「社長の思惑?」
現代に戻って報告とまではいかないが笑田社長と話していた。
「まあ、正澄殿にも人付き合いがありますからね。」
「帰るときに気づいたんですけどかなり奥の部屋で話されてたので、他の人には聞かれたくない伊話だったのかなと思いますね。」
「大谷君に感謝されていたのであれば派遣している私もうれしいですね。」
「そんな感じの話し方でもなかったように思うんですよね。
でも、札がどうとかの話が気になりましたね。」
「札というのは、タイムスリップに使っているやつの事ですかね?
確かあの札は正澄殿が蔵を掃除しているときに見つけたものでしたね。」
「そんな感じで説明されましたね。」
僕が言うと社長はニコリと笑い、
「まぁ、我々の依頼主はあくまで正継殿ですからね。
正澄殿がどのように思われているのかは正直に言うとどうでもいい話です。他にはできない体験をする、その事が当社の受けている利益ですから。」
「そう言えば報酬はどうなってるんですか?
通貨が違うから現金で貰ってる訳じゃないですよね?」
「下世話な話ですが、正澄殿から戦国時代の諸々の話を教えて貰い資料として作成しています。
考えてみてください、あの時代の真実や出来事はその時代に生きる人にしかわからない事なんですよ。
歴史マニアでもある私はそういった時代の裏話を聞けるだけで満足なんですよ。なので、正継殿の依頼の報酬は話を聞かせて貰い、その講演料として私が大谷君にこの時代の通貨でお支払しているというわけですよ。」
「そうだったんですか。
でも、やはり気になりますね。正澄さんが正継さんに隠れて何かをしていたわけですから。」
「まぁ、怪しく感じてもおかしくはないですがこれだけは覚えておいてください。
石田正澄は関ヶ原の戦いの折りに父である正継と共に佐和山城に籠城し敵を向かいうち、父と共に敗戦の責任を取って切腹しています。最後まで父を支えた男だったわけですから裏切りとかは一切ないです。」
「そうなんですか。」
僕が少し安堵して言うと社長は
「まぁ、先程も言いましたが依頼主は正継殿です。
我々はタイムスリップの理論がわかるわけでもないですし、その理論を知る必要もありません。
ただ、現場に行き依頼主の不満を聞き、心を軽くする事が仕事なのですから。」
「えっ、でも気にならないですか?タイムスリップなんて誰でもできるわけじゃないですから。」
「ふむ、まぁそういう考え方もありますね。
しかし、車や電車がどんな仕組みかを知っていますか?
知らなくても乗れるし目的の場所に行ける手段として確立されているなら内部構造や仕組みなんかは知らなくても良いと思います。知るべき事と知らなくても良いことは必ずあります。
余計な知識で身を滅ぼす事もありますから、踏み込む際は十分にご注意下さい。」
「そ、そういうものなんですね・・・」
社長からこれ以上の詮索をするなといわんばかりの圧力を感じる。この人は何かを知っているのではないだろうか?
それでもなお話したくない裏側があるのかもしれない。
基本的につかみ所のない人柄だからこそ、こういう時にその真意を計り切れない。
社長が何を思い、どのような思惑があるにしろ僕にはわかりえない事なので考えるのをあきらめた。