聖女のお仕事
プロジェクト聖女の方針を決めるとエドモンとアナベルが相談して王都にある教会に行く日を日曜日と定めた。
安息日であり創造神に祈りを捧げる日でもある。
聖女も普通に教会に行って信徒に混じって祈りを捧げるだけである。
密かに聖女の癒し魔法をばら撒く以外は自らは何もしない。
徒歩では混乱を招くことになるだろうから移動は馬車だ。
あらかじめエドモンが教会に指示して準備されている。
相談ごとのある民に声をかけられたら別室で聞くことになった。
旗揚げから数日後の日曜日の朝、馬車で平民街にある教会へ行くと、すでに多くの民が詰めかけていた。
王宮の使用人からの口コミだろう。
マユがお付きを従えて行くと教会の入り口で押し合いへし合いしていた民たちが道を空けてくれた。
黙礼しつつ中に入り礼拝を済ますと、取り巻いていた民たちが一気に話し出すのを手で制して別室へ向かう。
お付きと教会のものたちが手分けして列を作らせる。
別室に落ち着いたところでクロエに頷くと扉を開け1人ずつ入れて話を聞く。
本人の治療はサクサクこなし、寝たきりの家族への往診は午後にまとめてやることにした。
聖女の診察は午前中のみ。
誰に対して何をしたかの記録をクロエにとらせていて何度も同じ人を診ることがないように対策している。
1人でも多くを診るため必要以上に話はしないが教会に乗り付ける馬車には王家の紋章が入っている。
国が行っていることだと分かる仕掛けだ。
さらに教会に聖女が来て礼拝を行った後、癒していくという流れに信仰心が煽られることになる。
死病も四肢欠損もたちどころに癒すのだから跪かないほうがおかしい。
そのうちに簡単な怪我を治してもらう者がいなくなった。
重傷者、重病人を押し退けてまで診てもらおうとはしなくなったのだ。
同じ地域の住民が多くいるなかで我を通すのは気まずい。
ひと月もたてば王都ばかりでなく各地から巡礼者が訪れるようになった。
日曜日の朝の平民街の教会に列をなす巡礼者たち。
(やっと聖女っぽいことが出来た!)
マユは馬車の中で満足げに微笑んだ。
隣に座るクロエも誇らしい気持ちでいっぱいだった。
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「聖女様がそんなに取るのか、ボッタクリだな!」
バリエ伯爵の不機嫌な怒鳴り声が響く。
「民はタダで癒してるというじゃないか。なぜ貴族からばかり金を取る?
逆だろうが!」
「国王陛下が民への施しのために聖女様を召喚したのでしょう。
神の子であらせられる聖女様はそのように仰っていました。
聖女とはそのような存在であるそうです。
不服ならば国王陛下を問いただせばいいではないですか!
タダで癒してほしいならば伯爵位を返上して貴族籍を抜いてください。
日曜日の朝、平民街の教会に行けば診てもらえますよ?」
アナベルに何を言っても無駄なことは貴族なら誰でも知っている。
デブ伯はぐぬぬと押し黙ったままアナベルを睨みつけて去っていった。
(税をむしり取るよりも面白いや)
アナベルのモチベーションは最高潮に高まっていた。
今いるのは王宮に用意してもらった聖女の窓口という独立した事務所だ。
教会の最初の仕事の感触から早急に体制を整えるべきということで大司教エドモンと意見の一致をみた。
エドモンお爺ちゃんは王様&宰相とはツーカーの仲なので事務所と人員を簡単に手に入れることが出来た。
狂信者と守銭奴は意外にもウマがあった。
国内の貴族家全ての財政状況と本人及び家族、その他関係者の健康上の問題を調べるのが入手した人員に割り振った仕事だ。
手元の情報によるとデブ伯は性病でお困りのようだ。
(撒き散らされても困るけど…けど!)




