6話 雲隠れ
今回は少し短めで
クリスタル学園、大進撃。と隅に小さく書かれているアメダス専属雑誌。ネットニュース主体な現在でもコアなファンが愛読書として読んでいるそれは丸められてゴミ箱に放り込まれる。
「けっ、雑魚がずいぶんはしゃいでるようだな」
部室の中にいたとある人物によって。そのものは部室から出るなりそこから見える目下の景色を見つめる。そこには自分の後輩達が練習しており誰もこれもが……柄が悪い。
自分達が絶対であることに疑うことはなく、かと言ってフォーチュン学園みたいな気品さは感じられない。向かってくるやつは全てぶちのめすという気概が感じられる。
「だが調子に乗ってられるのもここまでだ。勝つのはこの俺らだ」
それが強豪ソリューズ高校であり、彼はそのトップでありエース……カリムである。
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こいつら、破竹の快進撃と雑誌に書かれて浮かれてやがるな。私は一つの雑誌に群がっている部員達を見ながらより一層練習を厳しくすると心の中で誓うのであった。
私達クリスタル学園は地区本戦の初戦を無事に終え、その後の二回戦三回戦と難なく勝利して行き、次はいよいよ準々決勝。それに勝てば準決勝。全国の切符がかかる大事な試合となる。
相手は多分ソリューズ学園。今まで全国大会の出場を逃したことがない強豪校だ。
「あんまり浮かれないでくださいよ。気を抜いていたら勝てるものも勝てなくなってしまいますから」
わいわいと盛り上がっている先輩達に釘を指す。すると騒いでいた部員達はピタリと言葉を発するのをやめ、各々の顔を何かをします合わすように見て、
「さすが単独インタビューを受けた奴は違うな」
「選手の俺たちより目立ちやがって」
「俺だって取材受けたかったのに」
ヒソヒソと私の悪口を言い始めた。
なるほどなるほど。どうやら貴方達はさらなる厳しい訓練がご所望のようだ。
安心したまえ、この訓練を楽々とこなせるようになれば単独取材も夢じゃない……その前に夢半ばで朽ち果ててしまうかもしれませんが。
それと私自身はあまり取材というものを受けたくなかった。それもこれもサティの奴が有る事無い事記者に吹き込んで変に私を持ち上げるからだ。
私自身は至って普通のマネージャーとして過ごしているというのに……何故かわからないが最後の方は私のことを得体の知れないものを見るような目で見て「選手の方はされないのですか」と言われてしまったが、解せぬ。
とりあえず「単独取材を受けたかったらもっと上手くなってくださいよ」と懇切丁寧に言ってから部室から出ていく。
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「ああいいよな〜」
中も外も変わらない。部室で取材を受けたことに羨ましく思うものもいれば訓練場の外でも羨ましく思っているものもいる。
そのうちの一人である二年生主要メンバーの一人であるサバクは先ほど見た雑誌の内容に心ここに在らずとなっていた。
サンショクが率いる不良グループはどこか古臭い硬派なものが多いのだがこのサバクは少数なの今時のヤンキー。
ナンパでチャラいイメージがつくシティーボーイ。つまり田舎では少し浮いている。
「俺も雑誌とかに名前載りてーな」
「だったら真面目に練習しろ」
「ヘイヘーイ」
注意するシャクドに生返事を返す。それがさらにシャクドの苛立ちを増幅させることを知っているのに。
サンショクの側近の二人だが昔っから絶妙に馬が合わず度々喧嘩をしており、彼らと同じサンショクの側近であるツンドラを悩ませている。今も頭を抑えて軽くため息をついていた。
「喧嘩するな」
それでも本気の殴り合いにならないのはサンショクが締めるところは締めるからだ。彼の鶴の一声により一触即発だった空気が発散される。
「……結局、うちで個人取材が来たのはコウメイやデール達元々有名だった二人、それからタルタロス・リンゴウ・ミトの三人を合わせた五人だったわね」
「うち二人は取材拒否をしていたけどな」
ツンドラの呟きに近い言葉にシャクドが返事をし、視線を目立たないようにウォーミングアップをしているリンゴウの方へと向ける。
これでわかると思うが取材拒否をしたうちの一人はリンゴウであり、
「僕は目立つのは苦手なんだよ」
理由もいつも通り自分勝手で小市民な理由だった。当然ながら周りにいた部員達には反発的な意見が多く、シャクドなんかは「一度は言ってみたいぜそんな台詞」と言って舌打ちしていた。
なんだかんだ彼も取材を受けて目立ちたかった……と言うよりも実力を認めれたかった。
「……こいつの場合は……まあ、みっともないが理由はある。だがミトのやつはさっぱりとわからない。それにあの嫌がり方は尋常じゃない」
今、サンショクが言った通り。もう一人の取材拒否の人物はミトである。
しかも彼の場合は拒絶反応が凄まじく隠れているリンゴウよりも酷い。ここ数日ほど部活には姿を見せず雲隠れしているくらいだ。
一応サティやセシル達には許可を取っているので無断欠席ではなく隠れて訓練はしているらしい。
それでもあのミトが自分勝手な理由で部活に姿を見せに来ないのはとても珍しく不思議なことだ。
「よくよく考えたらあいつも色々と謎が多い奴だな」
サンショクの呟きはこの場にいるみんなの気持ちを代弁する言葉だった。
そりゃ〜取材片手間で選手の訓練の相手をしてたら誰だってそう思いますよ
しかも一方的にボコボコで