2話 まったく心外である/親方、空から美少年が
「ではまずは各々の自己紹介を」
式が終わり新入生の私達はクラスへと案内される。それはあの在校生代表で祝辞をした生徒会長……厳しそうだったな。
すんなりと部活の許可降りるだろうか、いや降りない気がして来た。こういう時って勘って結構当たるからな。
対照的に私達の担任は優しそうだ。まだ若いと言うのにしっかりとしており落ち着きすら感じさせる。ああいう大人になりたいもんだな。
「コウメイ。全中MVP、目標はサティ・ファルベを倒すこと」
っといつの間にか自己紹介が始まっていた。てかこの学校結構大らかだよな。
席の順番とか適当だし何より朝あんなことがあったのに何事もなかったように進んでいる。
普通の学校ならまず間違いなく呼び出し注意を喰らっているはずなのに。
それにしてもこのコウメイっていう子、今朝あんなことがあったのに全然懲りていない。それどころかさらなる対抗意識を燃やしてサティのことを睨んでいる。
サティもサティだ、そのことに気づいていないようで笑顔で手を振ったいる。これでは火に油を注ぐだけだろう。
「デール。まあ訳あってここに引っ越して来た。気軽に声をかけてくれ」
このデールっていう奴。明らかにこの辺りの人間じゃないな。気楽に話しているが立ち振る舞いとかどこか洗礼されていて育ちの良さがうかがえる。
そしてイケメンだ。身長は俺とそんなに変わらないが顔立ちがよく肌が綺麗に白くて金色の髪もサラッサラだ。剛毛で天パの私には羨ましい限り、てか欲しい。
ゴホン、いかんいかん他人のものを欲しがるとは。それではそこらにいる略奪者とさほど変わりはない。私は文明人、あのような蛮族とは違うのだ。
「カリーナ。サティちゃんに呼ばれてここにやって来た。彼女とは友達っていうほど仲は良くない。まあビジネスライクっていう関係だけどね」
なんだかこのカリーナっていう女性。どことなくうす気味悪さを感じさせられる。
飄々としている態度もどこか演じているようで隙を見せたら一瞬のうちに命を刈り取られるような……そんな感じをさせられる。警戒しておいた方がいいかもな。
「サティ・ファルベ。気軽にサティちゃんって呼んでね。あとアメダス部を立ち上げる予定だからよかったら参加してね」
そしてうちの幼なじみサティの自己紹介。こいつはこの辺りでは有名人でアイドルだから結構知られておりここに来るまでに結構注目を浴びている。顔だけはいいからな顔だけは。
「ヴィデオ。俺のことはヴィデオ様って呼べ。気安く話しかけるな、話しかけていいのは兄貴と姉御だけだ。ささ、場は温めておきました、兄貴自己紹介の方をよろしくお願いします」
何が温めておいたんだ、完全にヒエヒエでとてもじゃないが自己紹介出来る雰囲気ではない。
サティも「よっ待ってましたセー君!」と囃し立てるな、余計しにくくなるわ!
地元組も地元組でニヤニヤしながら楽しんでんじゃねーよ、ああクソ、なんで俺の周りにはこんな奴らばかりなんだ。
「あー自己紹介にありましたセシルです。このような扱いを受けていますがいたって普通の人間です。どうか三年間よろしくお願いします」
我ながら無難な挨拶だと思う。だからサティ、そんなつまんないっていう表情をするな、私はお前とは違って常識的で普通の人間なんだから。
なのに周りからの視線はおかしい。こちらのことを珍獣を見るようなものや恐れているものや呆れ返るものばかりだ。
果てには「お前が普通の人間なら俺達はいったいなんなんだよ」や「あれが噂の猛獣使い」や「目を合わせるな、叩きのめされるぞ」と聞こえてくる。
私のような常識人かつ文明人に向かって言うような態度ではない。まったく失敬極まりない話だ。あとで抗議の弁明を送らせてもらおうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれからコウメイさんの襲撃(ヴィデオが瞬殺されコウメイさん自身も瞬殺され)があったり、サティが近所のモールに遊びに行きたいと言い出したので連れて行かされたり、そこでまた違う襲撃(俗にいうサティがナンパされた)などがあった。
やれやれ。何故今日もまた問題ごとが多発するのやら。たまには穏やかな日常を過ごしたいものだ。それもこれも隣りにいるこの幼なじみが原因ではあるが。
「楽しかったねセー君、今度は他の人達とも一緒に行きたいね」
隣を歩いている幼馴染みは私の苦労などまったく気づかず今日もまたニコニコと笑っている。本当にこいつは自分が迷惑をかけていることに気づいていないのか?
