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宝玉はまた輝く  作者: 日月星
堕ちた一等星、もう一度輝きを取り戻すために希望(そら)に手を伸ばす
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7話 部員は寄せ集め(弱いとは限らない)

「却下だ」


提出した用紙はすっと私達の元へと返される。やはりな、これで通らないのも仕方ない話だ。


「何でですか!」


だと言うのに私の隣にいる幼馴染は引き下がらない。睨みつけるまではいかないが怒った表情で目の前に置かれている机を叩いて訴えかける。


……入学式の翌日。私達はさっそく部を立ち上げるために行動を移した。入部希望者を募る張り紙を張り出し顧問の先生も探した。


幸い顧問の先生はすぐに見つかった。と言うのも私達の担任の先生……アリタム先生に頼んだらすぐに受けてくれた。やはりあの先生はいい人そうだ。


そして必要な書類を作成し生徒会の承認をもらうために提出し……今に至ると言う訳である。


「そのことは隣にいる彼がよく知っていると思うが?」


生徒会長である第三学年の先輩が鋭い視線で私を見て問いかける。鋭いと言っても元々目付きが悪いからそう見えるだけで実際は普通に見てるだけだと思う。あと憮然とした態度も相まってでもあるか。


「部活動をするためにはその競技に参加出来る数の部員を揃える。アメダス部のプレイヤー人数は三十人、つまりは少なくとも三十人は集めなければなりません」


「だがここに書かれている人数はそれよりも大幅に下回っている。それがわかっているのに何故ここにきた?」


「隣にいる彼女が言うことを聞かず」


「頼み込んだら行けると思ったんです!」


いや無理だろ。案の定通らず目の前にいる生徒会長は眉間を押さえて呆れ返っている。ホント、うちの馬鹿が申し訳ありません。


「君はイチルさんとは正反対な性格をしているみたいだ」


まったくその通りである。この猪突猛進の性格をしている幼馴染と冷静沈着で大人びているイチルさんが兄弟とはとても思えない。


イチルさんはサティの兄でファルべ家の長男。この学校の卒業生で現在はあの小高い山に建っている神社で神主をやっている。


年齢に対してとても落ち着いているという意外はいたって普通の人……と思っているが彼ら兄弟の認識は正反対。兄弟一の怪物。まったくそのようには見えないのだけどな……。


「私はあの人にはとてもお世話になった。だがそれとこれとは別である。ルールはきちんと守るものである」


いいぞ、もっと言って下さい。私がいくら言っても全然守らなくて手を焼いているんですよ。


とまあそれはそれとして……この生徒会長の人、厳しいことを言っており見た目も怖いけどしっかりした人で理論整然で物事を考えており意外といい人みたいだ。


残念だが今回はダメだな。だからそんな駄々っ子みたいな表情をしてもダメだぞ。大人しく帰るとするぞ。


「でしたら人数が揃うまで同好会扱いというのはどうでしょうか?」


と、ここまで黙っていた女生徒がそう提案してきた。お淑やかで上品でお嬢様っていう感じで……サラァサさんやセカイさんに近いものがあり……実にいい。


「セー君」


なんだ、人が感情に浸っているところに。それと断られたからって私に当たるのはどうかと思うぞ。そんなジト目なされても困る。


「同好会……ですか?」


「そうです。同好会でしたらいつでも設立出来まして人数が揃い次第部として届けでも出せますが……いかがでしょう?」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「もー怒った。こうなったら人数集めてあの生徒会長達をあっと言わせてやる!」


