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宝玉はまた輝く  作者: 日月星
地に這いつくばろうとも、泥水を啜ろうとも、人は歩まなければならず
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5話 修行の成果

「地区大会初戦の相手はリシシ高校だ」


いよいよ地区大会本戦。私は試合開始前の控え室でミーティングをする。


と言っても対策などは前々からしているし試合の途中とかでも随時指示を出す。言わばこの時間帯は最終確認と鼓舞の部分が大きい。


「過去に全国ベスト8まで上ったこともある伝統校だ」


「関係ない、全国制覇するためには全て叩き潰すまでだ」


その通りですシャクド先輩。けどその台詞、


「シャクド先輩、その台詞、前にも聞いたよ」


「しっ! タルタロス、そこはあえてツッコンだらいけない! 本人は自信満々にキリッって言ってるんだから!」


そうなんだよな。シャクド先輩、気に入っているのか覚えてないのかは知らないがなんだかんだことあるごとに言ってるんだよな。もう一種の声かけだな。


他の奴らはまた言ってると思ってるだけだが……とうとうタルタロスに指摘された。


あとヴィデオ、そういうことは大声で言わない。ほら、シャクド先輩が顔を真っ赤にして睨んでるぞ、ただし激怒という意味よりは恥ずかしさによってだけどな。


まあそれはそれとして後で絶対締められるだろう。雉も鳴かずば撃たれまいというのに。


そしてその睨みにビビりのリンゴウさんは顔を引きづり、サンショクさんは緊張感のない奴らと言って呆れていた。まあ変に緊張しているよりはマシか。


「取り敢えず、この試合に勝って弾みをつけるぞ」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




リシシ高校の監督は油断はしていない。相手は今年創設したばかりだが予選大会は圧倒的な実力差をつけて勝ち上がってきた新進気鋭の高校。舐めてかかると痛い目を見る。


だがしかし、相手には致命的な弱点もあるのもまた事実。そこをつけば勝つことも難しくない相手だと感じていた。そのためこの一週間ほどは対策を施して来た。


その成果が今、発揮される。そう思いながら試合の状況を選手に持たせた機械越しにリシシ高校の控え室から見つめる。


そして試合開始が始まる。


相手は早々に自分達の陣地に仕掛けて来た。出来たばかりの若い部活にありがちな未熟な戦術。地区大会予選ではそれなんとかなっただろうが本戦ではそうはいかない。


いくら実力があろうとも相手のほとんどはアメダス素人。つまりは普段馴染みがない遠距離から攻撃にはめっぽう弱い。それこそがクリスタル学園の最大の穴……だとリシシ高校監督は思っていた。


だから遠距離攻撃部隊を最前列に並べ、相手がノコノコと現れたところで集中砲火する。これで相手は一網打尽……そう思っていた。


相手がデバイスに内蔵されている障壁を一瞬だけ貼り、強力な遠距離攻撃を防ぎ、ガラ空きとなった遠距離攻撃部隊を蹂躙するまでは。



◇◇◇◇◇◇◇◇



その弱点を放っておくはずがないだろ。そう思いながら私は前線から送られてくる映像を見ていた。


アメダス素人にありがちなことの一つは遠距離攻撃への対処の不十分さだ。


元々喧嘩慣れしているメンバー(サンショクさんの舎弟)が多かったから近距離はまだなんとかなるが遠距離攻撃は少し難しい。


まあ当然だ、どこの世界に一般人が遠くから狙われる生活を送るんだよ。ホント、羨ましい限りだ、私なんて常日頃からあいつら(神々)に狙われるというのに。


……ともかく、魔法対策はこの数ヶ月でみっちりと仕込んだ。


ある時は四方八方から乱れ打ちをしたり、またある時はこっそりと隠れて狙い撃ちをしたり、またある時はレイガンさんのところにいる一流の人達に頼んだりもした。


今思うとホントに豪華だよな、今をときめくレイガンさんの部隊に稽古をつけてもらうなんて。


あそこは基本的にレイガンさんのワンマンチームだけど所属している人たちの練度もなかなか高い。しかもいい人ばかりでかなり親切だ。おかげで遠距離攻撃対策はバッチリだ。


「今思うとあの訓練鬼畜だったよな」


「ホントそれ。休まる時間がなかった」


「しかも設定いじって痛覚レベルも上げてた。さすがに死ぬほど痛くないけどそれでも泣くくらい痛かった」


「しかも守る障壁はほんの一瞬だけ貼れるやつ。確かにそっちの方が強力で消費も少なくて効率的だけど普通素人とかに使わせるか」


「鬼軍曹、ここに極まりだったな」


後ろにいる待機組がコソコソと何を言ってるのか聞こえない。だが、なんとなくだけど馬鹿にしていることはわかる。これはスタメンを張れるくらい訓練を課した方がいいか。


それはそれとして……まさかここまで上手くハマるものとは思わなかった。


一応バレないように予選は障壁なしで避けるだけって指示で動いてもらったけど……それが上手くいったか? まあさすがに避けるだけじゃ対処しきれず何人かは被弾してたけどな。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇




