第2回 感想戦
「ふう。会うたびにキツくなる。上位者の威圧感というのか…
威圧なんて微塵もかけられてはいないが、勝手に萎縮してしまうな。
なんだあの魔法は?目の前で消えたぞ!陣も書かず詠唱もなしときた。
メイドに治癒魔法をかけた時も詠唱の声は聴いてないという報告だったな。
聴き逃したのだと思っていたが…
話が真実ならば我々にも可能らしい。
ただ、教えてくれるわけではないと。これはなかなかに難題だ。
諸外国には納得しないものもいるだろう。
聖女殿は秘匿する気もなさそうだ。厄介事の匂いしかしない。」
王様の嘆きに宰相が相槌を打つ。
「それです。
せめて治癒魔法だけにしてもらうということでお願いしなければなりません。」
「だな。あの消える魔法はヤバイ。あれを見せただけで戦争になるぞ。
まったく、あの見た目で思考は神に寄ってるから対処に困る。
エドモンもこれで教皇への道がひらけたな。
異界の聖女などに興味はないなんて言ってた奴が真っ先に跪きおって。
よかったじゃないか。」
大司教がうわの空で返す。
「教皇ですか…もはやどうでもいいですじゃ。
死ぬまで聖女様に付き従って奇跡を見逃さずに後世に伝えるのが儂の使命となりました。
聖女様は長寿と伺ったので後継も育てつつですな。」
「おおそうだった。出来ればどれほど長寿なのかも確認しておいてくれ。
しかし飄々とした見かけによらず野心家のエドモンがそこまで変わったか。
まだよく分からないが聖なる存在ではあるよな。」
「御意に。では、これにて御前を失礼して聖女様のもとに参ります。」
---
「信仰の対象に対する執着は凄まじいな…」
大司教が退室すると王様はため息とともに呟いた。
それまで黙していた宰相が。
「王宮ではどのように扱われますか?」
「王族と同等に。それしかあるまい。
礼儀作法を早急に身につけてもらってから貴族どもに紹介するか。
主だったものは召喚の儀に参加していたが混乱のうちに散開したからな。
礼儀作法に関しては王妃にも協力してもらおう。
王太子は…まあまだいいか。誤って懸想されても困るしな。」
「王女殿下は…」
「まだだ。見極めが足りぬ。」
「御意に。」
話を急に遮られることも想定内のような宰相。
なにやら含みのある会話で終わった。
---
大司教エドモン・レヴィは王宮内の教会の自室にいったん戻り、身支度を整えていた。
(人の子では今はなし得ない魔法、世界に害されることのない身体…)
神の圧倒的な御力を目の当たりにして悦びにうち震える。
(伝えられた御言葉は創造神様の明確な意思を示されていた。
我々教会は神の意思を世界にひろめるためにあるのだ。
聖女様は民に癒しを施すと仰った。
単なる治癒魔法でないことはメイドの事例からも窺えたが、実際のところどのようなものだろうか?)
大司教は居ても立っても居られなかった。
---
迎賓館に戻ってからクロエに大司教が来訪することを告げると慌ただしく準備が始まった。
思ってたより大事だった。
国の偉い順で3番目くらいの人だったのを思い出して、慣れぬセレブ生活に居心地の悪さを感じた。
シラタマちゃんだった頃から比べるとマユの感性は神よりの気がするが、傅かれるとか命令するとかはちょっと落ち着かない。
目の前で知らない人が死んだり戦争が始まってもそれほど気持ちが動かないような予感はしているが、それとこれとは別みたいだ。
王宮で暮らすことになるらしい。
迎賓館でも不便は感じないが使用目的の違いくらいは分かる。
ここは生活の場ではない。
重要人物をもてなすための施設だ。
さて、この国にどのくらい住むか…




