「豪邸とか住みにくいだけだから」
佐和山城の廊下を歩きながら、僕は石田三成のお兄さんである正澄さんに、
「お城が広くて迷う事ってあるんですか?」
人払いがすんでいるので人がいないからくだけた感じの話し方でも問題はないと言われていたので聞いてみた。正澄さんは苦笑いを浮かべて
「一時期は広い城に住むという事で見て回ったりしましたが、迷子になりましたね。最近は同じ場所の往復になるので迷うこと自体がなくなりました。」
どこか諦めたような言い方に悔しさがにじんでいるように思えた。
「このお城は豪華なお庭とかはないんですか?」
「この城は見た目だけのハリボテですよ。
権威を見せつけるだけで中身は質素です。
庭を造るどころか見えないところは使いまわしのようで古い場所もあります。」
「直されたりはしないんですか?」
「けが人が出そうな場所は直してますが、やはり作り替えたりはしないですね。
まあ、詳しくは父上に聞いてください。」
「承知しました。」
正継さんと対面して、正澄さんも離れていった。
「本日はありがとうございます。
先ほどは正澄と何をお話だったのですか?」
正継さんが聞いてきた。
「佐和山城の話をお聞きしてました。
古い場所もあると聞いたのですが、改築や作り直しを考えられないんですか?」
「広すぎて正直な話は把握できてないんです。どこが古いかもその時その時でしかわからないですし、改築するだけのお金もないですからね。広すぎる家に住んでいるというのもいい事かわからないですよ。」
「そういうものなんですね。
改築をするときは三成さんに確認が必要なんですか?」
「そこまではないですね。報告はしますが、基本的にはこちらの裁量を尊重してくれます。
ただ、お金を使いすぎるのはお互いに良い思いをしないのでしないだけです。」
「生活するうえで必要な事なら認めてもらえるんじゃないですか?」
「まぁそうかもしれませんが、三成は忙しいですからね。
秀吉様が天下を取られたとはいえまだまだ安心はできません。
勢いに負けて傘下に入っている者も多いですし、天下を取ったからと言って安泰であるとも言えません。
三成はそれを盤石なものにしようと政務を行っています。
そんな三成に城が住みにくいから改築したいなんて言えないですよ。」
「前に一度、正澄さんにいったのですが、僕の時代の知識を三成さんに教えようとは思われないんですか?」
「歴史上、我々がどうなるかを知ったとして変えるわけにはいきません。
難しい言葉だったので私には理解できませんが平行世界というものが生まれてしまったりするのも良くないでしょう。それに私の意見が三成に届くとも思えません。
自分の正しさを曲げる事ができない不器用な男ですから、三成もそして私も。」
「なるほど・・・、必要なのは話し合いかもしれないですが、それは第三者である僕がどうこう言う話でもないですね。広くて管理の行き届かないくらいならもう少し狭くても管理が行き届くような家の方が良いって事ですね。」
「大谷さんの時代でも同じような悩みの人はいますか?」
「規模は全然違いますけどありますね。
持ち家を持つよりもマンションや賃貸物件に住む方が良いという人もいます。
家族みんなで住むというより自分の空間を大事にして共有できる部分をみんなで管理する方が私の時代の暮らし方としては向いているのかもしれませんね。」
「家族の絆とかは蔑ろなんですか?」
「程よい距離感を保ち、どちらかに依存する事なく尊重しながらも自立した生活を目指すといった感じですかね。家族を大事にする人ももちろんいますが一人で生きていくという選択をする人もいます。」
「家族と共に生き、家の繁栄を考える我々とは少し違うんですね。」
「そこは個人差がありますがそもそもが自分ではない人との共同生活ですからね。
我慢したりぶつかり合いながら理解しあう事も大事なのかなと思います。」
「広い家では顔を合わせる事も減って話す事もけんかする事もなくなってしまうのかもしれません。
そういう意味では広い城に住むのではなく、狭くても家族と共にあれる場所で暮らしたいと思いますね。」
正継さんが言い、僕が
「そうですね、豪邸とか住みにくいだけだから!って感じですね。」
「もともとが農民のようなものですからね。大谷さんの言う通りです。」
正継さんとその後も佐和山城の不平不満についての愚痴を聞いた