4話 遅れてきたお前が悪い/問題児もようは使いよう
先に言っておきます
私、オンラインゲームとかやらないので知識程度(他の小説やネットなどをインプット)しか知りません
なのでオンラインゲームをやらない奴が勝手に想像して書いたオンラインゲームと思ってください
WBO。三年前に初代が発売されて以来大ヒットを続ける人気シリーズのタイトルだ。
このゲーム、何がすごいのかは先ほど語ったこと以外にもある。それはシリーズと言っても一つ一つのコンセプトが違うのにその全てが大ヒットしていることだ。
これだけ言えばなんのことだと思うだろう。私自身もこのゲームのことをよく知らなければ何のことだと思う。
では詳細を語らせてもらおう。
約三年前に発売された初代WBOは対人ゲームだ。一対一はもちろんのことチーム対チームの戦いや軍隊軍の戦いなども出来る。
発売された当時はただのゲームの枠に過ぎなかったこれはいつのまにか軍やプロアスリートや上の戦士などの訓練にも採用されることとなりWBOの名は瞬く間に全世界へと広がることとなった。
それから約一年半後に発売されたのがWBO IIである。格ゲー好きのゲーマー達や軍などの本職達はいったいどんなふうに進化したのかとドキドキ期待していた。
だがその期待は見事に裏切られる……。シリーズ第二段は初代とは打って変わり育成&物作りのゲームだった。
魔物を育て、農地を開拓し、武器や防具を作る。それは初代とは違うゲームの楽しみ方がありまた違う層……比較的若い層や女性達から人気を博しこちらも大ヒットした。
そして今回、一年半の沈黙を破って現れた第三弾……にしてシリーズの集大成。RPG、仮想の世界エバンスマナを舞台に戦ったり武器を作ったり旅をしたりするゲーム。
一からキャラクターを作るのはもちろんのこと以前やっていたシリーズからキャラクターを引き継ぐことも出来る。
本当になんでもありの自由な舞台……それがWBOIIIなのだ。
私は一からキャラクターを作ることはしない。時間がかかるしめんどくさいし何よりシリーズ二つを渡り歩いたキャラクターにはとても愛着がある。
カエクス。初代シリーズでは偵察兵を務め、二代目では料理人を務めたキャラクターだ。それを使用して今回もまたのんびりとスローライフを楽しむつもりだ。
確かに世界の果てまで旅をしたい気分にはある。だが私は昔から何かを作ったりしている方が性に合っている……いや、これはもう呪縛と言った方がいいだろうか。
とまあ暗い気持ちになるのはこれくらいにしておこう。せっかくのゲームだ、存分に楽しむにしよう。
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「これはまた……人が多い」
ゲームの中に降り立った私がまず最初に目にしたのは所狭しと溢れかえっている人の群れ。
いくらゴールデンタイムと言ってもサービス開始したのは今日の昼だ。もうとっくに先発組は次の街へと向かいこの街に残っているものは少ないはず……そう予想していた。
その予想は外れ未だに人が多い。どうやら私が思っている以上に購入者の割合が多いのか? はたまた次の街へと向かうのが難しいのか?
まあいい。とりあえず情報を集めて次の街へと向かうとしよう……っと、その前にリキッドさんと連絡を取らなければ。
リキッドさんは私のフレンドで私と同じく初代からゲームを楽しんでいるプレイヤーだ。そして自他共に認めるヘビーユーザーだ。何せ総合計プレー時間など私の数倍ある。
あの人はいつ働いているのだ? 会話の内容的にもまだ若いようではあるがそれでも社会人であることは確かだ。
……いかんいかん。他人のプライベートの詮索などマナー違反だ。リキッドさんは面倒見のいい人、それでいいではないか。
《ああカエクス君。お疲れ〜》
「お疲れ様です。今どこにいるのですか?」
《東の第二タウン。いや〜、僕は説得したんだよ、カエクス君が来るまで待とうって。でもみんな早く次の街に行きたいってしつこくて》
《よく言うぜ、自分が一番次の街に行きたかったくせに》
《カエクスなら自力でたどり着けるから心配いらないってとも言っていたね》
《申し訳ない。私は止めたのだが他の者達はどうしてもと言って言うことを聞かなかったんだ》
《頑張れビグアード! 君ならきっと立派なドラゴンになれる! うぉー! 向こうに見えるのは未だ見たことがない魔物! これは仲間にせねば……いや、仲間にしてくまなく愛でなければならない!》
《……と言うことだから頑張って追いついてきてね。大丈夫、カエクス君はやれば出来る子だと私は知ってるから。それじゃあまた––コラ! 勝手に戦線を離脱するなバルベルサ! 君が持ち場を離れたら––》
……うん。やっぱり社会不適合者のろくでなしだ。一番年上のリキッドがいの一番に約束を破りやがった。
サリバンさんやクロードさんはまだ裏切ると思っていたからそれほど怒らない。いや、まあ……怒ってることは怒っているんだけどリキッドさんに向けているほどではない。
