は魔法の実技は免除とされている。
しかしー
「聖女とかいう輩に魔法を使わせるなということだが、使えないのではないか?
家名もなくただの平民ではないか!もしや国王陛下の女やもしれぬな。」
「滅多なことを言うもんじゃない。
平民の間では今や聖女への信仰が絶大だと聞くぞ。
この際、事実はどうでもいいのだ。王家が聖女を護っている以上、黙って従うのが貴族というものだ。」
魔法は貴族のみが使えるとされている。
実際には教育の有無だけの違いなのだが貴族も平民もそのように信じてしまっているのでそうなるのだ。
魔法はイメージなだけに使えると思わなければ使えないのは当然であった。
ゆえに貴族は魔法を使うことにプライドがあって、魔法学の教師などはその最たるものである。
なので得体の知れない聖女、平民に不思議な治癒術を施し王家に保護されている怪しげな存在が専門家である自分たちの前では魔法を出し惜しみするというのは彼らからすれば嘲ってくれと言わんばかりのことだった。
治癒魔法はすでに貴族にも多く施しているのだが皆一様に醜聞を恐れて一切他言しないので広まらない。
王女の悲劇は傷ついた状態を口の固い御殿医以外見ていないので聖女が癒したと言われてもどれほどのことか分かる者はいなかった。
なのでマユは自分から魔法学の教授陣及び学院長の前でデモンストレーションを行うことにしたのだ。
「このような機会を与えていただきましてありがとうございます。」
放課後、魔法の訓練用の広場に人払いをして集まってもらった。
「私の魔法は少々人の子と違いまして、不用意に人前で晒すことに国王陛下が危惧を持たれているのです。
しかし私は先生様方には知っていただいた方がいいものと判断しました。」
教授陣は聖女が国王陛下の意向を無視出来ることに驚かされる。
「例えばファイアーボールですが、私はこのように。」
言いながら手のひらの上に火の球が出現する。
それを15mほど離れた所に立てた的に向かって飛ばす。
「違いは陣や詠唱の有無だけではないのです。このように。」
的に等間隔で連続して火の球を当てていく、間隔を狭めてスピードを上げていき遂には火のビームのようになって燃えない的に穴を空けて終わった。
「…」
重い沈黙が降りる。
人の子の魔法では優れた使い手でも初級と言われるファイアーボールでさえ連続して3つが限界だった。
3つで魔力切れをおこして数時間休む必要がある。
「…なんというか。神の子の聖女様のお力は凄まじいですな。
しかし特別なお方だ。隠す必要はないのでは?」
「私は正直言いましてどちらでも構いません。
しかしこれは特別な力ではなく、教育次第ではなんなら平民にも出来ると言ったらどうしますか?」
「!!!」
「国の根幹が揺らぐはず。国王陛下の危惧がお分かりでしょう?
お父さまである創造神が本来そのように使われることを考えて人に与えた魔法が今お見せしたものの正体です。
お父さまは人の子の魔法の使い方は無駄が多いと言っていました。
私はそれが正されるようにと遣わされたものです。
しかし、今すぐにどうこうしてほしいわけではありませんわ。
私はこの世界に害されない存在なので立場を脅かされた者にも無いことには出来ないでしょう。
私の生涯2000年の間に人の子がどのように変わっていくのか、それを見ています。
では、国王陛下のご意向通りということでお願いしますね。
皆さまご機嫌よう。」