まだだ、まだ挽回のチャンスはある。そう思いながら監督は次の指示をとばす。と言っても難しいものではなく落ち着いて対処しろという話だ。


普通にやればうちの選手が負けるはずがない。少なくとも一人一人の実力はうちの方が上、相手チームにいる数少ない精鋭達を打ち倒せば勝てる。


その相手の精鋭だって弱点はある。


一番最初に挙げられるのはタルタロスだ。彼は身体能力はずば抜けている。反面スキルの使い方は甘く使用期間はそれほど長くはない。


あと意外なことに対人戦はそれほど上手くはない。その身体能力についていくことができればフェイントなどを入れて勝てる。


故に一人が囮になり、その先にもう一人が打ち倒す。そう、以前の予選までならそれでなんとかなった。


だが今は違う。神との一件により力の使い方を覚え、百の相手に千の戦いという膨大な数の組み手を行い……彼の才能は大きく開花した。


まだ荒削りながらもスキル【風神】の力を体に纏わせ、向かって来た敵を返り討ちにしてから囮になっていた選手も撃破する。


そして新たに手入れたスキル【雷神】を使い周りにいた敵に対して次々と雷を落としていく。


だが【雷神】は覚えたばかりでまだ制御はあまく、雷撃の大きさは敵を簡単に覆い隠せるくらい大きいものでありながらも威力は少し物足りない。それでもこのクラスなら一撃で沈められるのも事実だ。


巨大な力をまるで試運転のような動きで敵を蹂躙するタルタロス。そのすぐ横をコウメイが通り過ぎて行き敵陣深くまで突っ込んでいく。


いつものワンマンプレイ。そう判断したリシシの選手達は複数人でコウメイを囲んで対処しようとする。


コウメイは中学MVP。その実力は高く他の一年生と比べると頭ひとつ抜けていると思われている。


ただ同時に独りよがりのプレーが多く、そして身体能力はそれほど高くはない。少なくとも一流の選手と比べると一段下と思ってしまう。


故に対処法は囲んで近距離戦で潰す。それでもコウメイは相当の実力者でリシシ高校クラスでも四人以上じゃないと止められない。そう、囲まないと。


もう少しで包囲網が完成する。そのタイミングで何を思ったのかは知らないがコウメイは突如としてその場にストップし、体を反転させて反対方向へと【風】使って逃げ出した。


囲もうとしていた選手達はその思いもしない行動に唖然とし、一瞬思考が鈍る。


その隙にクリスタル学園の陣地後方から遠距離系のスキルが飛んできて囲もうとしていた選手達は一網打尽にされて次々と脱落していく。


まさかの自分を囮にして敵を誘き寄せる作戦。あのわがままで独りよがりなワンマンプレーをするコウメイからは考えられない行動。


周りはさらに思考が鈍り……その間にコウメイは地面に手を当て、


「林」


中学時代は試合では一度も使わず、練習でも全く使っておらず……この一ヶ月ほどでみっちりと猛特訓していたスキル【風林火山】の最後の一つである【林】を使用する。


火を操る【火】、土でゴーレムを作る【山】、風を纏わせ己の移動速度を上げる【風】。では最後の【林】とはいったい何か?


その答えはすぐにわかる。彼女の周りに幾百の木が突如と生え、周りにいる味方を敵の攻撃から守り、加護を与え、自然回復を促進させることによって。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「どうやら、よほどアタルさんに痛い目に遭ったことが堪えたみたいですね」


周りがあのコウメイがチームプレーに動いたことに驚いている中、冷静に試合を見ていたイトはそう判断し口にする。


「まあ、これくらいしてもらわないと相手のしがいがないんだけどね」


大物じみたことを言っているが内心ではアタルも驚き……感心していた。あの自己中の塊(それおま案件)であるコウメイがチームのために身をこにして働いている。


アタルも元々はそういうきらいはあった。ただ彼の場合はスキル自体が支援型であり……すぐ側に本物の怪物(ロク)がいたので早い段階でそれはなくなった。


対してコウメイの場合、周りに競える相手がおらず、中学時代はワンマンチームで周りが全力で彼女のサポートしていたためその悪癖が抜けれなかった。


だが今、その弊害がなくなり……彼女はさらなる進化を遂げた。内心では厄介になったとアタルはうんざりする。


「まっ、僕が見たいのはこっちの成長だけどね」


そう言って、彼の視線はコウメイからもう一人のルーキーへと移っていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