ルイスさんは他のメンバーが行こうと言えば逆らえないのはわかっていたからそこまで怒ってない。あの人推しに弱いから。
バルベルサIII世さんは……うん、あの人の頭の中は動物を愛でることしか考えていないからまあ……ね。怒っても仕方ない。
とりあえず後を追っかけてリキッドの野郎の顔面を一発殴らないと気が済まない。
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「見つからない……」
気を取り直して冒険者ギルドにやって来たのはいいものの、一緒に行ってくれる人はいない。ここに来ればパーティーを組めるって聞いたんだけどな。
まあそれも仕方ないか。今ここにいるのは仕事を斡旋しているものか私と一緒のスローライフ勢くらいなもの。
ガチ勢や攻略組って呼ばれているものはもうとっくに先に進んでいるよな。
何より私、真っ直ぐにここへとやって来たからレベル一で装備も初期のまま。だから相手にもされないのか。
さて……どうしたものか。とりあえずここを出てレベル上げをしながら考えるか? 最悪一人でもなんとかなりそうと思うし。
「何が良きに計らえだよ! テメー全く使えねーじゃねーかよ。ゲームやったことがあるのかよ!」
一人、不満をぶちまけられて仲間だったもの達から置いてかれる神官の少年。
「MP管理も出来ない魔術師とかただのお荷物よ。悪いけどこれ以上付き合っていられないわ」
一人、辛辣な言葉を投げかけられて仲間達から置いていかれる魔術師の少女。
「テメーらどいつもこいつも足手纏いなんだよ! どうして俺の動きに合わせられねーんだよ! クソが!」
一人、仲間達を睨みつけ、反対に睨めつけられながら去っていく大剣使いの青年。
「レベル上げもこの辺りで良さそう。そろそろ次の街に行こうと思ってるけどどこに行きたい?」
一人、ぶつぶつと呟きながら薄気味悪い雰囲気を醸し出している精霊使いの女性。
私を中心とした四方、その方向から歩いてきた彼らは何故かその場に立ち止まり無言で私のことを見ていた。えっ、何? 私何かついているの? 怖い怖い。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はい皆さん正座」
パンパンっと手を叩いて目の前にいる四人を正座させる。
うん? 何故四人ともこちらのことを得体が知れないものを見るような目で見ているんだ? 私は比較的紳士的な態度で接しているというのに?
あの後、私はあの四人とチームを組み、色々あって今に至る。えっ、色々と端折りすぎだって? だって語るにもそれほど面白いなくありきたりなものだから語っても仕方ない。
街を出て、広がる草原でモンスターと対峙し、四人ともそれぞれ好き勝手やってたから私が軽く苛立ちを覚えて正座させる。ほら、ありきたりな話でしょ?
「おい、いきなり正座とか––」
「あん? 黙ってろこの猪野郎。俺の言葉が聞けねーのか? もう一回叩きのめされてーのか、あん?」
「……うす」
「正座とはいったいどのようにするのだ? 私は今までやったことがないから分からん」
「こうやってこうやってこうするんだよ坊ちゃん」
「なるほど。しかしこれは痛い、やめても––」
「うん?」
「いや、なんでもない。……良きに計らえ」
どうやら私には問題児達を引き寄せる何かを持っているようだ。いや、見られた時からなんとなくそういう予感はしていたんですよ。彼らに関わったらめんどくさい事になるっていうことは。
でもね、私も背に腹は変えられないわけですよ。一刻もあの社会不適合者をぶん殴りに……ゴホンゴホン、リキッドさんにお礼参りをするためにね。
私がこの目の前にいる四人とチームを組んで三十分。初心者が最初にたどり着くフィールドで二、三回戦闘を行った。
それで分かったことは……こいつらあれだ、戦闘のせの字もわかっていないにわか野郎どもだ。いや、その表現も少し違うな。こいつらは……、
「取り敢えず問題点。まずオレックスさん、あんたなんでもかんでも突っ込みすぎ。もう少し立ち回りを考えろ。別に何でもかんでも一人で決める必要はねーんだから」
「うす」
「次にカミノコ君。君、周りのことよく見なさい。ゲームの神官は人一倍気を配る職業。パーティーの状態を逐一確認しその場その場で判断しなければならないんだよ」
「……心得た」
「そんでもってミミちゃん。君はバカすかと魔法を撃ちすぎ。もっとMPを確認し場合にあった攻撃をするように」
「やったことないけど頑張る!」
「最後にターレットさん、君はもう少し他人と連携をすることを覚えようか。精霊達と仲はいいことだけどその気持ちを普通の人にも向けましょう」
「……うん……わかった」
「じゃ、取り敢えず東の第二タウンに行くのは後にしてこの辺りで少し特訓をしようか」
こいつらがゲームでの戦闘の立ち回りさえ覚えれば東の第二タウンなんてすぐに行ける。なんたってこいつら場数だけは踏んでいるからな。
私の勘が言ってる、こいつら間違いなく高スキル所有者で……上の住人だ。