ぷんぷんと怒りながら廊下を歩いていく我が幼馴染。生徒会室から出てからずっとこの調子である。


「百歩譲って生徒会長はまだわかるが副会長のデューサさんは何もやっていないだろ。それどころかアドバイスを送ってくれただろ」


さりげなくアドバイスをくれる年上女性……うんいい。特にこの隣にいるちびっ子の相手をしていると余計に思う。


「騙されたら駄目だよセー君、ああいうタイプは裏では何をやってるかわからないって相場が決まってる。先週やってたドラマでもそうだったし」


「お前、いくらなんでもそれはあんまりだろ」


まったく。この幼馴染はもう少し理性的に話すことを覚えて欲しいものだ。


それはともかく。問題は人を集めることだ。悪いことにこの学校は元々生徒の数が少ない。三十人ものの人を集めることは一苦労である。さて、どうしたものか……。


「やっと見つけた!」


声と共に人が私達の目の前に降りてきた。二日連続空から人が降ってくるとは……出来ればお淑やかな女性でも降ってくれれば私が紳士的に受け止めてあげるというものの。


いかんいかん。私は紳士なのだ、こうも下賤な考えをするのはいかんものだ。


それはそうと彼……今屋上から飛び降りてこなかったか? さすがに昨日までとはいかないがそれでも屋上までは高さがあり普通のものなら骨折する。


それなのに彼はケロッとしていてまったく問題がないという感じだ。少し日焼け気味で頬には絆創膏が貼られている元気っ子。何故こうも私の周りには歳不相応のものばかり現れるのだ?


「ねえねえ、君達ってアメダス部を立ち上げたの? どうやったら入れるの?」


降り立つなりマシンガンのように私達に質問をぶつけてくる。一度にそう何個も質問されては答えられるものも答えられない。


「やったよセー君、入部希望者だよ!」


だと言うのにこの幼馴染はまったく異に返すことなく飛び跳ねて喜んでいる。


「飛び跳ねるな、鬱陶しい。……確か君は同じクラスのタルタロス君だよね」


「そうだよ!」


「何故君はアメダス部に入部したいのだ?」


「やってみたいと思ってたから。オイラ、昔っからアメダスの試合を見ていたんだ。けど、ここは田舎だから人や必要な道具も集められなくって今まで出来なかったんだ」


「なら何故行ける学校に行かなかったんだ?」


「ああえ〜っと……」


言いにくそうに視線を外され苦笑いをされる。これは聞いてはいけない問題なのか?


「勉強が出来なくって……」


どうやらそうではないみたいだ。なるほど、こやつも勉強が出来ないようだ。


「それに僕はこの地元が大好きなんだ」


かと思えば今度は一転して穏やかで優しげな笑みを浮かべている。


「豊かな自然にのんびりした街並みが大好きなんだ。あまりここから離れたくないんだ。ほら、ここから近くアメダスが出来る学校って言えばセントラル学園だから」


彼の言う言葉も一理ある。ここはとてもいい街だ。田舎っていうほど田舎ではなく交通の弁もよく欲しいものもすぐ揃う。とても住みやすい街であり私も好きである。


それと、彼がいう通りここから一番近い場所は隣町にあるセントラル学園だ。あそこは二年前まで平凡な学校であったが、四王の一人《暴君》が入学して一気に変わり今では優勝候補の一角まで上り詰めている。


ただここから電車で一時間以上かかるので少し遠い。通うには少しばかり不憫なのだ。そう言えば……エイトさんがセントラル学園に行っていたな。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




新たに一人加わったがそれでも部を立ち上げるには人が足りおらず目標としている半分にも満たしていない。さて、どうしたものか……。


「おい!」


と、考え込んでいた私達は声をかけられる。私はなんだと思いその声の発生源の方向へと振り向く。


そこには私達に近づいてくる集団おり、その集団は十数人ほどの集団で今時どうかというほどの不良グループだ。


何故今時どうかというのはその服装だ。田舎のヤンキー特有の特攻服に大きくバッテンの印がされたマスク。正直言ってダサい。


「テメーらが噂の新入生だな」


オラオラとした態度で特攻服男の一人が私達に詰め寄ってくる。なんだかヴィデオを見ているようだ。と言うかあいつ今どこにいるのだ? 私達が生徒会長室に見送ってからいないのだが––、


「ああん? お前らこそ何者なんだよ?」


と、思っていたらヴィデオがこの場にやってくる。こちらもオラオラの態度で私に言い寄ってきた男に詰め寄っていく。


ただ迫力はない。身長は低く幼い容姿をしているのでどことなく可愛らしい。


相手もそう思っているらしく怖がっておらず肩を押してその体を退かせる。


「お前の相手をしていないんだよ」


と言って再び私達に近づいてこようとする。


「なんだとテメー!」


その後ろからヴィデオが容赦なく殴りかかる。が、その拳はあっさりと避けられてヴィデオの体は前のめりになりそのままずっこけてしまう。そのまま勢いよく地面を滑っていく。


