「足音」
佐和山トンネルを石田正澄さんと二人で並んで歩いていた。
前回の密会について聞きたい気持ちもあったが依頼人の深いところまで踏み込むのもどうなのかというプロ意識のようなものが邪魔して聞けなかった。
タイムスリップしている間のこのトンネルを歩くのは普通にトンネルを抜けるのよりも時間がかかる。
基本的にトンネルを抜けている間に話す事もないし、たまにこんな情勢だから気を付けてほしい事がある等の注意点を教えてもらう事もある。
正澄さんが僕に向かって
「大谷さん、我々の時代は太閤様のお体の調子が悪く少し時代が荒れ始めている感じです。」
「1590年代も後半という事ですか?」
「そういう事になりますね。後継者争いまではまだですが、不穏な雰囲気は漂っています。
外部の者が入るのも少し難しくなってきている部分はありますが、大谷さんに関しては父のお客として認識されているので特に敵視される事はないですがあまり歩き回ると誤解される事もあるのでお気を付けください。」
関ケ原の戦いが近づいてきているというのはつまり正継さんと正澄さんの最後に近づいているという事でもあるので少し複雑な心境になった。
「気を付けます。正澄さんは僕らの時代に来て歴史についても知っているわけじゃないですか。
そうなってくると何かを変えたいと思う事はないんですか?」
「・・・・どうですかね。確かに変えられる事があるのはあります。
でも、変えてはいけない事もあると思うんです。戦に出るときに到底勝てないとわかっているからと言って逃げるわけにもいかないですし、なぜ負けるのかを知ったとして一人で変える事もできません。
内通者として逆に処罰される可能性もありますからね。
私が死ぬ運命が決まっているなら私以外を生かすための何かをします。
それも歴史に関係のない範囲での話になりますけどね。」
「お子さんや奥方といった話ですか?」
「不仲を演じて国元に返したりもできるかもしれませんね。父も三成を助けようとはしていません。
親として子を大事に思っているのはどの時代でも共通だと思いますが、三成ほどの重要人物をかばう事は歴史を変える事になりますからね。それに以前もお話ししましたがあの頑固者が我々の忠告など聞くはずがありません。無駄な努力というやつです。
それに・・・・・ある約束もありますので軽挙に行動できないというのもありますからね。」
「約束?ですか?」
「ああ、この話はまた今度にしましょう。
トンネルを抜けますね。」
暗いトンネルの出口の光が大きくなってきた。気になったがこれ以上聞くなといった雰囲気を感じたのでそれ以上は聞けなかった。