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上、戦闘場、この世の果。色々な呼び方で呼ばれているが正式名称はアステラル・フィールド。
この世界と別世界との間にあるその空間には別世界から生物がやってくる。俗に言う異怪獣と呼ばれる奴らだ。
奴らがこの世界にやってくる目的はこの世界を侵略するため。先の大戦でそのことがわかっており、その時は何万人ものの人達が亡くなっている。
その反省を生かすために戦士達がいる。アステラル・ソルジャー。特別なライセンスさえ取れれば誰だってなれるその職業は世界一夢があり……世界一危険な職業だ。
一流と呼ばれる者達は富の名声を得ることが出来……夢敗れしものは儚く散っていく。
こいつら多分その上の住人だ。立ち回りは素人に近いくせに妙に魔物なんかに動じていないんだよな。それって多分……高スキルで敵を殲滅し立ち回りを考えていないということだよな。
まあこれはあくまで私の仮説で彼ら自身のプライベートなことだから深くは探りは入れないから本当のことはわからない。
今大事なのは……私が東の第二タウンに行けるかどうかということだ。
「オレックスさん、左のゴブリンを排除してください」
「おうよ」
私の掛け声とともにオレックスさんはその大きな剣でゴブリンを一刀両断する。
「カミノコ君、私にAGI上げるバフとオレックスさんの回復を」
「心得た」
「ミミちゃん、後ろにいるアーチャーゴブリンにファイヤを二発」
「ハイです」
カミノコ君のバフがかかると同時に私の後ろからドンドンっと、軽快な音とともに火の塊が飛んでいく。
その火の塊は見事弓を持っているゴブリン……アーチャーゴブリンにあたり勢いよく燃えていく。
「ターレットさん、精霊で目の前にいるゴブリンを牽制を」
「うん」
最後に残ったゴブリンの目の前を妖精がちょこまかと飛んで邪魔をする。その隙に私が背後に回り込んで手に持っている小太刀を突き立てる。
刺されたゴブリンは光の粒になって消え去っていき、代わりにドロップアイテムのゴブリンの棍棒と紫色の石が置かれた。
《ゴブリン×3の討伐に成功しました》
《ゴブリンの魔石×3、ゴブリンの棍棒×1がドロップされました》
《レベルが5に上がりました》
ついでにレベルアップもした。
レベルが上がればステータスも上がりスキルを覚えることもある。
ステータスは職業ごとに上がりやすさがあり私の場合はAGIとDEXだ。
ちなみにステータスの種類はHP(体力)・MP(魔力)・STR(力)・ATK(物理攻撃力)・INT(魔法攻撃力)・VIT(生命力)・DEF(物理防御力)・RES(魔法抵抗力)・DEX(器用)・AGI(素早さ)・LUK(運)だ。
なんだか被っているようなものがあると思うが実際は事細かく違う。
例えばSTRとATKだ。ATKは単純に物理攻撃力の数値、対してSTRは純粋に力。これが高ければ高いほど重たい装備が出来る。
例えば今来ている服などはSTR 5くらいで装備出来る。が、こんなもの紙が和紙に変わったくらいの装甲で刃物なんかはすぐ通る。
しかしSTRが高ければ鎧など頑丈な鉄の塊などを装備することが出来る。すなわち近接戦闘や壁役を主体とするものには必須項目である。
他にはVITは状態異常にかかりにくくなりかかっても回復までが早くなったり、DEXは投擲などの命中率が上がったり生産がうまく行ったり、LUKはレアアイテムが落ちやすくなったりクリティカルが出やすくなったり色々ある。
ちなみに私のビルド(ステータス構成)は第一にDEX第二にLUK第三にAGIだ。
私は生産をメインにやって行こうと思っているのでまずDEXを上げなくてはいけない。次にレアアイテムやクリティカルを出したいためにLUK。最後に欲しい素材を手に入れるため戦う時にAGIが必要のためこれを上げる。
ATKやDEFなどはまあ……普通にレベル上げで上がっていければいいし、場合によっては装備品でなんとかしようと思ってるし、それでもどうしようもない時はまあ……それまでだ。
私、スローライフを満喫する予定だからそこまで戦闘は重要ではない。後々のことを今考えてもどうにもならないし別にいいや。
私は若干現実逃避しつつ目の前に転がっている握り拳サイズの紫色の石を手に取り、太陽に透かすように持ち上げる。
「これがゴブリンの魔石か……」
魔石は売れば金になることはもちろんのこと武器などの強化や魔物達の餌などにも使われる。色が濃く大きいほどいいと言われており、ゴブリン程度ではまだまだ薄く小さい。
「なんだよこいつら、めちゃくちゃよえーじゃねーかよ」
「まあ初期に出てくる魔物として有名ですからね。けど、油断しないでくださいよ。ここから先は通常ダメージだけではなく毒や麻痺などの状態異常もついてくるんですからね」
「ああわかってる。しっかりと指示を頼むぜ大将」
バンバンと背中を叩いてくる。この人、短気で豪快な人だな。あとダメージはないけど痛いからやめて欲しい。