8話 僕は平凡だ! と訴える規格外
あの後、サティに喧嘩を売ったサンショク先輩達グループは見事に同好会へと所属することとなり部員は一気に増えた。
そのことにサティはご満悦。鼻歌まじりで私の前を歩いていた。
あの人達、見た目ヤンキーで喧嘩早いけど文句を言わずにこちらの指示に従ってくれるよな。これはあれか、群れのボスの言うことは従順に聞く野生動物のあれか。
てか、タルタロス君もなんか野生児って感じでうちの部って本能的で生きてるものが多い。私みたいに理性的に生きてもらいたいものだ。
「ところで、先ほどから学校内を歩き回っているがいったい誰を探しているのだ?」
「うーんとね、リンゴウ君」
「あーあの人か。というよりもあの人この学校に入っていたんだ」
「うん。次姉ちゃんが言ってた」
次姉ちゃんとはファルべ家の上から五番目の兄弟で次女のピャーチさん。なんでも超有名金持ち学校に通っているらしい。
見た目は絶世の美女……だけど中身がとてもいい加減でわがまま。私も何回振り回されたことか。やはり付き合うのならばお淑やかな人に限るな。
そしてサティが探しているリンゴウさんはそんなピャーチさんの最大の被害者であり……、
「気づかれた!」
言葉と共にサティが走り出す。目にも留まらぬ速さってああいうことを言うんだな。普通のものなら瞬く間に捉えられているだろう。
けど、リンゴウさんは普通のものではない。いち早くサティの接近に気づき一目散に逃げている。さすが私が数少なく認めている……天才と呼んでもいい人だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんで捕まえるんだよ!」
「逃げるからだよ」
私がサティの後を追い、しばらくしてから彼女を見つける。見つけた彼女は一人の男に怒られていた。
どこにでもいるようないたって普通の人。どこか気弱そうな見た目をしているが今はサティに対して怒っている……縄で縛られている状態で。
この人がリンゴウさん。私の中学校時代の先輩であり……ファルべ家姉妹の被害者の会の仲間である。
「お久しぶりですリンゴウさん」
「久しぶりセシル君……じゃないよ! 何保護者の義務を放棄しているんだよ!」
いや、私、サティの保護者じゃないし。相変わらず意味のわからないところでキレる人だ。
「この学校に入ってやっと平日は快適な生活を送れると思ったのにその安息の日々が今度は妹のサティちゃんによって奪われるなんて、僕は絶対嫌だよ!」
「やはり私達が何をしようかわかります?」
「当たり前だよ。僕も君達とはそれなりの付き合いがあるからサティちゃんがアメダス部を立ち上げようとする噂は耳に届いているよ」
「なら話が早いね。早速ここにハンを押して。ハンコがないなら血判でもいいよ」
「何も話が早くないよ! 僕は君達姉妹のそういう強引なところが嫌いなんだよ!」
紐でぐるぐる巻にされて身動きが取れずにいるリンゴウさんは無理矢理体を動かしてめいいっぱい抵抗しようとしている。
まあ確かに。リンゴウさんのいうことは一理ある。この姉妹は昔から理不尽すぎる。それに付き合わさせる私達の身にもなって欲しいものだ。
「こんなこと言ってるよセー君」
「当たり前の反応だよ」
「なら仕方ない。次姉ちゃんに頼んでリンゴウ君が部に入ってもらうこと説得してもらおう」
「あの人に頼むなんて卑怯だぞ!」
「言うことを聞いてくれないリンゴウ君が悪い」
いや、全然悪くはないぞ。てか、先ほどから聞いていて思ったんだが、リンゴウさん未だにピャーチさんと関係が続いているのか。嫌なら嫌でさっさと切ればいいのに。
まああの人のことだから簡単には切らしてもらえないか。あの人にとってリンゴウさんは一番のお気に入りのおもちゃなのだから。
ちなみに私は二番目ということらしい。どちらにしても嫌ではあるが。
「……わかったよ、入ればいいんでしょ入れば」
私が考え事をしている間に話は決着したみたいだ。どこか諦めた表情でリンゴウさんは渋々了解していた。
「いいのですか?」
「ピャーチ先輩の話が出てきたしこの子もこの子で頑固だから断り続けても絶対諦めようとしないでしょ?」
ごもっともです。
「ただし条件がある」
「なーに?」
「ピャーチ先輩からの呼び出しやめてくれない? あの人休日毎回呼び出しをして僕の休みの時間を潰してくるんだよ」
「うーん、休日も練習すると言えば止めてくれると思うよ」
「ならよし」
うわ〜、今凄い手のひらを見たような気がする。それほど呼び出し嫌だったのか?
