「ファーストコンタクト」
「できるだけ人払いはしてありますが道中で誰かと出会ったら、私の従者のふりをしてください。」
正澄さんが言い、
「わかりました。あの一つ聞いても良いですか?」
「何でしょうか?」
「このタイムスリップはどういう原理でできてるんですか?」
「大谷さん、あなたの時代ではタイムスリップの原理が解明されてますか?」
「いいえ、されてないです。」
「ならば、この時代にその原理が解明できているわけがないじゃないですか。
私が佐和山城の蔵を整理している時にたまたま見つけた箱にあの洞穴の場所と先ほど渡したお札が二枚入っていました。
何かと思い、試しに行ってみるとあなたの時代へと繋がっていたんです。あなたの時代では私の格好は珍しかったようであっという間に人に囲まれ、『こすぷれですか?』などと問い詰められていた時に笑田氏に助けて頂いたのです。
いべんと会社なるものをしているのでそれの『きゃすと』とやらだと説明してあっという間に私を囲っていた人達を引き剥がしてくれました。
その後、事のしだいを説明するとあなたの時代の事や私の知らない歴史についても教えてくれました。」
「歴史を知って何かを変えようとは思われましたか?」
僕が聞くと正澄さんは笑って
「私などが変えられる事はありませんよ。
弟の死がこの国の安寧へと繋がっていたとしても、変えるつもりはありませんし、何よりあの堅物が私の忠告など聞くはずがないですからね。」
僕は残念ながら歴史には疎いので、正澄さんの弟が誰かは知らない。でも、どこかで引っ掛かる人物はいた。
「さて、あまり父を待たせたくないので急ぎましょうか。」
「はい。」
正澄さんに促されるまま後ろについて歩いた。
ー佐和山城内広間ー
「父上、例の人物をお連れしました。」
正澄さんが言い、広間の一段高くなった場所に座っていた少しやつれた感じの男性が
「良く来てくださいました。
この佐和山城の城代の石田隠岐守正継と申します。」
「はじめまして、彦根カルチャーストーリーの大谷春継と申します。」
僕は挨拶をして頭を下げた。城代って事はかなり偉い人だと言うことは歴史がわからない僕でもわかる。社長が留守だから副社長が代表で会社のあれこれを仕切ってるような感じだろう。
「まぁまぁ、そう固くならなくて大丈夫です。
あなたがどのような人物であるのかは正澄から聞いておりますので、こちらの作法などがわからなくても咎めたりしませんし、何より私は溜まりに溜まった文句を聞いてもらえるなら細かいことは気にしませんので気楽にしてください。
正澄、少し席を外してくれるか?」
「承知しております。ぜひ、溜まった不満を大谷殿に吐き出して楽になってください。
完全に人払いをしておきますので、お帰りになられる際は大声で私をお呼びください。
それでは大谷殿、よろしくお願いします。」
正澄さんは僕にそう言って正継さんに挨拶して広間から出ていった。正継さんが
「まずは確認なのですが、私はこの立場がら心許せる者にしか本心を話すことはできません。
息子の正澄であっても言いにくいのが正澄の弟に関する事になります。」
「正澄さんの弟に問題があるということですか?」
「そうですね、その息子が武士として出世した事により、私も正澄も武士として領地を頂けるまでになったので、文句を言って良い立場ではないですし、こんな立派な城に住めるのも息子のおかげではあるのですが、息子の三成は頭が良く優秀なのですが人付き合いが苦手でしかも頑固だから人からの忠告もしっかりと受け取れないのです。」
「三成?石田三成ですか?」
「ええ、そうです。
私も正澄から色んな歴史の話を聞いてますから、どのようになったのかもわかってはいますし、後世において息子が語り継がれる存在となったことは心から誇らしく思っています。
でも、私にだって言いたい事はたくさんあるのでお付き合いをよろしくお願いします。」
「あっはい。こちらこそよろしくお願いします。」
僕は頭を下げながら、心の中で思った。
『成功した息子に対する愚痴かよ~』と。