「大谷吉継」
僕は正継さんの愚痴を一通り聞き終わり帰るための廊下を正澄さんと歩いていた。
今日の正継さんは戦の雰囲気が強まっている事から少し緊張していたように思う。今までもたくさんの戦に参加してきたが、これから向かえる戦は今はまでにないものであることを知っているからだろう。自分が死ぬ戦だと知っているのも影響はあるだろう。
でも、今日の愚痴の内容は戦の事ではなかった。年だから動きにくいとか城内の補修してない所を歩いてたら床が抜けかけたとか、そんな話しばかりだった。戦に備え重要地点だけ補強整備をしているようで、手の回らない所は廃墟のようだと正継さんは笑っていた。正澄さんが
「大谷殿、少しお時間よろしいですか?」
「あっ、大丈夫です。」
僕は考え事をしていたところだったので突然声をかけられて少し動揺してしまった。
「会っていただきたい方がおられまして。別室でお待ちいただいているのです。」
「そうですか・・・」
僕は案内されるままに部屋に入ると、40代くらいの男性がにこりと笑い、「お噂は聞いております。そちらにお座り下さい。」
と言ってきたので僕はそれに従って対面になる形で座った。
男性が
「タイムスリップとはどのような感覚ですか?
平衡感覚に問題や体に不調がある事などはありませんか?」
僕は急な質問に驚いた。なぜタイムスリップをしっているのか、それに伴う体調不良を心配してくれるのはなぜかなどこちらからも質問したいくらいだった。」
「特に体調が悪くなる事とかはないですね。ただ歩いているだけなので、それほど苦に感じることはありませんね。」
「私は神仏というものに特別な思いがあり、通じている人間でしてね。奇跡のような現象もすべて神仏による恩恵の賜物だと思っています。」
「そうですか。確かにタイムスリップに関しては奇跡のように感じますね。」
「でも、奇跡は起こし続けられるわけではありません。
真剣な話しをすると、あと多くて3回くらいしか起きないでしょう。つまりあなたがこちらにこられるのもあと数回であり、これが最後かもしれません。
次に来て貰ったときには時間軸の影響で合戦の最中なんて事も十分にあり得ます。お気をつけ下さい。」
男性はそう言うと立ち上がり部屋から出ていこうとした。
「お心づかいありがとうございます。」
僕は頭を下げると男性は去っていった。
あの人が誰かと気になっていると正澄さんが現れて僕を佐和山トンネルまで送ってくれた。別れ際に正澄さんに
「あの人は誰だったんですか?」
「あの方は大谷吉継様ですよ。
三成の友人で我々にとっても強い味方ですよ。」
すごい人物との出会いだったが本人だと知らないと感動もしにくいんだなと思った。
残された機会が少ないというのも寂しい気持ちになったが、それよりも大谷吉継がなぜタイムスリップについて詳しかったのかという事の方が気になってしょうがなかった。