聖女の癒し魔法
「身近なものというのであれば、ぜひ儂の身体でもお試しくだされ。」
「よろしいのですか?不慣れなままお身体を弄らせていただくことになりますが。」
「聖女様のお役に立てるならこの老体などどうなっても構いませぬ。
そのまま死ねるならむしろ本望というもの。
存分にお使いくだされ。」
殺すつもりはないが、本気の献身をみてマユは嬉しく思った。
「それでは失礼して。」
診断魔法を使ったが特に異常は見つからなかった。
お年寄りなのでガタがきているであろう目、肩、腰を詳細に観察する。
と、やはり眼精疲労、肩凝り、腰痛が見つかったので癒した。
思いついて足もとを観察すると、やはりアイツが見つかった。
白癬菌である。
これも神の領域にポイして食い荒らされた組織を修復するよう働きかけた。
(お父さまが水虫にかかりませんように)
祈りの内容が若干おかしい。
「大きな問題はないようですね。
目、肩、腰がお疲れのようでしたので癒やしておきました。
それと失礼ですがエドモンさまは水虫でお困りではなかったですか?
とりあえず治療しておきましたが、お履き物やお使いのリネン類、寝具のシーツなど足の触れたものを出来るだけ変えた方がよろしいでしょう。
すぐに再発してしまいますから。」
「おお!本当だ、身体が軽い!痒みもない!まるで若返ったようだ。素晴らしい!神の奇跡をこの身に受けるとは!」
「…喜んでいただいてなによりです。」
大司教の異常なテンションにひいてしまった。
「これが聖女様の魔法…確かに陣も詠唱もない。
とても魔法には見えませんな。奇跡としか思えん。」
「魔法陣や詠唱を用いるのが常識なのですね?
なにか分かりやすく動きをつけますか。
少し考えてみましょう。
しかし「これは魔法です」と触れ回る必要もないのです。
私は私のやり方でやって、気づいた方が自主的に探究されるのが望ましいでしょう。」
「なるほど。見えてきました。
聖女様の行いが世界に変化を齎す動機となるのでしたな。」
「その通りです。」
しばらく歓談した後に大司教は帰っていった。
それからマユは目、肩、腰の癒やしと水虫の治療をセットで行う魔法を自動化して目についた使用人に使っていった。
ゲームプログラミングっぽいと思ったのでそのままプログラミングをイメージしたのだ。
聖女の癒やし魔法。
ネーミングセンスはアレだが、分かりやすく聖女のイメージアップにつながる魔法である。
あえて魔法をかけていることは言わないでおく。
ほどなくして迎賓館の使用人の間に聖女を見かけるだけで心も身体も軽くなるという噂が広まった。
身体は魔法のおかげだが心は気のせいである。
プラシーボ効果というやつだ。
実際にはかけられてない人にもそのように感じられた。
珍しい黒髪黒目の輝く白いローブを纏った美少女の聖女様。
なにやら有難そうな存在ではないか。
魔法をかけていると言ってしまうと漏れなく全員にかける必要が出てしまうが、あえて何も言わないことで一部にかけただけで全員からの好感が得られるわけだ。
それが聖女の癒し魔法。