「か、紙一重で避けられた……だと」


勢いよく滑ったあまり全身泥だらけ。そんな体の上半身だけ起こし、まるで信じられないものでも見るような目で男を見る。


いや、かなり余裕を持って避けられたぞ。いい加減ヴィデオも自分の実力を理解した方がいいと思うのだが。


「ところで、何か用ですか?」


茶番もこの辺りにしてもらいそろそろ本題に入ってもらいたいものだ。


「シャクド、お前も遊んでないでさっさと要件を言え」


それは相手も思っているようで集団から一人の男が現れる。ガタイがよく身長も二メートル近くもあり周りと比べても頭一つ辺り抜けている。それは風格もありただのチンピラというわけではなさそうだ。


「すいませんリーダー」


先ほどまでは勝ち気だった男が下手に出ている。どうやらこの男がこの集団のリーダーの男みたいだ。


「もういい。俺が先に要件を伝える」


男の肩に手を置き退かせる。


「俺は二年のサンショクだ。単刀直入に言う……お前ら俺の下につけ」


上から見下ろすようにそう答える。あーそう言うことか、ヤンキー特有の縄張り意識というやつか。


と言うか、この人、私達のこと知っていて言っているのだろうか? サティに喧嘩を売って勝てると思っているのか?


ハッキリ言ってサティの実力は桁違いだ。仮に目の前にいる男達が襲い掛かってもものの数十秒で返り討ちに合うだろう。中身はあれだけど。


「下につけだ〜? テメー、ナマ言ってんじゃねーぞ」


中身があれなのはこいつもだ。ヴィデオは勢いよく立ち上がりサンショク先輩に向かって殴りかかる。こいつまた勝手に、ことを大きくするんじゃない。


そんな私の思いはヴィデオには届かず彼の拳はサンショク先輩に届く。が、サンショク先輩はまったく効いておらず見下ろすようにヴィデオのことを見ていた。


「何かやったか小僧」


「馬鹿な、僕のアルティメットハンマーが」


「用がなかったら退け」


殴りつけた腕を掴み適当に背後へと放り投げる。いくら華奢で軽いヴィデオの体を腕一本でああも簡単に放り投げるとは……なんて怪力しているんだ。


「で、どうする?」


池に落ちたヴィデオなど眼中になく私達のことを見下ろす。それはそうとヴィデオのやつ、二日連続池に落ちるとは。本当に風邪をひくのではないか?


とまあ今はそこのところはどうでもいいか。それよりも目の前にいる彼をどうするべきか。


正直言って私達にとっては大した敵ではない。だが、正直言って相手をするだけ面倒だ。


「これ、倒しちゃっていいの?」


と、ここで今まで黙っていたタルタロス君が口を挟んできた。と言うか彼、無邪気な顔でまたとんでもないことを言っている。


「なんだとこのチビ助!」


当然ながら怒るものが現れる。シャクドと呼ばれる上級生はタルタロス君に詰め寄って胸ぐらを掴もうとする。


しかし掴めない。素早くその手を避け、お返しと言わんばかりに腹へと拳を入れる。


どうやらその一撃は想像に反して重たかったみたいでシャクドと呼ばれた男は腹を埋めながらその場に座り込んでしまった。


今の動き、どうも武道に通じているものの動きじゃないな。完璧な本能的な動きで圧倒的な運動神経で避けてただ力一杯ぶん殴っただけ。


それでもあれだけの威力を持っているのだ。もし本格的に武道を覚えたら……考えるだけでゾッとする。


「面白い」


今のやり取りでサンショク先輩もやる気みたいだ。周りで臨戦態勢を取っている部下達を下がらせタイマンでタルタロス君と勝負しようとしている。


この人、意外にも誠実だ。普通数に物を言わせてマウントを取ろうというのにサシで戦おうとは。案外喧嘩を売ってきた理由も腕試しだったりしてな。


「コラ!」


ただ喧嘩を売った相手が悪い。うちの幼馴染は理不尽が具現化した存在と言ってもいい。軽いお叱りの言葉と共に放たれた拳骨は二人を一撃でダウンさせるほどの威力だった。


「暴力ごとはいけません!」


それをお前が言うか。速攻で暴力で解決したくせに。周りで見ていたもの達もそう思っているが誰も言わない。時には黙っていることがいいことがあると知っているからだ。

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