でも、私は思うんだ、あの人のことだから呼び出しを止めたって逆にあの人の方からこちらに出向くって。
あの人、普段はタウンナー気味なのにリンゴウさんをいじる時はめちゃくちゃ生き生きしているからな。
まあ言わぬが仏だろう……ピャーチさんにも今この世の春と言わんばかりにウキウキしているリンゴウさんにも。
でもリンゴウさんが加入してくれたおかげで最低人数は集められた。貴方の尊い犠牲は忘れません。
合掌。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、すぐに書類を書き直して生徒会へと再提出した。まさかたった半日足らずでメンバーを揃えるとは思わないだろう。
言葉には出さなかったが少なからず生徒会長の人も驚いていた。それを見たサティもご満悦でいまだにニヤニヤと笑っている。
ただサティよ、部活動は認められたがまだ色々と用意しなければならないものが残ってるんだが。
きっとこいつのことだから「セー君任せた」と言うだろう。簡単にオチが見える。
仕方ない、乗りかかった船だ。最後まで面倒を見るしかないか……イヤイヤではあるが。
「あっ! ミト君だ!」
正式に認可が降りるまで部としての活動できず同好会止まり。部室もなく、同好会メンバーもそれぞれが用事があり帰宅している。
完全にやることがなくなった私達は帰路についていた。そこで彼と出会う。昨日空から降ってきた美青年であるミト君に。
改めて見るとホント男前だな。髪の毛は程よくカールがかかったパーマ。体格も良く焼けた肌がさらにそれを際立たせる。
同じイケメンでもデール君は爽やか系のイケメンに対し彼はスポーティーなイケメンである。
言っている意味がわからない? 正直言って私も分からずどちらでもいいと思っている。お姉様系の魅力ならこと一時間は語れる自信はあるが。
「サティか。それとお前は同じクラスの……」
「セシルだ」
「ああ、サティ達兄弟がよく話している。こうやってきちんと話すのは初めてだな」
そうだな。昨日は目もくれず去っていったからな。と、こんなことを思っているけどあまり気にしていない。どちらかと言えば凄いなと尊敬している。
あんなにもボロボロになりながらも必死に強くなろうとしていることは並大抵の覚悟がなければ出来ないことだ。私には到底真似できない。
「そうだな……と言うよりもサティ、彼強そうだから部活に誘わないのか?」
何気なく聞いた言葉。しかしその言葉はどうやらクリムゾン君にはお気に召さなかったようだ。
わかりやすいくらい渋い顔をしており、あのいつもニコニコと笑っているサティも苦笑いしていた。
「あーうーんとね、ミト君はアメダスにはあまりいい思い出がないんだ。だから入らないって。これでも一応誘ってみたけどね」
「アメダスは中学校までで十分だ。と言っても中学時代はまともに試合で使われたことはないけどな」
「ん? なんでだ? 見た限りじゃかなり強そうと思うけどな」
「強い弱い以前の問題だ。俺は武器とのシンクロ率は低くモバイルもあまりうまくは使えない。何よりゼロスキルだ。誰も試合に出そうとは思わない」
淡々と、だけどどこか嘆き、どこか諦めた様子で答える。
武器には使用者との相性があり、俗にシンクロ率と呼ばれるそれは高けば高いほど武器の真価を発揮することが出来る。
例えば切れ味が増すや重さが軽くなるなど。聖剣や魔剣の類などはもっと凄いらしいが私はよく知らない。
と言うかあまり知りたくもない。武器の類にはあまりいい思い出がなく詳しく知ろうとも思わない。
次にモバイルというものがある。手のひらサイズのそれは内蔵されているスキルを自由に使用することが出来る。ただし使用者の腕によってスキルの強さなどは変わってくるが。
今は機械のものがそう呼ばれているが昔は木とか石に彫ったものがそう呼ばれていたらしい。
種類は千差万別ながらすごいものになると打ち込めるデータ量は多く、複数のスキルや強力なスキルを内蔵することができる。
ただ金額がバカにならず、強力なスキルが内蔵されているモバイルなら一機数千万は下らないだろう。
「私はそうは思わない」
だからと言ってそれがどうした? いくら凄い武器を使いシンクロ率が高かろうと、一つ数千万のモバイルを持とうともそのものの実力がなければただの宝の持ち腐れだ。
「強いか弱いか、アメダスに必要なものはそれだけで十分だろ?」
「……お前は面白いな」
クリムゾン君はクスリと分かるか分からないかくらいの笑みを浮かべる。イケメンだからその姿すら様になっている。正直嫉妬すら覚える。
ただ彼はそんな私の気持ちを知ってか知らぬかわからない。軽く別れの挨拶を済ませるなり階段を登っていった。
「嬉しかったんだろうね」
そんな彼の背中を見つめながらサティは嬉しそうに笑っていた。
「彼、元々いたところじゃ結構冷遇されていたんだよ」
「あれを冷遇するなんて周りのものは無能なのか?」
「一応全国優勝候補だった学校だよ。まあ去年は全国大会一回戦で敗退してしまったんだけどね」
「と言うことはフォーチュン中学校出身というわけか」
去年の大会は見たけどあれは酷すぎた。選手達のほとんどは驕っておりそれを戒める監督自体がそれの筆頭だった。何故主役である選手より目立とうとしているんだ、意味がわからん。
それはそうとフォーチュン中学校出身で紅の一族……ということは彼、もしかして紅の神童か。
いやはや、只者ではないと思っていたがまさか本家のしかもあの神童とは。
消えたと言われていたがまさかあれほどに成長しているとは……世の中わからないものだな。
「セー君、何一人で何回も頷いているの?」
「いや、何でもない。それはそうと彼、何故この学校に入ったんだ?」
「うーんとね、ミト君は四姉ちゃんの彼氏の弟なんだよ。それで四姉ちゃんの紹介で次兄ちゃんの弟子になったんだよ」
「そうか」