クリスタル学園のミト。この地区でその名を知らないものはいない。もしいたとしたらそいつは他の地区から引っ越して来たばかりかモグリのどちらかだ。


新進気鋭のクリスタル学園の中でもさらに特異な存在であり現在のルーキーの中では最も強いと言われている存在だ。なにせあの四王であるアタルをも出し抜いたこともあるくらいだから。


当然ながら相手は警戒していた。が、打つ手がないという相手でもない。ミトにも明確な弱点というものが存在していた。


遠距離攻撃がないのだ。全て己の肉体だけで敵を倒している暴力の化身。けど手の届かない範囲にいればどうってことはない。


「遠距離部隊! ありったけの攻撃を放って絶対に近づけさせるな!」


故に対処法は遠距離からの数攻め。相手の監督は喉が裂けんばかりの大声で叫んで指示を出す。


そして選手達も監督の指示か、それともミト怖さか、あるいはそれ以外の理由か、事実はわからないがリシシの生徒達は遠距離から攻撃を撃ちまくる。


それらをミトは落ち着いた様子で見つめていた。彼は思う、夏前までの自分だったら苦労しており逃げ一択だったと。


しかし今は違う。師でありサティの兄であるツヴァイの元で学び、学校の仲間達と共に励んだ()()がある。ミトは両手にいつもより魔力を集めて……飛ばした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ミトの奴、射撃の腕を上げたな。と思いながら目の前にあるモニターに映る弾幕と、その奥にいる驚いた表情をした敵選手の様子を見ていた。


夏前までなんて纏うのに精一杯だっだのによ。あいつ、戦闘の才能はあるけど魔法の才能はイマイチなんだよな……ツヴァイさん曰く。


というかそもそも魔法ってどうやって操るんだって話だ。他の世界の技術で私にはまったくわからない領域だ。


ツヴァイさんに頼めば教えてもらえそうではあるけど……あの人かなりのスパルタだから絶対に地獄を見る。


それがわかっていて危ない橋を渡るなんてどうかしている。ちなみにサティは少し教えてもらいそこそこ出来るらしい。ケッ、これだから天才は。


と、私が少し暗黒面に落ちている間にミトは弾幕の中を突き切り、敵の陣地まで侵入してそのままフラグまで取ってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇



ゴールを決めたミトは一息つき周りを見渡す。相手選手は絶望に満ちた目でこちらを見ており完全に戦意を失っている。


これは勝負は決まったな、と思いながらも油断するつもりはない。


どんなところで思わぬ落とし穴があるかわからないし元々彼はそういう気の抜けた性格ではない。


と、そんな風に思っている間に彼は控え室に転移される。同時に周りからはバシバシと叩かれるという手荒い歓迎を受ける。その歓迎をミトは甘んじて受けながら歩いていく。


すると、突如としてコウメイがその行手を遮った。


今度はなんだと思いながら彼女のことを見ているとコウメイは黙って両手の手のひらを向けてきた……少し気まずそうにしながら。


ミトは少し呆気に取られながらもその差し出された手に軽く手を合わせて応える。


()()、使わなかったね」


少し恥ずかしそうに手を下ろしてからコウメイは話題を変えるためにそう言う。


「ああ。あの人達が見ているのに手の内を明かす訳にもいかない。それにあれはまだ未完成だ」


「そっ、まあいいけど。それより、次は僕のアシストをしてよね」


「ああ、わかった」




◇◇◇◇◇◇◇◇



「決まったね」


アタルはそう言うなりゆっくりと立ち上がり、観客席のゲートへと向かって行こうとする。


「アタルさん、まだ始まったばかりですよ」


あまりの行動に戸惑う一年部員達。その中の一人が大声を出してアタルを呼び止めようとする。


「これだけ見ればもうわかる」


答えるのはアタルではなくその側にいるミサワ。彼女も席から立ち上がっており、その周りにいるレギュラー陣のほとんども帰路につこうとしていた。


「相手は出鼻を挫かれ、そして実力の違いを痛感させられた」


「何より彼らはまだ力を温存している」


「下手したらまたコールドゲームだ」


イト、シュンの順番に答え、その場に残るのは一年生や補欠にも回れない上級生だけとなってしまった。


今のやり取りだけでも彼らがどれだけ強くなったのかがわかるのがレギュラーであり……おちおちしていたら足元を掬われると危機感を感じていた。


(待ってるよ……ミト・クリムゾン)


ただ一人、黄の神童、マイルを除いて。

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