「ああ、そうだな」
仕方ない。他の人に迷惑をかけてしまうのはさすがに心もとないので私がしっかりと注意をしなければ。今度あった時に。
「それはそうとセー君、あれって今日届くんだよね?」
「ああ。もう届いているはずだ」
「いいな〜。私もやりたかったいのにママが駄目だっていうから」
「確か関係者は出来ないっていうルールがあったな」
「そう。あれってママの会社が開発したゲームだからその関係者である私達は出来ないって」
シュンッとなっていじけながら歩く幼馴染み。あれとはゲームの話だ。たかだかゲームと侮ってもらっても困る。
他のゲームとは比べ物にならないくらいほど技術的に進んでおり三代四代は軽く飛び越していると言われている。
何が凄いのかと言えばVRシステムだ。従来のゲーム機もVRのものはあったがこの会社が作るVRシステムは異常だ。
匂いや味、それと肌触りなどが現実と遜色ないほど高く、動きもぬるっと動いてラグなどまったく起きない。
そして何と言ってもNPCが感情豊かなことだ。本当の人かと言うほど知能や感情など豊かでとても凄まじいAIが使われているという噂だ。
それの第三弾が出るという話だ。初代からやり込んでいるヘビーユーザーの私がやらない訳にはいかない。これは義務ではない使命なのだ。
当然ながら全国的にも人気があるため予約販売はすでに終了しており次にいつなるかもわからないと来ている。
まあ私には関係ない、知人権限で購入済みだ。ズルではない、コネを使うことは世間的には多いに認められている。
「セー君、とても悪い表情をしている」
「馬鹿なことを言うものではない。私ほどの聖人君主は他にいない」
「そうかな? セー君も結構暴君だと思うけど?」
こ、この女! あれほど傍若無人な振る舞いをしているくせにそれを快く許している私に対してそのような言動をするとは。やはり一度こっぴどく怒らなくてはいけないな。
だがそれは出来なかった。突如として私達の目の前に人が降って来たからだ。
おいおいマジかよ、わりと人が飛ばされる光景は見慣れているけどあんな高さから降って来るとは。私は男が降って来た方向へと視線を向ける。
地元でも有名な場所。正面には大きな朱い鳥居がありその先には千段の石で出来た階段があり、それを上り詰めた場所には神社がある。まあぶっちゃけた話この幼馴染みの実家である。
てかこの男生きているのか? 頂上からここまで落ちて来たら普通なら死んでいるぞ。サティも指で男の体を突く暇があれば救急車などを呼べ。
「あーミト君、またこっぴどく次兄ちゃんにやられたね」
ん?
「サティ、まさかとは思うがこの男とは知り合いか? それにまたやられたとはいったい」
「何言っているのセー君、この子私達のクラスメイトだよ」
なんと、この空から降って来た男は私のクラスメイトだった。いやはや私としたことがクラスメイトの顔を忘れてしまうとは。
そう言えば最後に自己紹介し、それ以外はずっと眠っていた男が彼と似たような姿をしていたな。
「名前はミト・クリムゾン君だよ」
「クリムゾンって確か赤の系統の一つの紅の一族じゃなかったか?」
赤の系統とはフェルベンの一つにして戦闘に特化している集団。
そこからさらに武器の緋・格闘の朱・スキルの紅の三部族に分かれており、この目の前にいるミトはその三部族の一つの紅のクリムゾン家の人間だ。
「そうだよ。でもミト君、スキルは持っていないんだよ」
「それはまた……」
この世はスキル社会と言ってもいい。いいスキルを持つほどより良い位置に行き反対に悪いスキルほど悪い位置……いやそれどころか地位すらなくなる。
犯罪系のスキルではないとはいえスキルを持ち合わせていないのは悪い。しかもそれがスキルで有名な紅の一族ならなおのこと……。
「哀れみも侮辱もいらない」
今まで気を失っていたミト・クリムゾンは重たい体を起き上がらせながらそう口にする。その目は未だ死んでおらず静かに……それでいて確かに闘志が燃えていた。
「家族はこんな俺でも家族と呼んでくれ未だに籍を置いてくれている。何より……負けっぱなしは嫌なんだ」
その姿はどこかで見たことがあり……多分もう二度と見れないいつかの誰かの姿に似ていた。






