王様の親心
王の執務室で国王と宰相が対面していた。
「お茶会はいかがでした?」
「予想通りマクシムはやられたな。聖女殿も転がすのが上手い。
あれじゃあ大抵の男はもっていかれるだろう。」
「そういえば今までも聖女様に身近に接した男は死屍累々といったところでしたな。」
「媚びてないのに男心を掴む話術が自然と出来るのは神の子の仕様かな?
学院に戻ったマクシムはただでさえ勉強が苦手なのに今ではまったく手がつかない有様だとか。
憐れであるし、流石に責任を感じる。
健康を取り戻したミレイユが復学するついでに聖女殿も学院に押し込んでしまおう。
勉強は好きなようだから問題なかろう。」
「学院で慣れぬ聖女様のご面倒を王太子殿下がみられると。
成る程それならば自然ですな。」
「そこまでしてやってモノに出来ないならマクシム自身の問題だからな。
親として出来るのはそこまでということだ。
ときに聖女様降臨祝賀会の日程は決まったか?」
「はい、今年の年末のパーティーをそれに替えます。」
「うむ。お茶会の様子ではもう立ち居振る舞いには問題なさそうだった。
その前に夜会にいちど連れ出せるか?」
「アナベルと相談しますがエスコートはどなたが?」
「エドモンがよかろう。あやつならおかしな噂がたつこともない。
聖女殿は社交界などに興味はないだろうが、
無礼を働いて空に投げ出される貴族を少しでも減らせるならな。」
「ではエドモンも含めてアナベルと話しましょう。
アナベルにすれば夜会に来た聖女様に相談しに寄ってくる貴族はいい鴨です。
よく働いてくれるでしょう。」
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(これは酷い)
学院の教師は教室の1番前のど真ん中の席に陣取りながら堂々と腕組みをして全く授業を聞いてないこと丸わかりの王太子に困惑しながらスルーすることにした。
偉い人に物申すにもタイミングというものがある。
きっとこれからのしかかってくる重責に思いをいたされてるのだろう、そういうことにしておこう…という感じでスルー安定なのだった。
ぶっちゃけ青春のお悩み関係であることは薄々気づいていたがベテラン教師たるものこうした場合の立ち回りくらいは心得たものである。
マクシム王太子の脳裏には聖女の清楚な微笑みが無限ループで再生されていて今ペンをとったなら4Kで細密に再現出来るだろうほどだ。
顔合わせ前に父王に言われた言葉を思い出す。
「聖女殿は神の子なのだ。創造神により直接造られた創造物という意味らしい。
我々は人から生まれた人の子。
王族といえど高貴さでいえば比較にもならん。
気位の高い方ではないので気を使う必要はないが立場の違いを心得ておけ。
しかし聖女殿も人ではあるので恋もすれば子も成せるということだ。」
意味深なニヤニヤ顔にムッとしたが、今はこの言葉に縋っている。
(恋もすれば子も成せる…)
マクシムは貴族の令嬢や諸外国の姫君など、美しい女たちにチヤホヤされながら育った。
見飽きたなどと言うつもりはない。美しいものは美しい。
しかし話が退屈過ぎた。
流行のファッションを先取った話、野に咲く花を愛でる私の話、政治状況に一家言ある話…
筋肉の話が一つもない!
マクシムの鍛え上げた筋肉を素直に誉めてくれたのは黒髪黒目に神々しい白いローブ姿の可憐な聖女だけだった。
話を始めるとそれとなく避けられる魔獣討伐の話に真面目に耳を傾けてくれて言ってくれた一言が耳から離れない。
(お強いのですね…)
教室の1番前のど真ん中の席で腕組みしながら顔を赤らめたりニヤけたりしている王太子殿下に教室中が引いていた。