プロローグ
白田麻由ー都内の女子高に入学したての15才ーは幸せを噛みしめていた。
明日は人生初の彼氏と初デートの日。
母親に習った就寝前のスキンケアを入念に行い、最近のお気に入りの可愛いピンク色のモコモコ生地のザックリした長袖とショーパン上下のルームウェア姿でベッドに横になりながら今までの努力を思い返していた。
中学までは恋愛とは無縁どころかオシャレにも関心がなく、食欲と知識欲のみに支配された人間だった。
親しい友人はシラタマの愛称で呼んでくれたが、その他からは陰で白ブタと言われることもあった。
まあ、ぶっちゃけるとおデブちゃんだったわけだ。
それが陰口でおさまっていたのは親しい友人たちが揃いも揃って学校カーストの上位を占めていたからだ。
中学で理科の先生がやってた科学クラブなるものに入っていた。
空はなんで青いのかとか海の波はなんで止まらないのかとかいった子どもの疑問に完璧な解を与えてくれた先生を神と崇めて自然科学系の本を読みまくり実験したおしていたので、脳が甘味を求めるのは必然…ということにしてお菓子を食いまくった結果のおデブ体型。
しかし逆に学校の成績はトップだったので差し引きゼロ…ということにしていた。
理数系は当然オール5で文系科目も暗記は得意なので成績だけならオール5、芸術系はテストは出来ても才能なしなので4、体育はもちろんギリギリ3という感じで完璧超人ではなかったのが逆に幸いして、文学の才のある友人たち、芸術系に秀でた友人たち、スポーツ万能な友人たちが出来た。
頭はいいが人もいいゆるキャラっぽいおデブは親しみやすく友人は多かった。
しかし、中学3年になって進路として誰もが当然と考えた射程圏内の有名進学校ではなく、意外にも制服の可愛さのみで有名お嬢様学校を選んだ。
そこで都内でエステサロンを営む母親にスイッチが入ってしまった。
ブランド大学の元ミスキャンパス、フランス人と日本人とのハーフ美魔女である母親は原石と見込んだお菓子大好きおデブ娘が色気づくまで泳がせていたのだ。
母親が中学卒業半年前に志望校にサクッと推薦で合格したカワイイ娘に言い放った言葉が
「今のあなたにあの制服は似合わないわ。」
である。
そこから二人三脚でのダイエット大作戦が始まった。
カロリーコントロール、糖質制限、ホットヨガ、ボクササイズetc.
父親が女性に人気の雑貨店チェーンを経営していて都内の高級住宅街の一戸建てに住むくらいには裕福だったので娘のダイエットにもお金をかけられたのだ。
半年で約20kgの減量に成功した。
高校入学前には憧れの可愛い制服に似合う体型だけではなく、人目を惹くくらいのクォーターの美貌も手に入れていた。
普通に黒髪黒目ではあったが肌は日本人離れした白さで少し目尻の上がった大きなクッキリふたえの黒目がちな目とスッキリ通った鼻筋に小さな小鼻、少しだけポッテリした血色のよい唇、形のよい頭も含め全体的に小さな顔で脚の長い出るとこがシッカリ出ている完璧美少女がそこにいた。
苦しかったダイエットの後に手に入れた美しさは当然ながら自らのアイデンティティになりはしたが、可愛い制服を着こなすことで満足を得たのでリバウンドには気をつけつつもいつもの生活に戻った。
食欲に制限を設けつつ知識欲は無制限なので隙あらば通い慣れた街の図書館に入り浸る日々。
以前からそこにいたのだがおデブ効果で目に入らなかったのだろう、テリトリーに突然現れた可愛い制服姿の完璧美少女に図書館界隈に棲息していたブンガク系男子たちは震撼した。
その中の剛の者が蛮勇を奮って告白するのに時間はかからなかったのである。
シラタマちゃんの読む本はブンガクではなく自然科学分野に特化していたりするが、まだ初デート前なので露見していないのだ。
シラタマちゃんは、まだ恋なんてよく分からないが「高校1年生になって早々、そこそこ好みのタイプの草食系イケメンにいきなり告白されて、とりあえず付き合うことにした暫定彼氏と初デートの前夜」というシチュエーション自体が何かのご褒美と思えて幸せな気持ちで眠りについた。
「神さま、ありがとう。」