貴族学院へ
「今日から皆さまと一緒に学んでいただくことになりました聖女マユ様とミレイユ王女殿下です。粗相のないようにお願いします。」
学院長が1年生の教室に来て話すのは異例だ。
この国は身分制度を前提とした社会なので学院内も例外ではない。
自由平等の概念すらないのだ。
せっかくの美少女転校生2人の登場といった体の学園もの定番のワクドキ展開であっても最上位者を迎える下々といった関係性により浮ついた空気は微塵もなかった。
「皆さま、これからお世話になります聖女マユと申します。
創造神より与えられた異界の記憶しかありませんのでおかしな振る舞いをしてしまうかもしれませんが大目にみていただけたらと思います。仲良くしてくださいね。」
相当ぶっ飛んだ挨拶であるが非常に好感がもてるものでもあったので教室の空気が一気に和んだ。
「ジラール王国王女ミレイユと申します。
今日から聖女マユ様と共に皆さまにお世話になります。
どうぞよろしくお願いします。」
王女殿下の悲劇は貴族には知れ渡っていたので、神々しい聖女の隣ではにかむ可憐なお姿に教室の皆は心打たれた。
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クロエは学院の従者専用のたまりにいた。
生徒は貴族なので従者は必ず付く。
しかし学院内まで付かれると生徒よりも多くなってしまい勉強どころではなくなるので待機所が設けられていた。
護衛者向けの訓練場所まで用意されている。
聖女マユにはクロエの他にオリヴィエ&カミーユも付いているが彼らはニコイチでどこでも自分たちの甘々の世界に行ってしまうので放置している。
早く結婚しろ!なんて全員から思われている。
クロエにはアナベルから与えられた任務があった。
ここで他の貴族のお付きから主人の家の財政状況と健康状態の情報を仕入れてこいというのだ。
難しそうに思えたが実は簡単だった。
みんな噂の聖女様に興味津々でアチラから声をかけてきた。ガンガンにかけてきた。
クロエもアルビノで少々近寄りがたいようにみえて話好きだったりするので、たちまちたまりの中心になっていた。
なにせ聖女の奇跡は最初からすべて見てきていて、さらに最初の体験者である。
誰もがクロエの話に夢中になった。
中には平民街の教会で癒しを受けた者もいて信じがたい話も補強される。
カミーユ本人から失った左眼を取り戻してもらった話を聞くに至り疑うものは一人もいなくなった。
情報収集とともに信仰心を植え付けていたのは無意識である。
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マクシムは3年生の教室で居ても立っても居られなかった。
しかし用もないのに1年生の教室に行くのはプライドが許さない。
悶々としたまま午前中の授業を終えた。
待ちかねたように昼休憩にカフェテリアに行くと王族専用席に妹と想い人が2人で楽しそうに食事していた。
「入学おめでとうかな?」
「お兄様、ありがとう。」
「王太子殿下、ありがとうございます。」
「マクシムと呼んでほしい。聖女殿。」
「では、私のこともマユと。マクシム様。」
親しくなると名前で呼びあうらしい。
マユはあまり気にしないが相手に合わせるのは得意だ。
(マ、マクシム様か…)
相手は喜びを噛み締めていたりするのだが。
「分からないことがあればなんでも聞いてくれ、マユ殿。」
「ありがとうございます。」
王太子に名前を呼ばれでもしたら貴族令嬢であれば家族をあげての大騒ぎになるところだが、あらゆる意味でお客さまのマユにはなんということもない。
そんなところも好ましく思えてしまうマクシムくんは気の毒な子だ。
Mなのかな?